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建築家と理想の家づくり:(4)家づくりのお金のリアル
はじめに
前回までの連載で、僕の家づくりにまつわる「理想」とか「要件」の話をしてきたけど、今回はそれをいよいよ現実に引き戻す「お金の話」をしてみようと思う。正直、お金の話って地味だし、面白みがないうえに気が滅入るかもしれない。でも、家づくりを進めるうえで、どれくらい予算があって、それをどんなふうに使っていくかは避けて通れない大事なポイントだと思う。
使えるお金は有限だし、ローンを組むにも返せる金額と期間には限界がある。第3回で「家づくりにおいて要件を生むのは理想で、制約を生むのは資金計画」みたいな話をしたんだけど、まさにこのテーマこそが、理想と現実をどうバランスさせるかの肝になる。
今回は僕自身の経験をベースに、土地の取得から建築費、それ以外の雑多な諸費用やローンのことまで、ざっくばらんに書いてみる。「資金計画はしっかりしてこそ楽しい家づくりと後の生活がある」ということで、肩の力を抜いて聞いて頂ければと思う。
お金は家づくり最大の「制約」
家の間取りやデザインを考えているときは、あれもやりたい、これも欲しいと想いが広がってワクワクする。だけど、どうしても「そこにいくらかかるか」という壁が立ちはだかる。僕もできるだけ理想を詰め込みたいと思ってやってきたけど、建築家と相談を重ねる中で、「理想をあきらめずに予算に折り合いをつけるのは、他ならぬ自分の責任」ということを痛感した。
そもそも建築費だけでなく、土地にいくらかけるか、諸費用がどれだけ発生するかによって、家づくり全体に使える金額が左右される。都内で土地探しをするなら、土地代が家づくりの半分以上を占めることもあるし、もともと実家の敷地を活用できるなら土地代はかからない。その分、建物に回せる予算が増えるかもしれない。ただ、どんな人でも「懐の中身」を考えながら注意深く進める必要はあると思う。
家づくりにかかる主な費用
一般に、家づくりのお金は大きく3つに分けられる。細々と分類することはできるけど、全体像をざっくりつかむうえでは「土地の取得費用」「家の設計・建設費用」「その他の費用」の3つに分けるのが良いと思う。
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1. 土地の取得費用
土地を購入する場合、いきなり大きな出費が先に立つことになる。ここで頭金と残金に分けて払うことが多いけど、印紙税や不動産仲介手数料、司法書士報酬や登録免許税なども意外と馬鹿にならない。
もし古い家屋が建った土地を買って自分で解体するなら、解体費が次で述べる設計・建設費用に上乗せされることになる。「更地渡し」で売主が負担してくれることもある。契約条件によっては総費用が変わるので、不動産契約時にしっかりチェックする必要がある。
2. 家の設計・建設費用
ここはまさに家づくりの主要部分。どんな構造(木造や鉄骨など)にするか、どんな内外装や設備を選択するかで金額が大きく変動する。坪単価で考えても幅が広くて、木造建築で5万円~15万円以上なんて言っていた時代もあるし、最近は資材や人件費の高騰でさらに上がっているかもしれない。
また、僕の場合は建築家に設計を依頼したので、建設工事費の15%程度の「設計監理料」もかかった。さらに地盤改良費や、外構(玄関アプローチ、駐車スペース、植栽など)の工事費、そしてもちろん消費税…と積み上がっていく。単純に「家の本体工事費=全額」とはならないことを知っておかなくてはならない。
3. その他の諸費用
敷地や地盤の調査費、各種申請費用、ガス・水道・電気・ネット回線の引き込み、家具や照明、カーテンの設置費、工事中の仮住まいと引っ越し代、それから祭事費用(地鎮祭や上棟式など)も別途かかってくる。
どこまでを「家づくりの費用」に入れるかは個人の考え方にもよると思うけど、最初から費目だけでもリスト化しておいて、概算を入れておくのがベターだと思う。
「見積より高くなる」は前提と考える
僕の感覚からして、家づくりにおいて「初期の概算どおりピタッと収まった」なんて話は、かなりレアケースだと思う。設計が進むにつれて、「ここはもうちょっと高い素材にしたい」「バスルームだけは譲れない」「あ、やっぱりここに窓が欲しい」とか、次々に要望が湧いてくる。僕もいろいろこだわって検討しているうちに、気づけば最初の概算を25%オーバーしてしまった。
最終的には自分の理想と予算のすり合わせを何度も繰り返し、「本当に必要なものはどれか」「あとからでもできることは後回しにするか」などを検討して、なんとか実行可能なラインに落とし込むことになる。
住み始めて、後から追加できるものを後回しにするのは良い方法だと思う。一方で、後から追加できないような設備や要件を削るのは要注意。数年たって金回りが良くなって、「これくらいだったらやっておけば良かった」と思っても、後の祭りだ。
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資金計画とローンの組み方
家づくりに充てられる総資金としての「予算」を適切な精度ではじめから持っておくことがとても重要。自己資金をどれだけ用意できるか、親の援助を受けられるか、住宅ローンをいくら借りるか、その返済期間や金利タイプはどうするか…こういうことを事前にシミュレートしないと、完成前にお金が回らなくなるリスクもある。
ちなみに世の中でよく言われる「住宅ローンは世帯年収の5倍まで?」とか「固定金利がいいのか変動金利がいいのか」みたいな話は、時代や個人の状況によっても正解が変わると思う。最近になって長期金利が上がり始めたし、マンション相場も高騰を続けており、僕の時とも事情が変わっているのでここでは割愛する。
僕の場合は、コロナ前から着手してコロナに突入、当時も木材価格高騰とかコロナの影響での設備共有不全みたいなトラブルが懸念されたのだけど、ギリギリうまく影響をかわして竣工できたのはラッキーだったと思う。
いずれにせよ、大事なのは決死の覚悟で無理な予算を組むようなことはせず、最悪の事態も想像しながらも、それでいて夢の為にある程度頑張る計画をたてるってことだと思う。
支払いタイミングとバッファの重要性
土地を買うタイミング、設計の契約をするタイミング、建築中の進捗に合わせて段階的に支払いが発生するタイミング…建売やマンション購入と違い、建築家との家づくりでは、まとまった金額の支払いが何度にも分けて訪れる。この管理を甘く見ると、ローンの実行前に現金が足りなくなってあたふた、なんて笑えない事態にもなりかねない。
僕は資金計画と実際の支払い状況を管理するために、結構なシート数からなるExcelシートを作っていた。最初の概算とその後の変更履歴、ローンの実行スケジュール、支払日と支払完了のステータスなどをぜんぶ1つのファイルで一元管理していた。結構面倒くさかったけど、後で「あれ、支払い済んだっけ…?」と混乱することがほとんどなかったので、これはやっておいて正解だった。
それから「予算バッファ」の確保。たとえばシステム開発のプロジェクトでも、想定外のトラブルに備えてコンティンジェンシー予備費と呼ばれるバッファ枠を積んでおくのが定石なんだけど、家づくりも同じ。家の設計中や施工中に「ここにオプションを足したい」「やっぱりこの壁材がいい」なんてなることは日常茶飯事。そんなときに追加のお金を全く用意していないと、泣く泣く諦めなきゃいけない。
最初からそんな枠を設定するのは難しいかも知れないけど、カツカツのまま進めると、後々禍根を残すような妥協を強いられることも。この連載の最後の方で、自宅売却の話もできればと思っているけど、住み替えの場合は、それまで住んでいた自宅をなるべく高値で売却して、売却益を家づくり資金に充当するというのも一つの手。僕の場合は、ここで結構頑張って、いわゆるバッファを作り出すことに成功した。
まとめ
今回は資金計画の話を中心に書いてみた。正直、家づくりの中でもいちばん地味で重苦しいところだと思う。でも、理想の暮らしを実現するには、「限られた予算をどう配分・管理するか」が要になるのは間違いない。
資金管理とか予算の話は仕事みたいで嫌になることもあるけど、結局そこをしっかりやっておくと、家づくりそのものがスムーズになるし、完成後の生活を落ち着いて楽しめるはず。ぜひ「面倒くさい」と思わず、自分なりの管理方法を編み出して、家づくりを成功させてもらえたらと思う。
僕はもうローンを返すだけ(笑)ではあるけれど、住み始めて4年目にはいっていろいろと追加工事やリフォームなんかも計画している。家づくりと金策はまだまだ終わらない。。
(2025年2月12日)