因果律量子論と並行世界②
前回は並行世界についての考察を書いたが、今回は同一世界軸における時間ループの話である。正直これは因果律量子論とか全く関係ない完全なSFである。
先に世の中のループものSF作品に関して、そのループ原因などをまとめてみると、大体が「自分も含めた誰かの超能力」か「夢・非現実」の2種類に分けられる。その他「世界そのものがそうなってしまう」というパターンもあるが、原因はともかく、メカニズムが不明な場合もある。はっきり言ってしまえば、アージュが好きそうなのは夢落ちパターンであり、実際に武も「夢を見た」という類の表現を多用している。変な言い方だが、オルタ世界の最後1回以外はループではなく夢(正確に言えば、確定した瞬間に夢だったことになる)なのかもしれない。実際にオルタの最後に語られる真相解明も基本的には武の言動を基に夕呼先生が考えた「仮説」であり、作品内でも正しい保証は皆無だと言われている。ただ、それだけだと考察の必要はないので、ここでは本編で語られている純夏とBETAによるループ構築仮説について深堀りしてみたい。
基本情報として、先生の仮説では「G弾の爆発時に生じた時空のゆがみで純夏の意思と反応炉が相乗的に機能し、オルタ世界に居なくなった武が他の世界から再構築された」、「さらに、純夏が武と結ばれない限り、武が死ぬと同時に世界が2001年10月22日に戻る」というものである。また、「元の世界」の夕呼先生の仮説では「因果導体にした原因を取り除けば全てなかったことになる」という話だが、これは後述の通り少し疑問がある。加えて、ループ時に武の記憶が残ってるのか残ってないのか問題も議論の余地があるところだ。
議論の前提として、「世界移動」と「ループ」は別の現象と考えなければならない。そもそも作中でも「別の世界の違う時間軸に行く」ことと、「同じ世界で時間移動する」ことは全然違うと言及されている。これを混同するとややこしくなるので注意が必要だ。
ではまず2つの現象「武の世界移動」と「世界のループ」の原因を考えておこう。前者の根本原因にして最初の移動が起こったのは純夏の武に会いたいという願いがBETAの反応炉によって増幅され、G弾による時空の歪みとG元素の消失に伴って生じたエネルギーを利用した結果である。それ以降の世界移動などは、この時に結果として生じた状態の不安定さ=ポテンシャルエネルギーの高さ=因果導体化という残存事象によって起きている現象ということだ。一方で、後者の世界ループは初手こそ上記の現象と同じであるが、起こっている実態は全く異なる。「武が死んだとき」というループ条件は純夏の意思とは思えないからだ。そうならば「武が純夏以外と結ばれたとき」でないのはおかしい。武が死んだとき=因果導体という結果が消滅したときに世界がループするというのは、純夏の意思が反映された結果ではなく、世界の物理法則に書き込まれたルールに従って、自動的に摂理として生じた一現象として見るべきなのである。ただし、この法則解除条件自体には純夏の意思が間接的に関与しているのは間違いないが、正確に言えば世界に影響を与えている実態はBETA由来技術だと考えている。つまり、細かい原理はさておき、純夏の思念がBETAの技術を介して「世界」という単位のルールを書き換えたということだ。
従って、ループの解除条件は本編でも語られている通り、「純夏と武が結ばれる」ということだろう。正確に言えば、そのあと純夏が反応炉を介してBETAにその思念を反映させることが必要だったと考えられる。「もうやり直したくない」という深層心理を世界に反映するという、そのプロセスを経ることで、成立時とは逆に世界のルールからループ現象が解除されるのだ。他方で、この条件では「因果導体」という存在は解除されていないというのも重要な点である。なぜならこの2つの事象は上記の通り、別の機序に基づく現象だからだ。
少し補足すると、上記の仮説が正しいなら「純夏の消滅」はループ解除(ついでに言えば因果導体の解除もそうだと思うが)の条件ではないはずである。仮に純夏の消滅自体が条件であれば、そもそも00ユニットになった時点で解除されないのが謎だからだ。00ユニットはあくまで疑似生命であって、あらゆる要素において純夏本人ではない。なので純夏の存在が厳密なルールに基づいて因果導体やループの解除に影響を与えるのであれば、00ユニット時点で変化が無いとおかしいのだ。だからこそ、「純夏の思念とBETA側の何か」という間接的な影響を考慮することが一番矛盾しない。BETAが純夏の思考と認識できる00ユニットの疑似人格が、そのまま因果導体の維持に繋がったというわけだ。
補足すると、TDA世界で武が純夏の脳みそを破壊したことによってループが解除されたという考察がよくあるが、上記の理由でそれは無いと思っている。そもそも純夏自体の消滅が重要なカギであるなら、これは因果導体解除の条件も満たしており、それなら武も消滅するはずだからだ。従って、「純夏と武が結ばれて、満足したという情報」が「BETA側に伝わる」という過程を経ない限り、ループ条件は解除されず、武が死ねばやり直しの世界は続くと考えられる。
では「因果導体」からの解放、つまり元の世界に戻るカギは何だったのだろうか。上記の通り、純夏の消滅でないことは確実である。加えて、FINALエピソード以降の世界(AF世界)が純夏の意思を反映した世界であるという事実が、純夏の能動的な行動の結果であることを示唆している。それを踏まえて考えれば、上記のループ解除条件を満たしたうえで、「武が元の世界に戻って幸せに暮らすことを心から願える」という心情をBETA側が受け取ることではないだろうか。桜花作戦時に重頭脳級とコンタクトしたことで、純夏のその意思が伝わり、最初に起こった「武に会いたい」「武と結ばれたい」というプログラムを全て解除することができたのではないかと考察する。
以上が、並行世界の理論を踏まえた、同一世界でのループに関する私の考察である。原因が消滅すれば結果が消滅するという理論は一見正しいように見えるが、実際にはそんなことは無い。そもそもオルタ世界でも、その理論が正しいなら武が世界にもたらした現象は全て無かったことになるはずである。その点に関して言えば、そもそも影響を受けた並行世界の側が本当に再構築されるかどうかについても議論の余地があるところだが、それは世界のルールによるところだと思う。次回はそのあたりの並行世界やループ世界の在り方について考察したい。