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The Big Sick

同じように主役の一人が病におかされる佳作『ビック・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』(The Big Sick/2017年/アメリカ/120分)で 主人公ふたりが ジョージ・A・ロメロの『ナイト・オブ・リビングデッド』を部屋で観賞する場面が短く挿入される
パキスタン人でスタンダップ・コメディアンを目指す主人公が 病に臥せるヒロインの父親に 9.11をどう思うかと聞かれて 「悲報です 同朋19人が亡くなった」とギャグを真顔で言う場面に解釈され 誤解された真理と真理の間に省略され 隠蔽され 切り捨てられたものたちの「リビングデッド」は笑うに笑えない語りとなる
コメディアンが 日常飼い慣らされた世界を転倒させるだけならば未だしも 本作は パキスタン人がつくったアメリカ映画として忘れ難い
エリア・カザンの姪のゾーイ・カザンが「糞がしたい!」と叫ぶ場面が 病める舞姫と化してささやきに変わるあたりの流れは 脇役陣の好演と合わせて特筆に価する
どの場面もフレームの端に 誰かやなにかの影を配し 構図より空間の印象が重視された主体とそれら影とは等価だと謂わんが如く 舞台上で演じる場面における 舞台袖斜め後方に添えられた固定ショットは 彼ら名もなきコメディアンたちを客体視する キャメラのベスト・ポジションだ

男女があらゆるレベルで対等でありながら 一方が他方のジェンダーを理解しようとする段になるとそこに広大な不可知の領域が広がる関係性を それぞれの親の世代の民族や習俗の違いを鏡(境)に反射する
とくに母親の愛が強いあたりは 民族を越えた戦禍を母性愛は宿し とりわけ主人公クメイルの行く末を決めて行くのも この母性愛からの逸脱であるあたり この映画に民族や宗教の「ベルリンの壁」は最早ない

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