Investor's Business Daily (IBD)におけるMarket Pulse判定方法の検証
1. はじめに
1/13/2022に質問箱で以下の質問を頂きました。
今回はInvestor's Business Daily (IBD)におけるMarket Pulse(市場環境)がどのようなルールで判定されているのかを考察してみましょう。
本Noteを書き上げるにあたり、仕事でなかなか時間が取れなかったことに加え、過去のデータを確認するのに時間を要してしまい、質問に対する回答が遅くなってしまいましたことをお詫びします。
2.Market Pulseについて
まずはMarket Pulseとは何か?についておさらいしておきましょう。
Market Pulseは、IBDが毎日発行する"The Big Picture"の中で確認できる市場環境を表す指標で、3つのステージの何かで示されます。
①Confirmed Uptrend(上昇トレンド)
市場環境が健全な状況にあることを意味します。
②Uptrend Under Pressure(やや不安定な市場環境)
この状況下では新規の銘柄購入は慎重に行い、現在保有中の銘柄が順調に推移しているかを確認する時期となります。必要に応じて利益確定も検討しましょう。
③Market in Correction(調整局面)
所謂下落トレンドにあることを意味します。全銘柄の3/4は市場全体のトレンドに追随すると言われているため、調整局面での新規購入はリスクが高くなります。ポートフォリオをよく観察し、利益を守り、損切りを迅速に行いましょう。この時期には、ウォッチリストに追加する銘柄をスクリーニングし、市場が上昇トレンドに入った際に、即座に行動に移せるようにしましょう。
3.Distribution Daysについて
Distribution Daysについては以下のツイートを参照ください。
4.Follow-through Dayについて
Follow-through Dayについては以下ツイートをご覧ください。
5.Market Pulse判定に係る検証
次に、IBDがMarket Pulseをどのように判定しているかを検証してみましょう。以下の表は、11/1/2021以降 2/23/2022迄のNASDAQ/S&P 500の日次騰落率とIBDのMarket Pulse、Distribution Days / Follow-through Dayカウント、Leaders Up/Down in Volumeのリストです。
上記リストを見ながら、チャートでMarket Pulseが変わったタイミングを検証してみましょう。
①11/30/2021:Uptrend Under Pressureへ格下げ
下記チャートをご覧ください。
主な要因は、NASDAQ Compositeで21d EMA(水色)を下回り、出来高を伴って(50日移動平均比・前日比で)11/26/2021の安値を下回ったことによるものです。実は、11/26/2021にもS&P 500/NASDAQ Composite共に21d EMAを下回ったのですが、NASDAQ Compositeの方は出来高を伴っておらず、格下げ判断が保留になりました。
②12/3/2021:Market in Correctionへ格下げ
上記チャートをご覧ください。
主な要因は、S&P 500/NASDAQ Composite共に12/3/2021の終値が出来高を伴って(50日移動平均比・前日比で)50d SMAを下抜けしたことによるものです。S&P 500の出来高は厳密には前日比では微減となっていますが、両指数が揃って終値で50d SMA下抜けした事実を重視したのではないかと思われます。
S&P 500では12/1/2021に終値で出来高を伴って50d SMAを下抜けしたのですが、同日のNASDAQ Compositeでは辛うじて終値が50d SMA上で踏み止まったこともあり、格下げの判断が保留となりました。格下げ判断においてはNASDAQ Compositeの方に重きが置かれることが多いのが特徴です。
③12/15/2021:Confirmed Uptrendへ格上げ
下記チャートをご覧ください。
こちらは、Market in Correctionとなった翌日起算で8日目にFollow-through Day認定され、Confirmed Uptrendとなりました。同日の上昇率はNASDAQ Composite:+2.15%、S&P 500:+1.63%でした。
Follow-through Dayは、Market in Correction入り後の株価上昇が3日連続で継続し、かつ4日目以降で+1〜+1.25%以上の株価上昇が出来高を伴って発生することで認定され、晴れてConfirmed Uptrendとなります。
4日目以降の株価の上昇幅については、市場の状況によって過去より閾値が頻繁に変更されてきています。以下のツイートも参考にしてください。
④12/17/2021:Uptrend Under Pressureへ格下げ
上記チャートをご覧ください。
12/17/2022のUptrend Under Pressureへの格下げの要因は、1)S&P 500におけるDistribution Day(売り抜け)カウントの増加(+1)と、2)NASDAQ 100=$QQQにおける2021/10中旬以来の50d SMA下抜け(下記チャートに記載)という2つのイベントになります。
12/15/2021がFollow-through Dayとなり、Confirmed Uptrendに格上げになったのも束の間、その2日後の12/17/2021には再度Uptrend Under Pressureに格下げとなってしまいました。この日はS&P 500でDistribution Dayカウントが+1となりました。
12/17/2021はTriple WitchingというSQ日で、オプションや先物の取引期限満了日であったため、出来高が大きく増加しました。SQやTriple Witchingについては以下ツイートを参照ください。
加えて、12/17/2021はNASDAQ 100 = $QQQで初めて終値ベースで50d SMAを下回った日でした。以下チャートの右側の黄色丸部分をご覧ください。Market in Correctionとなった12/3/2022でさえ、終値ベースでは50d SMAを下回ってはいませんでした(以下チャートの赤丸部分)。
⑤12/23/2021:Confirmed Uptrendへ格上げ
下記チャートをご覧ください。
主な要因は、NASDAQ Compositeが終値ベースで12/16/2021の高値を上回り、更に、11/22/2021の株価ピーク以降の高値に接するトレンドラインの上方で取引を終えたことによるものです。NASDAQ Compositeはこの日に50d SMAを1%近く上回りました。
⑥1/5/2022:Uptrend Under Pressureへ格下げ
上記チャートをご覧ください。
主な要因は、NASDAQ Compositeで1/5/2022の終値が出来高を伴って(50日移動平均比で)50d SMAを下抜けした他、11/22/2021の株価ピーク以降の高値に接するトレンドラインを再度下抜けたことによるものです。NASDAQ Compositeの出来高は前日比では微減でしたが、50d SMA下抜けというイベントを重要視したのだと思われます。
尚、S&P 500は50d SMAを下抜けしていませんが、21d EMAを下抜けしている他、1/22/2021の株価ピーク以降の高値に接するトレンドラインを下抜けている点も上記判断をサポートする内容と言えます。(出来高は厳密には前日比では微減となっていますが、上記イベントを重要視したと言えます)。
⑦1/18/2022:Market in Correctionへ格下げ
下記チャートをご覧ください。
主な要因は、NASDAQ Compositeの1/18/2022の終値が出来高を伴って(50日移動平均比・前日比で)大幅下落し200d SMAを下回ったことです。その他、PivotからBreakoutした銘柄のほぼ全てが売り抜けにあっていることも補助的なサポート材料となります。
⑧1/31/2022:Confirmed Uptrendへ格上げ
上記チャートをご覧ください。
こちらは、Market in Correctionとなってから最安値をつけた1/24/2022から起算して6日目にFollow-through Day認定され、Confirmed Uptrendとなりました。同日の上昇率はNASDAQ Composite:+ 3.41%、S&P 500:+1.89%で、何れも出来高を伴って(50日移動平均比・前日比で)いました。更に、S&P 500については同日に200d SMAを上抜けたことも上記認定をサポートする材料となっています。
1/13/2022の高値を起点として以降のローソク足の高値を結んだトレンドラインを前日の1/28/2022に上抜けしていることも見逃せません。
但し、NASDAQ Compositeは依然として200d SMAを下回っている中でのFollow-through Day認定であることは異例です。私自身は、この判断は実は時期尚早だったのではないかと見ています。
尚、実はS&P 500とNASDAQ Compositeでは前日の1/28/2022にそれぞれ+2.4%と+3.1%上昇しており、上昇幅だけ見ればFollow-through Day認定されてもおかしくはない水準でしたが、同日の出来高は前日1/27/2022の出来高よりも減少していたため、認定据え置きとなりました。さらに、S&P 500では依然として200d SMAを下回っている他、NASDAQ Compositeでは株価上昇銘柄と下落銘柄の比率が2対1以下であった点も弱さを示す動きでした。
⑨2/11/2022:Uptrend Under Pressureへ格下げ
上記チャートをご覧ください。
主な要因は、S&P 500とNASDAQ Composite共に、前回1/31/2022のFollow-through Dayでの終値を2/11/2022時点で下回ってしまったことです。加えて、S&P 500では200d SMAを下回ってしまいました。
前回Follow-through DayからDistribution Day(売り抜け)はS&P 500で2回目、NASDAQ Compositeでは3回目とまだ少ない回数でしたが、上記のイベントを重要視した判断であった他、Pivotからの強いBreakoutが特定の業種でしか見られないことも要因として挙げられます。
⑩2/23/2022:Market in Correctionへ格下げ
下記チャートをご覧ください(直前のチャートと同じです)。
主な要因は、NASDAQ Compositeが終値ベースで年初来安値を更新してしまったことです。S&P 500では終値ベースではまだ年初来安値を辛うじて上回っていましたが、NASDAQ Compositeでの値動きを重視してMarket in Correctionへと格下げとなったものです。
6.おわりに
如何でしたでしょうか。ちょっとでもIBDのMarket Pulseの考え方を身近に感じて頂けたらうれしく思います。
S&P 500もNASDAQ Compositeも、主要移動平均線である50d SMA/200d SMAの水面下にある他、直近では21d EMAに株価が跳ね返されてしまっており、典型的な売りポジションを立てることが推奨される地合いになってしまっています。
このトレンドですと、しばらく下目線が続きそうですが、どこかのタイミングで21d EMAを出来高を伴って上抜けし、50d/200d SMAを大きく越えていく日が遠からずやってくるのではないかと考えています。もうしばらくの辛抱ですので、頑張って行きましょう。
上記情報が皆さんの投資判断のお役に立ちましたら幸いです。
それでは、またお会いしましょう。
See you again!