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お城に暮らせば
私には一つの夢がある。
誰もいない古いお城に住んでみる、ということ。
幼い頃夢で見たことがある。庭いちめん、白やピンクの花々で覆われた、でっかい白い洋風のお城。
でもそこはあまりにも晴れていて、あまりに影がなく天国みたいに綺麗なので、暮らせなさそう。
もっと住めそうなのは、また別の夢で見た森の中の小川に面したレンガのお家。2階か3階建てで、2階部分がせり出したカフェテラスのようになっていて、気持ちのいい場所。そこはお城というよりは、本当に西欧の国のどこかの街にありそうな建物をひょいっとそのまま森までつまんで持ってきたみたいな場所だった。イメージは、昔のフランス映画『美しき諍い女』に出てくるフランスの田舎の別荘みたいな感じ。その場所もやっぱり晴れていて、太陽に照らされたレンガの壁に影になった木のシルエットが映っている。
「お城暮らし」って、少女の永遠の夢みたい。映画の『リップヴァンウィンクルの花嫁』にも出てくるよね。ましろさんという女性と、主人公の女の子が二人してお城のメイドとして働いていた。
私的な話になるけれど、大学の卒論で研究したレオノール・フィニという女の画家も、一時期は孤島にある中世のお城を自らの住まいとしていた。
お城ってなんとなく孤独そうだな、と思う。「お城に住む」という言葉の響きは素敵だけれど、決してきらびやかではなく寂しそうな、隠居のような趣きがある。だから、本当に住みたいのではなくて住むのを夢見ること自体が心の支えになっているのかもしれない。小説『アルケミスト』で羊飼いの少年が出会ったメッカ巡礼を夢みるクリスタル商人みたいに。
こういうことを思い出したのも、たまたまPinterestで流れてきた一枚の写真がきっかけだった。お城の壁際に、生活感溢れる洗濯物が干されている。ほとんど夢とか理想の概念に近いお城と、現実的なプラスチック製の物干しが一緒になって存在しているのを見たら「ああ本当にお城に住んでる人がいるかもしれないな」と急にリアルに思えてきた。だからPinterestは好きだ。リアルなファンタジーが詰まってる。夢を現実に出来そうな気がしてくる。何気ない日々を生きていて、心のどこかにいつかは叶う気がする夢があるからこそ、生きていけると強く思う。だから現実的なニュースやドラマや映画を見るよりもっとたくさんのファンタジーや奇跡の物語と映像で心をいっぱいに満たしておきたい。お城に住む夢もそのうちの一つなんだと思う。
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