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『リオ フクシマ2』

『リオ フクシマ2』(2018年/102分)岡村淳監督
2012年6月にリオ・デ・ジャネイロで開催された国連主導の環境サミット「Rio+20」と並行して開催された「ピープルズ・サミット」で 東日本大震災での原発事故を訴える市民団体の代表・坂田さんを主に追い掛け「従軍日記」の如く一部始終を記録する岡村淳のキャメラは マスコミが撮り逃す場面を尽く記録するのは当然として この映画が付かず離れずの接着力をもつのは 坂田に同行しながら逸脱する水平化した岡村の視点が 狂騒する祭りと 祭りのあとの静けさとを捉えて離さない点にあるだろう

震災すら すでに祭りのあとのように感じられる2018年に最終的にまとめられ発表された本作で 岡村の手持ちキャメラが同化するのは 民衆は横(水平)でつながれるという可能性であり その都度瞬時に巡りあう被写体に キャメラが無造作に介在するときに起こるちょっとした出来事が そこに岡村のキャメラがなければ起こり得なかったかもしれない出来事として在る点が奇跡的なのだ

土の中でつながればいい

とはバンダナ・シバの発言だが この高名な環境活動家に突撃インタビューする日本側のキャメラマンに対して 岡村はフレーム・アウトした位置にしか入らないようにとの指示がくだり あまりいい位置には入れないまま撮影を続行する
しかも結果 日本側の公式キャメラマンの映像素材がミスで使えないことがわかり 岡村の不本意なキャメラ位置の素材が使われたりと 古本業をしながら反原発運動を行い 大飯原発のフェンスに体を鎖で巻き付けるほどの活動家・坂田との微妙なポジションの違いが この映画をかえって生き活きとした「従軍日記」にしている

そう 映画の現場とは 戦略拠点ともいうべきポジション争いでもあるのだから

リオの高校生が映画の中で 電気も足りているのに なぜつくるの 原発 と素直に言う
日本のアニメの主題歌が好きな女子高生が突然 反原発的な正確な視点を示され驚かされるこの場面は 1992年にセバン鈴木が言ったことの口移しだと 上映後のトークで岡村は明かしていたが 大人が無感覚になるとはまさに 過剰な電気供給 必要以上の文化現象 そして震災がもたらした感傷による共同体とは違う
リオの生き活きとした高校生の命の耀きから発するこの声であり 日本には希薄なこの声色は 近代国家の行き着く果てなのか
われわれは 反省はあっても 総括のないまま 日々を過ごしている証左を突きつけてくる

日本の行政の反省はなく 途上国に原発は効率的でいいものと思い込ませ 庶民のなかにも原発をもちたいと思わせる深層心理を植えつける先進国の思惑とは ありとあらゆるものを自分たちの「倫理」で包装し 力ずくでわからせてやると 脅しつけるようなものだ
この環境サミットに欠席した当時の総理大臣・野田佳彦が東日本大震災終息宣言をしたのは同じく2012年末だった それは縄張り宣言であり 先の岡村のキャメラ・ポジションを制限するような物言いにそれは近く そしてそれは行政におけるフクシマの封土宣言とも言えるだろう
環境サミット自体が既に資本主義化され 社会的な弱者はそこからは閉め出されているのだとしたら この「ピープルズ・サミット」に関わること自体 忠誠関係が入れ子になっていて さまざまな特権が上から下までびっしりと組み合わされているのだ
多国籍企業がそれを食い物にすらしているサミット周辺での坂田たちの声が 同語反復に陥り ときに相手を利するとしたら その為だろう


人類には体験した苦難を長く記憶する力がない
将来の苦難を予想する力はもっと少ない
我々はこの鈍感さを克服すべきである

とブレヒトが言う通りなのだ

岡村のキャメラは 坂田たちに寄り添いつつ 吟遊詩人の如く逸脱し(実際 吟遊詩人の出てくる素晴らしい場面がある) 最後は高尾山の環境保護にも携わる坂田たちを 国立の自然公園に案内する
ここに岡村の人となりがほとんど出ていると言ってもいい穏やかなエンディングだ
ドキュメンタリー的な労働が放棄され無視された映画は いきなり祭礼になり祈りを忘れてしまうが 岡村は旅の終わりに坂田たちをミサに誘うかのようなのだ

山の呼吸を止めてはいけない 水の循環を止めてはいけない

と 雨と大地の恋愛を語る坂田も 森の中のミサに誘う岡村も このときばかりは全てに報いられている
雨はジャングルと村を涼しく保っている
森と人間の双方にとっての本当の滋養は 雲から降り 空気中に留まり 滝から落ち 川へと流れ込み 澄んだ深みに注ぎ 渓流や小川を満たし 村や町を通り抜ける雨水なのだ
そしてこの映画もまた 水と土の循環そのもののように 自然な映像の流れを刻刻と記録し 編集してきた岡村のマスター・ピースとして 語り継がれるだろう

この日の上映は 高槻市民交流センターの一室で行われた
たまい企画という人たちが おそらく手弁当で素敵なチラシをつくり 関係者を含めて15人程度の観客が この幸運に立ち会った
水戸喜世子さんが特別ゲストに招かれ 彼女の一言一句にも胸がつまった

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