#5 クレジットカード決済の仕組み〜オーソリ・クリアリング・セトルメントの話〜
はじめに
ここからはVisaやMasterard等の国際ブランドの決済の仕組みについて触れていきます。ざっくり流れはオーソリ→クリアリング(売上)→セトルメント(清算)です。詳細は今後書いていこうと思ってますので、まずは概要を説明します。
オーソリ
オーソリ(=オーソリゼーション)は、わかりやすく言うと加盟店でカードを使った時に、カード発行会社(ISS)に
「この金額使えますか?」の承認をとるためのオンライン手続き
のことです。#1の国内ネットワークの決済における決済の座組みで少し書きましたが下図のネットワークルーティングでオーソリが実行されます。
ちなみに、VisaとMastercardそれぞれのオーソリにおける国際ブランドネットワークのシステム名は以下の通りです。
・Visa:VIP(以前はBase1と呼ばれてた)
・Mastercard:BANKNET
また、ICチップの搭載が義務化されているのは#4のカードの表面仕様でも説明した通りですが、ICカード決済における国際標準仕様はEMVCoという団体が定めていて、EMV仕様と呼ばれています。現在ではカードを利用する場合は決済端末に挿して暗証番号(PIN)を入力するか、対応している端末なら一定の金額以下でタッチ決済が使用できます。実はこれどちらもEMV仕様で、挿すのを接触EMV、タッチ決済を非接触EMVと言ったりします。
追記:EMVについては「#6 クレジットカード決済の国際標準仕様」に書きました!
このEMV仕様の中でオンラインで承認が必要と判断された場合、オーソリ手続きに入ります。オーソリ電文には取引金額や取引時刻の他に、ICチップから読み取ったカード情報や、EMV仕様で必要となる暗号文などの多くの情報が設定されイシュアに仕向けられます(現在は少なくなってますがオンラインオーソリを必要としないオフライン取引もあります)。
イシュアはオーソリ電文を受け取ったらEMV仕様における必要な認証と、カードが使えるか判断し、利用を承認する場合には許可する旨と承認番号を付与してオーソリをレスポンスします。
追記:オーソリ時のIC認証については「#10 クレジットカード決済のIC認証〜ARQCとARPCの話〜」で書きました
クリアリング(売上)
クリアリングは加盟店がカード会社(アクワイアラ)に対して売上確定の連絡をして、売上金の請求をする手続きです。
請求の流れはオーソリと同様で、加盟店→国内売上センタ→カード会社(ACQ)→国際ブランドネットワーク→カード会社(ISS)の流れで売上データ(クリアリングデータ)がバッチ送信されます。
オーソリでは国内ネットワークとしてNTTデータのCAFISや、日本カードネットワークのJCNがありましたが、クリアリングの場合も主に同社が運営する以下の国内売上センタ(クリアリングセンタ)を介します。
・NTTデータ:CDS
・日本カードネットワーク:J-TRANS
また国際ブランドネットワークのクリアリングシステムの名称は以下の通りです。
・Visa:Base2(最近はRSIとも言う様子)
・Mastercard:GCMS
オーソリからクリアリングの流れ
ここまでのオーソリとクリアリングを簡単に絵にしておきます。
国際ブランドネットワーク決済を語るにあたり、よく会話に出てくる用語が、以下です。
・Outgoing(アウトゴーイング):ACQから国際ブランドネットワークへオーソリ電文もしくはクリアリングデータを仕向けること。資料上だと「O/G」と表記されたりします。
・Incoming(インカミング):ISSが国際ブランドネットワークからオーソリ電文もしくはクリアリングデータを受け取ること。資料上だと「I/C」と表記されたりします。
最初はシステム用語なのかと思いましたが、カード会社では一般的な業界用語なので正しく理解しておいた方が良いです。
デビットカード・プリペイドカードとの違い
#2 カードの種類で説明した通り、基本的にクレジット・デビット・プリペイドで異なる点はその原資の違いです。
インフラは同じ国際ブランドネットワークを使用しており、前項のオーソリとクリアリングの図で言うと決定的に異なるのは「利用可否判断」で何を原資に判断をしているか?になります。
厳密には国際ブランドネットワークからIncomingするイシュアのホストシステムがクレジットシステム、デビットシステム、プリペイドシステムで別システムとなっています。クレジットについては旧来からの自社システム、デビット・プリペイドについてはASPサービスを利用しているイシュアがほとんどかと思います。
セトルメント(資金清算)
国際ブランド決済におけるセトルメントはイシュアとアクワイアラ間の資金の清算を言います。利用された金額(ISS→ACQ)や、IRF(ACQ→ISS)等がある一定期間ごとに相殺されて資金清算されます。これを計算するのが国際ブランドの役割となります。カード会社以外のプレーヤーはあまり意識しない領域ではあります。
なお、加盟店への利用金額の支払い(加盟店精算)はアクワイアラが実施しますが、ここは国際ブランドは基本的に関与しておらず、あくまで加盟店とアクワイアラで結んでいる加盟店契約に基づいてされることになります。国際ブランドのセトルメントが完了する前にアクワイアラが加盟店への支払いをする場合は立替払いとなることもあるので、加盟店の審査/加盟店管理が重要となります。
また利用代金は最終的に会員(カードホルダー)へ請求されますがこれは会員契約に基づいてイシュアが実施します。これも加盟店精算と同様に会員からの請求が完了するまではイシュアがアクワイアラへ立替払いをすることになるので入会審査が重要です。会員への請求は現在はほとんどのイシュアがWeb明細を採用していますね。
まとめ
クレジットカードの決済はオーソリで利用承認、クリアリングで売上確定、その後のカード会社間のセトルメント(資金清算)を国際ブランドが間に入って相殺で実施していることを説明しました。売上の確定はクリアリングデータでされるものの、これはオーソリ時点(=カードを利用する時点)で承認されたものに基づいてされるため、オーソリでどこまで不正を防ぎ正確な取引ができるか?が非常に重要です。
今後さらにオーソリまでに端末とカードでどんな処理がされているかや、オンラインオーソリの処理の仕組みについて書いていこうと思います。
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