実際にあった未解決事件を岩井志麻子流にオリジナル書下ろし!ゾクッとする恐怖時間を(2/3)
バラエティ等にて『ヒョウ』の恰好をしその強烈なキャラクターで人気を集める岩井志麻子。
作家として『ぼっけえ、きょうてえ』で第6回日本ホラー小説大賞を受賞するなどホラー作家としても人気が高い。
そんな岩井志麻子のここでしか読むことの出来ないホラー小説。
君よ知るや南の地獄(2/3)
このS国は多民族国家なんで、それぞれの宗教施設が立ち並び、神様の密集ぶりもすごい。伝統的な寺院や教会の狭間に、怪しげな新興宗教のそれも混ざっている。
日本で食い詰めた占い師の根釜ショコラもここで心機一転、新たな能力を身に付け、霊感をパワーアップさせました!として新規の客を掴もうとしたんだろう。
その養子である息子と初めて会ったのは、観光客や金持ちであふれるベイエリアじゃなく、中華街の裏手だ。息子は夜遊びにハマって、賭博も薬もたしなむようになっていた。
「あれ、いいですよね、移民の中華系の人が阿片を煙管で吸ってるの、まったりしてて。もちろん、目の当たりにしたんじゃない。古い映像や写真でしか知らないですよ」
「阿片吸う専用の大きな寝椅子が、風情あっていいよな」
この国の中華街には、その名も死人街なる通りがある。昔、中華系移民は家の中で死ぬのを不吉なこととし、死期が迫った老人や病人はみずから、今でいうホスピスに移った。
手厚い看護や治療は望めないが、最低限の寝床と食事などは与えられ、亡くなればお経をあげてもらえ、共同墓地に葬られる。道端で野垂れ死ぬのだけは嫌だという人達が作り、集まった施設。
その跡地は、今も普通に死人街と呼ばれている。
根釜ショコラの息子は子どもの頃から、その通りを歩くのが好きだといった。
「あそこで最期を迎えた人達は、死を恐れてもいなかったし、家族に負担もかけないと喜んでもいた。あの通りを歩いていると、彼らの気持ちが自分の中に流れ込んできて、青空とも天国とも繋がって、奇妙な幸福感に包まれる。だから、あの死人街が好きです」
そこは繁華な通りで、観光客も多い。死人街の由来を示す標識も堂々とあるが、あまり気に留める人はいない。俺も、気にしたことはなかった。あの息子に会うまでは。
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