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2人の悪魔 #4 ⚠️

君は彼の言いなり


⚠️この作品はR18表現を伴います。



雪山を抜け、森を抜け、ようやく住処に戻ってくる頃には陽はすでに地平線へと沈みかけていた。帰ってきて早々、フェニは勢いよく寝床に倒れ込んだ。微妙に怪しい音を立てたものの、寝床が崩壊することはなかった。うつ伏せになったまま何度か深呼吸をする。今朝口にしたばかりの果実の香りがうっすらと残っていたようで、それを吸い込んでしまったことを速攻で悔いる。悔いども悔いども時すでに遅しで、折角宥めてもらった体はやんわりと熱を持ち始める。うつ伏せの状態からごろんとひっくり返って仰向けの姿勢になると、尾が寝床から少しはみ出して床にずるずると伸びた。
一息つくと、よいせと寝床にちゃんと横になる。仰向けになっていても、何も状況は良くならない。なんなら、こちらはあの雪山よりも温度が高く、熱に浸食されるのも時間の問題だからだ。

「……覚えるって、言った」
『最初で最後だからちゃんと覚えろ』
「頑張るって……言ったっけ……?」

彼の元に辿り着いた時は結構限界だったので、自分が何を口走ったかもかなり曖昧だ。それでももう一度、と頼るわけにはいかないのでどうにかこうにか記憶を手繰り寄せる。ほんの数刻前のことなのだから、一度服を楽にして手を差し込んでみれば意外となんとかなったりするものだろうと思っていた。……のだが。

「(な、に……?なんか、へんだ…)」

あの時と同じようにしてみているはずなのに、全くもってあの「ぞわぞわ」が訪れない。触っているなと、その感覚があるだけ。熱を持った時は「ぞわぞわ」をたくさん出してあげればいい、みたいなことを言っていたような。どうやって?

「どう、してたっけ…」

己の大きな手、長く伸びた爪では皮膚を容易に傷つけてしまう。それを恐れて手のひらでしか触れていなかった。服の隙間から手を引っこ抜き、ぼんやりと爪を見つめる。

「………のび、るよな」

誰にともなく呟いて、ゆっくりと起き上がる。切ることもそうそうないだろうからと棚の奥深くにしまい込んでいた爪切りを持ち出し、寝床の隅でぱちんぱちんと爪を切った。切り終わってからはあっけないものだと思ったが、自分がなんのために爪を切ったのかを思い出すと、なぜか「ぞわぞわ」が背筋を通り抜けた。腰の、腹の、胎の奥がざわついている。
一度湧いたぞわぞわは消えることなくじわじわと増えてきている気がする。はやく、と思いながら洗面台の辺りを適当に漁る。すると、以前別の悪魔に押し付けられた潤滑液が出てきた。そのボトルの封を躊躇いなく開け、中身を手に取る。半透明で粘り気があり、ふんわり甘い香りがした。片手で液体を馴染ませるようにすると、少し冷たかった液体は徐々にぬくみを持ち、わかりやすく温かみを感じるくらいの温度になっていた。液の方に何か不都合がないかを確認したところで、軽く手を洗ってから適当な布を寝床へ放り投げる。その上へ横になると、ず、と下肢の衣服をずり下ろした。空気に晒され、ぴん、と少しだけ芯が持ち上がっている。
ボトルを傾け、中身を適当な量取り出して芯に纏わり付かせるように塗りたくっていく。彼がしていたよりも多少ぎこちない動きだが、上下に擦るようにすると、ぬちぬちという水音と共に強めの「ぞわぞわ」がフェニを覆い尽くし始めた。

「……っ、ふ、ぅ…」

つつ、と指先で根本から先へ向けて裏筋を伝うようにすれば、腰が浮く。息が荒くなり、口は勝手に「もっと」と動く。手つきは本能に直結していて、手は芯を弄る手を緩めるどころかより一層しつこくいじくり回すようになっていた。

「(たり、な…)」

けれど、どんなにぞわぞわの波が来ていても、なんとなく決定打に欠けるのだ。それが困って仕方ない。ぞわぞわがそこまで来ているのに、蓋が閉まって解放しきれない栓のようだ。困惑と焦りがもくもくと煙のように頭の中を占有していく。どうしよう、どうしよう、どうしたらいい?

「っひ、…ぅう…」

涙がぽたぽたと寝床を濡らす。泣いたところで誰も助けてなどくれやしない。部屋の中に粘着質な水音と鼻を啜る音がこだまするだけだ。

『泣くんじゃねえよ、好きな奴のことでも考えろ』
「すき…、…わ、かんねえって…ぇ、」
『駄々こねるんじゃねえよ、ったく…』
「だ、だって、……う、どうして、どうしてっ…、お前が出てくるんだよぉ…!っひ、」

泣きながら目を閉じても、頭の中にちらつくのは薄青の男の姿だけ。端正な横顔にわかりやすく面倒臭いと書いているにも関わらず、あれこれ手やら口やら出してきた男。触れた冷たい手。記憶を頼りに、芯を握っていない方の手で服の上から臍の辺りをなぞる。腰布を緩め、ガードの緩んだ下腹部をそっと撫でるように、徐々に力を加える。あれがしていたように、指を少しずつ増やして、最後に手のひらでぎゅっと。

「っ、……!?っあ、ぁ、なに、ぎゅ、ってし……」

臍の下あたりを押しただけなのに、芯の奥、腹の内辺りがむずむずと蠢いた気がした。それと同時にそれまで訪れていたぞわぞわよりももっと強い波が下肢と腰をぐるぐると巻き込んでいく。望んでいたものだと思った。

「ひぐ、ぅっ、うう……」

涙が次々こぼれ落ちるのも厭わぬまま、不規則に腹部を押し込める。合わせて芯もゆっくりと扱いてやれば連動して腹の内がびくびくと震える。
口の中で何回も、「もっとぎゅっとして、」と呟く。そうしたら願いが叶うかのように。

『…ン、ちゃんと言えて偉いな。いい子だ』
「……っ、!!………っあ……嘘………」

派手な音はなかったものの、手の甲に少し薄まった乳白色の液体が垂れ落ちていく。出た、という安心感とは別に、腹の内の刺激がぞくぞくとした、何かを期待するかのような動きに変わったことになぜか恐れを感じた。知ってはいけないことを知ったような。
とは言え、うっすら漂っていた熱はすっきり覚めていて『復習』もきちんとできたことに安堵した。手のひらに出た苦味のある液体をはた、と眺める。確か、物好きがこれを人に飲ませるとかなんとか言ってたような。それを話すハーゲルは少し遠い目をしていたような気がする。美味しそうなものとはかけ離れていることはその臭いからもわかる。わかっているはずなのだが。
フェニは液が甲からゆっくりと流れ落ちるのを見つめながら、小指の先から膝の上に垂れかけたそれを口にした。

「…………おぇ"……」

本当に舐める奴があるか、と脳裏で罵る声が聞こえた気がした。

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