見出し画像

刀さに:心を織り、時を重ねる

刀さにという言葉に聞き覚えのない人間はこれを読むな 約束だ 
ついでにこの刀さにには以下が含まれる

・男審神者
・自本丸解釈(政府との関係その他含む)

この辺を考慮してほしい。


ヘッダーは私が描いたものなので安心して欲しい。
現在は鍵垢なので辿れないが、同じものをpixivに置いているのでよかったら見てね…(良すぎる)

(あと昔書いた別の刀さに小説もある)

刀剣乱舞10周年おめでとうございます㊗️




審神者業に就いて10年の月日が経とうとしていた。本丸では式典に合わせて各々装飾をしたり政府に提出する書類などの後始末に追われていた。そんな中、「君は功労者だから大人しくしてて!」と言われ行く当てもないまま自室で転がったままどうしたものかと頭を悩ませている者がいた。

「いや俺より君たちの方が功労者では〜………?」

静かな部屋の中で虚しく呟きがこだまする。景趣は年がら年中紅葉の落ちる秋の夜長に固定していたが、さすがに華やかさが足りないだとか折角の節目だからだとかで半強制的に政府から贈られた大輪の花を設置させられた。
時折廊下をすれ違う刀達が手を振ってくれるのに対し振り返しつつ、先ほどから何度も考えている思いに結論を出そうと頭を捻った。久方ぶりに見た日差しは暖かく、外に出ろ、陽を浴びろと口酸っぱく言われたことに心の内から詫びを入れる。畑はビニールハウスのような不思議な仕組みで、本丸内に光が差さずとも人工的な昼夜が設定されているから別にいいじゃんとごねていたのだ。

「あったか…」

そよそよと柔らかな風が頬を撫で、ほうとため息をつく。瞑った瞼にふっと影が落ち「主」と声がかかった。

「暇してるなら付き合ってくれよ」

目を開けた先には金色が降り落ちていた。眩くこがねは鈍くも光り、わずかに背から光を透かしてきらきらと瞬いていた。金糸と同じ煌めきがじっとこちらを射抜いている。

「近侍様は指示が忙しいんじゃないのか?」
「なに、そもそも歴が長い奴らが多いからな。俺がそこまで関与するようなことは少ないのさ」

思っていたよりも長く畳の上に転げていたからか、起こした背が痛みを訴える。

「ふわ〜ぁ…」
「ハ、だらしのねえ顔」
「加州にも言われたことある、そんな酷いかよ」
「それなりに」
「あーあ口悪ぃ〜」

軽口を叩きながらも手を引いて起こしてくれる姿に胸の内が暖かくなる。

「久方ぶりの日差しはどうだ、この不精者」

骨ばった足が膝に蹴りを入れる。獅子の名を冠する男を見上げれば、その薄い銀褐色の瞳と目が合う。自分がよく知る獅子王は演練などでもよく見るタイプとは異なり、最初の一振り以外の個体も含めて全てどこか大人びていて老獪な印象を与える。その落ち着きは己にとって長らく安寧を維持してくれる必要不可欠なものであった。

「あー……そう、だね。眩しい」
「忙しい中に政府からの褒賞として100振を下賜するって連絡があっただろう、うちに新しく来たのは片手で足りる人数だったが。主が気持ちよーく寝てる間に前作ったリストに合わせて練結したり習合しといてやったからな、あとで確認しとけよ」
「うっ、ありがと…」

10年もの間審神者業に就いてはいるものの、己の都合により政府と交渉の上で、審神者が不在でも近侍や初期刀など一部の刀が本丸を切り盛りして本丸を維持することに許可を出してもらっていた。そのため、実質己自身が審神者業に就いていたのは就任直後の4、5年余りだけであった。節目ごとに顔を出してはいたものの、その度に知らぬ顔が増えていっていて、こんな調子では他の刀たちに申し訳が立たないから、別の本丸に任意転籍してはどうかと勧めたこともあった。だが、それなりに信用してもらっていたのか、誰1人として首を縦に振ることはなかった。

「あぁいたいた!獅子王、向こう大体着替え終わった、あと俺とお前だけ」
「着替え?」

廊下の角からやってきたのは最もこの本丸での滞在記録が長い初期刀、加州清光であった。少ない資源の中で初めて修行に行くのを見送った日のことはまだ覚えている。

『俺、必ず主の力になれるように頑張るから。だから主も自分のしたいこと、やらなきゃいけないこと頑張って』

またね、と振り返らずにゲートをくぐっていった背中は今考えてもあまりに凛とした潔いものだったように思う。
手紙を貰いながらも、ずっと本丸の中でよく聞こえてきていた彼の声が聞こえなくなって、留守なのだと思い知らされたものだ。日が経って、『ただいま』と再び現れた彼の立ち居振る舞いは以前より一層洗練されて、その清廉さと美しさに思わず『神様だ…』とこぼして『元からだけど?』と意地悪そうに笑まれたのも懐かしい。

「ちょっと?主、しっかりして!…日差し浴びなさすぎてどっかバグったのかな……獅子王、ちょっと蹴り倒してみてよ」
「さっき膝を突いたばかりなんだが」
「生ぬるい」
「ハハ」

瞬間、ぱん!と景気のいい音が飛び込んではっと我に帰る。音がした方を見上げると、手のひらを開いた状態の獅子王と、呆れたような顔をしている加州清光。盛大な破裂音は彼が手を打ち合わせた音なのだと気づいて、さすがにしゃんとしたほうがいいかとようやく立ち上がる。

「そういえば…着替えって何?俺何も聞いてないんだけど」
「は〜〜?!誰にも聞いてないこたないでしょ、政府からセレモニーの招待あったでしょ!和装でも洋装でもいいからフォーマルな格好で来いって言われてたじゃん」
「俺たちの仕立ても希望を出して欲しいと言われててなぁ、…そーいや書類を出した時は俺が印を押してるから主は知らねえかもな!ハハ」
「いや俺らの伝達ミスじゃん!?!!」

若い見た目だがあくまで平安刀、悪いと口にはするもののその素振りは「まあなんとかなるだろ」と言いたげで、加州の眉根に皺が寄っていく。

「………もう、いいや…。主はそういうフォーマルなやつは持ってるの?」
「前にオーダースーツなら光忠と獅子王に見繕ってもらったのがあるし、袴がいい〜つって5年目の時に作ったやつに堀川が手を加えたのがあるけど」
「な、ナイスタイミング!!じゃあスーツの方にして!俺多分見たことない!!」
「了解〜」

集合時間、あと1.5時間後に移転ゲート開けるからね!とそれだけ言い残してばたばたと加州は部屋を去っていった。きっと普段から綺麗にしている彼のことだから、とっておきのお洒落をしてくるんだろうなという気持ちと、俺が無頓着じゃなかったらな〜という申し訳なさが少し湧く。

「獅子もいいよ、俺もこの通りちゃんと起きたし…ネクタイと留め具だけあとで見てくれたら助かる」
「……燭台切が選んだ方じゃない方にしてくれ、って言ったら嫌か」
「ええ?……別に…いいけど。セレモニーには近侍同伴だからペアルックみたいにしたいってことでしょ?」
「それもあるが……俺があんたの為を思って誂えた服に袖を通して欲しいだけさ。あんたはいつだって…本丸を離れていた期間がどれだけ長かったとしても、俺がここへ来てからただの一度も近侍の任を解いたことはない。それ以外にも、俺があんたを好いて信用を預けている理由はある。10年の節目だ、こんな些細な願いくらい聞き届けてくれたっていいだろ」

そこで「獅子王らしく」にやっと笑ってみせるので、反射的に視線を逸らしてしまう。

「………ずるい男」
「ハハ、言ってくれる」

絞り出した憎まれ口はさらりと返されてしまい、これも惚れた弱みだろうかとため息をつく。

「ネクタイは前に贈ってもらった臙脂色のものにするよ。…あと、ネクタイリングも1年目に記念でくれたのにしてもいい?5年目の時に和装だったからまだしまってあって…」
「当然。あんたに似合うと思って誂えたんだから活用してくれないと困る、それに今回はあんたも驚くくらいいいコーデになると思うぞ」
「……困ったな、獅子がそれ言う時絶対かっこいいんだから」
「時間遅れないように気をつけろよ、初期刀サマにどやされるのは御免だぜ」

ひらりと手を振って先に部屋を後にした男の足音が聞こえなくなってから、小さく息をついて部屋の衣装棚へと手を伸ばした。

開いたゲートの前で仁王立ちする加州に詫びを入れながら、セレモニーの流れを再確認する。その説明が終わるかどうかといった辺りで「待たせた」と声が割り込む。

「時間通りだろ」
「ぴったりすぎ!…まあ獅子王が遅れるとは思ってなかったよ、今説明終わったとこ」
「ご苦労」

パスワードとか認識番号とか忘れそう、と本丸の方を振り返って、そこにいた男の姿に硬直する。いつもよりも少しばかり緩く結ばれた髪は艶を放ちながら首元を滑り降りていて、肩口を囲むように上質な毛皮(にしか見えない鵺)を羽織り、上から下までを黒塗りに落とし込んだような艶やかな出立ちの男がそこにいた。品のある黒地は漆黒の闇夜のように深く、日差しを浴びて僅かに陰と陽を区切って体に更に明暗をつけていた。黒漆に金砂を散らしたような装いはまさに黒漆太刀拵を擁する刀そのもののあり様であった。鈍い金錆色のネクタイは胸元で白線と共に黒塗りの装いに花を添えている。

「か、か………かっこいい………」
「だから言っただろうが」

心底笑いを噛み殺せないようで、そのまま近寄ってくるとこちらの装いを全身見つめながらネクタイを直したり袖のカフスを留め直してくれたりと最後の仕上げをしてくれた。

「じゃあ主、俺たちはあとで本丸別に招集される時に合流するから!演説中に寝ないでよ!そのめちゃくちゃキマってる男に恥かかすから!わかった!?!」
「は、はーい……」

ゲートに足を踏み入れると、すぐに景色は移り変わって政府のビル前に変化する。ここへ直接訪れるのも5年ぶりだろうか。集合時間にはまだ余裕があるはずだが、既に審神者の手続き列には思い思いに着飾った審神者たちが並んでいた。

「ア〜〜……あれに並ぶのか……」
「清光も言っていたが、あんたはちゃんとしろと言われるよりも『俺に恥をかかさないように』と言われるほうが効くらしいからな。頼むぜ」
「……わかってる、俺こそずっと頼りにしてる」

少し眉尻を下げた男を見つめれば、ぽんぽんと腕を叩くように励まされる。

「こういった緊張の場が苦手なのは知ってる。そういうときこそ俺の事でも思い返して心持ち強く持ってくれ、な?」
「……さすが代理歴長くて肝座ってるだけある」
「そこは刀だからなァ、勝負所に強いんだろ」

どうした、と問われる。何も言わない己を訝しんだのか、男が下から顔を覗き込み、くしゃりと笑んだ。

「…まだ早い、泣くなよ」
「っし、獅子…」
「ああ」
「…10年、支えてくれてありがとう……」
「闘気迸る戦場と、懐かしき人の想いに触れさせてくれて俺こそ感謝してる。手のかかるあんたの世話も10年経ちゃ慣れたもんだ、そうだろ」

俺はあんたの刀でいることを選んだんだぜ。

そう答えた金獅子はあまりにも眩く、あまりにも煌めいていて、また涙が溢れてこぼれてしまいそうだった。



いいなと思ったら応援しよう!