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マブラヴオルタ世界の”都”

前回の続きとして、オルタ世界の首都、京都や東京について考えたことを紹介したい。シリーズを通してプレイしたことがある人は少し思い出してほしいのだが、オルタ世界では「東京都」という呼び方が全く用いられていない。「東京」という呼称はあるのだが、「都」が付かないのだ。「東京」または「第二帝都(98年以前)」「帝都(98年以降)」と呼ばれている。

個人的に間違いないと思っているのはオルタ世界に「東京都」という概念は存在しないだろうということである。現実世界では1860年代に江戸が東京府となり、首都が東京に移って市政の施行で東京市も作られた。その後、1943年に東京都が生まれ東京市が消滅して都政に移行するのだが、オルタ世界ではこの都政移行は行われていない可能性が極めて高いと思われる。そもそも東京都の誕生は二重行政の解消という名目で、中央政府への集権が目的であった。しかし、オルタ世界では京都が首都のままであり、中央行政は京都に存在する。東京はあくまで経済の中心であり、機能が分離されているのだ。また、首都である京都の価値を重んじているオルタ世界が、”都”という名称を東京に許すとも思えない。従って、オルタ世界では東京は東京府のままであり、東京市も存在している可能性が高い。同時に、様々な描写から京都も京都府・京都市のままだろうと予想される。

微妙な表現として、漫画版マブラヴオルタネイティヴでは「都内」という呼び方は出てくる。だが、これは東京都というより、「帝都」を指して使われていると考えるべきだろう。オルタ世界では「帝都」という呼称がよく使われる。98年以前は京都が、以降は東京が「帝都」と呼ばれている。

オルタ世界では明治以降の政治形態が現実とは大きく異なる。何しろ大政奉還の際に将軍家と討幕派の大同団結が成立しているのだ。つまり、我々の現実世界でいうところの徳川家が志向した様に、オルタ世界では将軍家を中心とした議会制政治形態への移行が実現していることが分かる。従って戊辰戦争も起こっていないし、保守派士族の反乱も起こっていないと予想される。こうなると当然政治の中心に居るのも現実の明治政府とは全く異なる人材になっており、あらゆる政治・行政のシステムが変わっていると考えるべきであろう。「東京都」という呼称が出てこない理由はこのような背景を汲んでいると推測する。

この「京都を首都として重んじる」世界であることを示す、ささいな表現が帝都燃ゆには多くみられる。例えば以下はBETA襲来時の官房長官の発言の一部である。

【瀧元官房長官】「主要幹線道路及び高速道路は上りは全線、下りは近畿以西を軍事優先にしたが、規制の無い区間では避難の車列が築かれ、東名高速下りでは240kmに及ぶ空前の大渋滞だ」

避難民は近畿・中部から東へ、軍事関係車両は京都方面へ移動していると予想されるのだが、それを踏まえて考察すると、オルタ世界では「京都に向かう方向を上り、京都から離れる方向を下り」と表現していることが分かる。これは東京を中心として上り下りを表す現実世界とは異なるものだ。特に東京・京都間の上り下りの表現は逆になることが分かる。首都が京都のままであることを意識し、このような細かい表現に気を遣えるのがアージュ作品の魅力であり、作品に入り込める理由でもあろう。

ちなみに、マブラヴでは「県」という言葉もほとんど出てこないのだが、こちらは一応本編にも番外編にも僅かに現れるので存在はしていると思われる。市町村は頻繁に出てくるので地方行政制度として市政の施行は行われているのだろうが、廃藩置県の実態については現実と少し違うかも知れない。まあ藩を無くすのも保守派武家からは批判されるだろう政策であるから、理解はできるのだが。トップ絵などを見れば少なくとも境界線の引き方は現在の都道府県と同じである。また、北海道だけは名称も頻繁に出てくるが、「道」という区分は都府県よりはるか以前からある地方の呼び方なので、参考にはならない。逆に「府」という呼称は全く出てこないので、存在しているかどうか不明である。上で東京府、京都府と便宜上呼んでいるのも私の予想である。メタ的な話をすれば創作上の都合だろうが、須野村や天元町のように実在しない地名も登場するため、どこまで真剣に考えるかは難しいのだが、世界観をベースに考えるとこのような予想も楽しめるというわけだ。

また、オルタ世界の市町村は少なくとも2000年代の合併ラッシュ以前の形になっているため、現実世界の地図と表現との矛盾を突き合わせるのは資料的になかなか難しい作業になる。私が調べた限りは、導線や領域、呼称の間に矛盾は無いように思えた。余談だが、日本の昔の地図を調べるのはシュバルツェスマーケンの調査で行った東ドイツ当時の地理を調べるよりは簡単であった(笑)。

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