LETTERS for 「LAMP IN TERREN」 2014-2017ー『fantasia』が魅せた軌跡と未来 ~「響き合ってください」という言葉の真意~
※こちらは2017年当時に書いたものです。こちらに関しては、間違いなく下記のリンクの15Pから読んだ方が色々な写真や映像と共に見れて楽しいです。僕らが創ったacylという動くウェブマガジンです。是非。
acyl vol.1 ※15P~16Pに掲載。
2017年6月30日。LAMP IN TERRENは『fantasia』という2枚目のフルアルバムを携えたツアー「in “fantasia”」を完遂した。『fantasia』という作品が、自らのライヴにどのように影響をもたらすのか、そしてどのようにリスナー/オーディエンスに対して届くのかーーおそらく、今までの作品以上に、その変化を敏感に感じ取ろうと彼らはしていたはずだ。
その理由は明白である。このアルバムは松本大(Vo/Gt)自身も「正直、どう思われるか怖い」と別の機会に筆者が行ったインタヴューでも語っていたように、LAMP IN TERRENにとってデビュー以来最も変革的な作品と言えるからだ。まずは、このアルバム自体を振り返ろう。
まず一聴して感じるのは、彼らが今まで音楽的カテゴリーとして語られてきたシンプルなギターロック/歌モノバンドというカテゴリーから翔び立ったことが明白だということ。彼らにとって初のフルアルバム『LIFE PROBE』の制作時期に、大屋真太郎(Gt)がバンドに復帰することが決まり、その時期から松本は明確に自らのソングライティングに関して殻を破り始めた。それはライヴで表現できるギターの音がひとつプラスされたという側面に留まらず、同期を駆使したバンドフォーマットを超えた世界を完全に手にしたのだ。このアルバムに収録された楽曲の中でも、最も早く世の中にシングルパッケージとしてドロップされた“M5“innocence”では、松本自身が自宅にキーボードを購入したこともあり、鍵盤の音色を完全にバンドサウンドに導入し、新たな表情を得た。その進化は、会場限定版で先にリリースされたM4“heartbeat”にて、ひとつの完成形を見る。彼らがシーンに登場した時から他と一線を画していた特徴と歩みを進めるごとに楽曲が纏ってきた特徴ーー楽曲が放つ「緊張感」と「安堵感」の双方をひとつの楽曲に内包できたのだ。松本の咆哮とザラついたギター、そして大屋の流麗なギターリフが美しさと儚さを生み出すことで眼/耳を離せない「緊張感」を。そして、楽曲全体を包み込む心臓の鼓動と血液の循環を表すような川口大喜(Dr)と中原健仁(Ba)リズム隊の懐の深さは、松本が描いたラヴソングの世界と呼応して「安堵感」を生んだ。
つまり、この『fantasia』と言うアルバムは、完成前から彼らが違うステージに向かっている予感はあった。実際、その予感は間違っていなかった。ギター、ベース、ドラムというバンドフォーマットを完全に彼らは抜け出たのだ。
その白眉として2曲を挙げたい。M2“地球儀”とM6“at(liberty)”である。まずは前者に関して。同楽曲は実はデモとしてはかなり前から存在しており、松本自身「踊れる歌モノって新しいよね」と語っていたが、まさにその言葉が正しい。今までの彼らにはない、エレクトロな要素を含む煌めく音像と共に、海外式のウェットなリズムが観客の体を自然と揺らす力を得た。そのサウンドスケープを持ちつつも、松本の綴るメロディは今までと同様に大きく羽を伸ばし、歌をまったく犠牲にしていない。<ここから始めよう 音に乗って/素晴らしい日常の中へ/いつまでも光っていよう>と、今までになく前向きにオーディエンスと共に進んでいこうという姿勢を紡いだ同曲は、間違いなく今の彼らに生まれた新たなモードを証明する楽曲であると言える。そして、後者のM6“at(liberty)”。この楽曲は、実は原点回帰とも言える彼らの陰の部分を究極形として提示した楽曲と言える。もともと彼らの楽曲は、松本の抱える世界に対する孤独と疑問を吐き出す世界ばかりが描かれていた。同曲は完全に松本の孤独の清算のような叫びを、新たな音像で表現したもの。Coldplayなどに通じるスタジアムロックの潮流を汲みつつ、冷たい鍵盤の旋律と松本の圧倒的な言葉と歌の力が映える、邦楽ロックの新たな一面を垣間見る出来栄えだ。中でも、サビ箇所の松本が放つ圧倒的な咆哮は、畏怖の念を覚えるほどのエモーションを迸らせていて、新たな姿を表現している。
このように、「音楽」として間違いなく変革を迎えた『fantasia』。この作品はライヴ
の光景をも一変させた。筆者自身は「in “fantasia”」というツアー初日の札幌公演と、ファイナルの東京公演を見届けたのだが、初日の時点で今までのLAMP IN TERRENが生み出してたフロアとは一線を画していた。松本はMCで「このツアーは『fantasia』という国を旅するものになっております」とは話していたのだが、その旅という表現に違いなく、楽曲ごとにコロコロとフロアの表情は変化。その理由は明白で、このアルバムが今までに比べてグッと楽曲の色彩の幅が豊かになったからだろう。時にはハンドマイクでオーディエンスを先導し、心の赴くがままに楽曲を表現する松本。もはや再加入したメンバーという要素は感じない、ステージングの巧みさも滲み出るようになった大屋。バンドのバランスをとりながらも、オーディエンスに対して時には熱く拳を振り上げる中原。自らの手足を通して、完全にフロアのノリをコントロールする川口。ーー楽曲が導く空気感をフィジカルに表現し切っている彼らの姿は、以前に比べとても頼もしく見えた。中でも、“地球儀”を披露した際のフロアの盛り上がりは、いわゆる歌モノシーンには見られない盛り上がりで、完全に新境地を開拓したと断言できる(ツアーファイナルで、松本がフロアまで降りてオーディエンスと共に踊り狂うシーンはバンド史上、エポックメイキングなものだった)。
『fantasia』という作品は、松本の心の旅路を音像/歌詞としても描いたものでありながら、その空想を現実世界で実現するための作品だったのだろう。その実現において、松本はステージ上でより自らを曝け出す必要があったのかもしれない。このツアーにおいて、彼はいつになく素直だったのだ。ステージ上においては、楽曲に対する感情をエモーショナルに歌声に乗せ、体全体で彼自身が音楽を楽しんでいた。加えて、MCで彼が吐露した言葉もあまりにも素直なものだった。
ーー「皆さんにもらった、ありがとうや気持ちが僕に音楽を書かせてくれます」
松本は、今までにもオーディエンスに対して感謝の意を表すことはしてきたが、ここまで率直に感謝を伝えることはなかった。自らの音楽が変化したことにより、オーディエンスから返ってくるレスポンスがより強くなったことも、おそらく起因しているのだろう。音楽を作る理由にオーディエンスの存在があるということを、遂に彼は自らの言葉で語ることができた。そして最も印象に残った一言がある。彼が何度も何度もライヴ中投げかけていた言葉だ。
ーー「響き合ってください」
この言葉に辿り着くまでに、どれだけの旅路があったのだろう。「一緒に行こう!」でもなく「来い!」でもないーーこの「響き合う」という言葉には、元々はメンバー同士で音を鳴らし合うのが楽しかったと語っていた松本の原風景と、リスナーと共に音楽を共有することによって彼自身の中に生まれた歓びと願い、その全てが内包されている。
彼らが今後生み出す音楽がどこに向かっていくのかは、最早予測が難しい。それほどまでに彼らは音楽の表現に自由を得たからだ。ただし、ひとつ断言できるのは、この『fantasia』というアルバムが彼らに見せた光景と、リスナーと共に「響き合った」実感が内包された音楽となるであろうということ。きっと、それはどんな形であれ聴き手に更に寄り添う音楽に違いない。地球上の微かな光という名を持ったバンドは、少しずつだがその灯火を頼もしくしつつある。あなたと響き合うことで、その光は大きくなる。そうやって、ずっとLAMP IN TERRENは歩む。
(text:黒澤圭介/photo:浜野カズシ)
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