紙にできること 紙にしかできないこと
英国で住んでいる街の中心部にこじんまりした書店がある。そこは小さいが店のコンセプトが詰まった選ばれた本が揃い、ひっきりなしに、一人、また一人、と店にお客さんが入ってくるようなところだ。私も中心部に歩いていくような時には必ず訪れる。というのも日本作家の英訳本が多く置いてあり、どんな本があるのかいつも興味を持っている。
今回の英国滞在は40日余りと短く、トラオさんと別行動することがほとんどなかった。そのため、本屋さんにも一度だけしか行かなかったけれど、その日、トラオさんに本屋さんにいったことを話していたら、「前に言っていた⚪︎⚪︎(隣町)にあった古書店の支店ができたんだよ。行ってきた?」という。それは気づかなかった。残念だなと思っていた。というのもこれはもう日本に帰る4日前のことだったから。
ところが、トラオさんの車に修理が必要になり、最後の2日半、車が使えないことになった。落ち込むトラオさんを尻目に、「じゃあ散歩に行こう」とウキウキと出かけたのが、その古書店だった。
入り口の一番目に入る場所にはたくさんの詩集が置かれていた。詩集、というもののが大切に取り扱われていることが嬉しかった。手に取ってみると、150年ほど前のものだった。なんだか胸がいっぱいになった。
その近くにあった小さな詩集を手に取った。表紙をめくると端正に書かれた手書きのペン書きの文字が静かに佇んでいた。100年前に、誰かに捧げられた詩集なのだとそれでわかった。
本には愛をのせることができる。それは100年経っても誰かを温める。電子書籍にはできないことだと思った。紙だからできる、紙にしかできないこと。
⌘
先日、秋ピリカグランプリが閉幕しました。ご参加くださった皆さん、あなただけの紙の物語を本当にありがとうございました。ゲスト審査員の方達にも心からお礼申し上げます。お疲れ様でした♡(まだ走り続けているめろさん、えいえいおー!)
+リンクは順不同でご紹介しています
そして、運営の皆様、今回もお世話になりました。時差もあり猫の手にしかならずすみませんでした。本当にお疲れ様でした🍵
(リンクは順不同です)
⌘
最後になりましたが、私の紙の物語をこちらにそうっと貼っておきます。
紫乃さんが連作を出されたタイミングで私も詩を、と用意していたものをのっぴきならない状況で別所に提出してしまったため、新しく書きました。紙の物語、として頭に浮かんだことは当初の通りになっています。
⌘
「ペーパーウェイト」
ふかふかとした道をゆきます
落ち葉が幾重にも舞い降りて
とりどりの深い色が
かさなりあって
まるでモザイクのよう
一日を一枚の紙にして
順番に乗せていったら
ここまで
ずいぶんと
積み上がってきたような
そんな気がします
しわしわなものや
柔軟剤仕上げみたいな一枚もあれば
半分なくなってどこかへいってしまったり
色んなものが貼り付けられた一枚もあります
どれもこれも
絶妙なバランスをとって
ここまで高くなりましたから
一枚もなくすことはできません
頬を染めた蔦のように
空に向かって
手を伸ばしましょうか
ちらちらと溢れてくる
柔らかな木漏れ日のかけらを
手のひらで受け止めて
あの紙の束の上にのせる重しを
作りましょうか
だって
風のいたずらなんかで
どれもこれも
一枚もなくすことはできません
私の分身だもの