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「妹となりけり」#シロクマ文芸部

紅葉鳥が庭に立っている

清子さんはリビングのソファの上で、うっかりマグカップを落としそうになりました。日課の床の雑巾掛けを終え、ほっとソファに腰掛けた時です。庭に続く大きな掃き出し窓のガラス越しに、動くものがちらりと目の端に映りました。なんだろう、と見ると、ささやかな庭に続く雑木林に大きめな犬がいます。

ふんふん、犬かあ、と手元の本に視線を戻し、はたと、いや大きすぎる?と目を戻すとそこには、確かに美しい角を持った牡鹿が佇んで、こちらをみています。

鹿って何を食べるんだろう?鹿せんべいなんて家に置いてないし。

すぐに餌をあげたくなるのは、行くたびにあれ食べろ、これ食べろ、とおばあちゃんから言われ続けたせいなのでしょうか。調べてみたところ、どんぐりや木の皮などを食べているようです。ですからきっと間に合っているでしょうね。

しばらくこちらを見つめていましたが、ふいっと去っていきました。多分探し人をしているのだわ、といつもの清子節ひとりごとが展開し始めました。

きっとあの鹿は魔法をかけられてしまった中臣宅守なかとみのやかもりに違いないわ。時を旅して、結婚してすぐに離れ離れになった狭野弟上娘子さののおとがみのおとめを探しにきたのかもしれないわ。

清子さんのロマン飛行はどこまでも続いていきます。ある秋深い朝のことでした。

思ふ故に逢ふものならばしましくも妹が目離れて吾居らめやも   

中臣宅守(万葉集)

🦌

#小牧幸助文学賞 を楽しんでいらっしゃる方がたくさんいらっしゃいますね。アイデアの宝庫、シロクマの小牧さんです。北極に行って氷を掘ると、アイデアがいっぱい出てくるんでしょうね。地球温暖化をなんとしてでも食い止めなくては!

#シロクマ文芸部  にも出席します。

紅葉鳥 木々のまにまに 妹探し

適当な一句を読んだことからこのお話が始まりました。うふふ。俳句は適当なので、本文からは省きました。実は苦戦しましたの。昨日2000文字くらいかいたお話は全然別のものでしたが、どうにもハッピーエンディングになるまでが辛い話になってしまい、なんか違うみたいと、また全取っ替えです。

いただいたサポートは毎年娘の誕生日前後に行っている、こどもたちのための非営利機関へのドネーションの一部とさせていただく予定です。私の気持ちとあなたのやさしさをミックスしていっしょにドネーションいたします。