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本の中で眠る シロクマ文芸部

本を書く、と初めて決めたのは確か小学生の頃だったなあ

と清子さんは新春でもいつも通りのカフェカワウソで、ひだまりを楽しみながら考えていました。走馬灯のように思い出すのは、お年玉で買った「白い本」のことです。

清子さんには親戚がいっぱいいました。両親ともに兄弟姉妹が多かったせいです。ですから、お正月にお年玉をみんなからもらうと結構な金額になったんです。今だったら、きっと両親も同じようにたくさんのいとこたちに配って大変だっただろうな、なんて思いを馳せることもできますが、当時はそんなの関係ありません。普段、つつましく育てられた清子さんが唯一欲しいものを手に入れるチャンス、それがお正月だったんです。

さて、清子さんにはお年玉ルーティンがありました。まずおもちゃ屋さんに行きました。そこで、ボードゲームやカルタを一つ買いました。それから本屋さんです。欲しい本や漫画を3冊買うことにしていたんです。ある年、不思議な本を手に取りました。表紙には「白い本」と書かれています。めくってみると、めくってもめくっても白紙、けれど、本なのです。貴重な三分の一にすることに全く躊躇いはなかったことが今となっては不思議です。

家に帰って、その白い本をめくっていると、白い世界に吸い込まれていくようでした。その中で清子さんは思いっきり自分の世界を広げていきました。気づくと本を抱きしめて眠ってしまうこともたくさんありました。

いつか私、本を書こう

本を買った時、本を抱きしめながら目覚めた時、何度もそう思いながら、白い本の表紙を撫でてきました。あれから、いくつも物語を書いてきました。けれど、白い本はまだ真っ白なまま、いえ、少しはちみつ色になりましたけれど、いつかの出番を待っています。けれど、清子さんにとってその本の中にはたくさんの物語が眠っている魔法の本だったのです。

本の中で眠ろう、今夜もまた。

カフェカワウソのひだまりははちみつ色をして、清子さんの中に染み込んでいきました。


☕️

小牧部長、今週もありがとうございます。
今週も無事に提出できました。

久しぶりに清子さんに登場してもらいました。
清子さんのことを書いていると本当にサクサクかけるんですよね。私の天女だわ。

ところで「白い本」ですが、1971年が初版のようです。

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