『ビロクシー・ブルース』観劇感想
相変わらずご贔屓の新納慎也さんご出演作『ビロクシー・ブルース』を何度か観劇しています。主にご贔屓様注目目線の感想雑記です。
まず正直、もともとはあぁいう軍とかザ・アメリカの若者的(直接的に汚くて下品)なのって好みではないのですが、もしかしたら演出が女性なので少しはやんわりされたのかな?覚悟してたよりはましでした(笑)
新納トゥーミー軍曹出てきたとたんピリッとします。最初からなんかマズそうな人が上官になっちゃった感満載な登場。
軍曹の最初の長台詞がすぐに出てくるのですが、普通に軍曹の話に耳を傾けてたら、急に単語がどんどん出てきて「え、これどれだけ続くの!?」って、話の内容よりもその情報量と、それがよどみなく一気に出てくることにまず驚かされました。そしてあとでセリフにも出てくるけど、それこそが彼の長い軍隊生活、しかもただ長いだけじゃなくどれだけどっぷりの軍隊生活だったのかを表していて、とにかく軍隊一色のヤバい上官の説得力ありあり!長台詞を喋っていると思わせるよりも、ここでまずトゥーミーという人物と歴史をうかがわせるシーンになっていますね。この隊での1日目の軍曹とのやり取りが本当に面白い。テンポも間も。そしてあのテンポでどんどん5人の新兵たちを指名し個性を露わにしていくトゥーミー軍曹はやはりそうとうな切れ者でもあるのでしょう。だから(あの時点では)高圧的ということだけでトゥーミーを「自分より頭が悪い」と判断して敬意を払わないエプスタインのことはちょっと分からないのだけど。。。
そういえば囲み会見のときに、「めっちゃ喋ってるのにその長台詞が舞台進行的にはBGM」って言ったり言われたりしてたけど(本来そのセリフを受けている新兵たちに目が行きがちだから)、私的にはトゥーミー軍曹の勢いに吸い込まれてて、完全にメインでしたよ。
夕食のテーブルに現れた軍曹、ここでも飲み物持ってる(笑)、って最初はブギウギの客席でティーカップでお紅茶飲んでた松永さんと重なってちょっと楽しくなっちゃいました。
でもあんなところにまで不意に現れては隊員をピリッとさせちゃえるのも、あの最初の腕立て伏せなんかが効いてる証拠ですね。あんな細身な上に滲み出ちゃう品をまとってる新納さんなのに、南部出身のコンプレックスと悲惨な体験から、かなり厄介な軍人にすでに見えているのは新納さんの芝居力でしょう。理不尽で受け入れがたい人物なのに従わざるを得ない(エプスタイン除く)人物造形。そしてそれはもちろん、それを受ける新兵たちのお芝居あってこそ。
夜中にタンクトップ姿で出てくるのも…ね。びっくりしました(笑)。あんなお姿、久しぶりに拝見した気がしますが、まったくスタイル変わってない。若者たちの誰より美しい。細身なのに威厳を保てるあの肩幅と、グレタさん(BENT)の時に一度柔らかいフォルムになっていた時とはやはり違う上腕。見惚れちゃいます。
10週間の訓練期間のうち1ケ月ほどが経って48時間の外出許可が出たシーン、この時点ですこーし軍曹の新兵たちへの情が感じられるような気も(恩着せがましさもあるけど笑)。ちゃんと褒める言葉もあることはあるし、ここでのことはただの理不尽ないびりで起こった事件ではないだろうし。ここで袖をすっと上げて手首を出して腕時計で時間を計る姿がまた素敵。袖先をつまんで元に戻すところまで。
エプスタインと2人で話すシーンは芝居感バリバリだし、2人を見る緊張感がたまりません。トゥーミーはきっと、エプスタインほど歯向かってくる新兵は初めてだったでしょうね。生意気で憎々しく思っていることも確かだろうけど、きっとここまでやりあえる新兵は他にいないから、「規律に従う兵士に育ててやる」ってものすごく闘志を掻き立てられてるだろうな。規律規律って言うトゥーミーだけど、さりげなく「みんなの命は守る」って言いきってるんだよね。さらっとそう言った軍曹にはちょっとグッときちゃいます。そして規律のみが信条な彼は人種差別してないですよね。新兵たちの差別を戒めるときに「ポーランド野郎」って言ったことはあるけど。
夜中の2時15分に兵舎に入ってくる鬼軍曹の寝起き感がなんとも好き。髪もちょっと寝ぐせっぽくなってたりして、そういう細かいところも好き。「(潔く前に出て)当中隊の…」って言うときに一瞬ため息っぽく息を吐く表現も。軍曹、情けなくて悔しい思いなんだろうな、と。
ヘネシーを呼びに入ってきたときは、銃のホルダー着けている軍曹。単純にその姿自体はめちゃくちゃかっこいいんだけど、銃があることの威圧感に対してわずかに肩を落としている軍曹の姿がもうなんとも言えず切ない。「俺だってこんなことは好きじゃない」ていうこれまでなかった言葉に、軍曹の本心が見えて、ロボットみたいな鬼軍曹じゃないのがわかってくる2幕。それまでビシッと立っていた軍曹が、ヘネシーの着替えを待つ間は壁にもたれてるっていうのも。泣き崩れるヘネシーを立ち上がらせて連れて行くときも、強引に引きずっていくんじゃなくて、彼を支えて歩いていくっていうのが人間味を感じられて。
そしてそして、鬼軍曹のラストシーン。これはもう、本当に、素晴らしすぎて。毎回意識が吸い込まれて見入ってしまう場面。新納さんの演技から目が離せず何度も鳥肌が立ちました。あの求心力に客席の空気も変わっていくようでした。最初はね、軍曹、急にどうした?って思ったし、酔っ払って目をつけてる新兵を呼びつけてタラタラ暴言を吐くなんて最高に理不尽で嫌なやつじゃん!って思えたシチュエーションでした。でもすぐに、何かあってやさぐれてめちゃくちゃに飲んでるのが察せられます。いっちゃってる感と人間味が折り重なってて、見ていてちょっと辛い。そして暴露される生い立ちの一端。トゥーミーという人の人間性に納得、というか、いっきに奥行きが現れる瞬間。これまでの言動がみんな符合していく感じ。彼の通ってきた1本道が分かるから、このいっちゃってる自暴自棄感が怖い。その姿があるからこそ、これから行く先が彼にとってどれだけ絶望的なのかが見えて、先の言葉を聴くのが切ない。彼がこれまで捧げてきたものを思うと、乱れた髪の奥の瞳の哀しみが切なくて、思い切り味方してあげたくなりました。そしてあの夜、新兵たちのゲームにこっそり加わって5ドルをベットしていたなんて聞いたら、新兵たちのこと最初から大好きじゃん、って思えたり。にしても、彼の最後の賭けは本当に秀逸。最後まで身を捧げて新兵を彼の思う立派な軍人に仕立てようとした意地とかプライドとか極端さとかは…哀しくも虚しくも滑稽でもあり、輝かしくも清々しくもあり。エプスタインにしてみれば、最後まで尊敬はできない人物だったと思うけど、最後にあんな風に本気で向かってきて受け入れてくれた大人は嬉しかったんじゃないだろうか。あの夜の腕立て伏せ事件で、もしかしたら無条件の信頼というのを最後にトゥーミー軍曹は餞別にもらえていたのかも。服装を整えて覚悟を決めた軍曹、あの場を去るとき彼らを背に一瞬口元を緩めて微笑んだ軍曹、規律正しい軍人らしく敬礼をして去る軍曹、とてもかっこよかったです。あんな軍曹だったからこそエプスタインの申し出を受け入れた部分もより微笑ましく。ただただ理不尽に鬼軍曹なわけじゃなかったマーウィン・J・トゥーミー軍曹。奥深くに隠し持っている人生がある彼は、とても新納さんが演じる人物らしさがありました。こういう役を演じられているのもとにかく見応えがあって大好きです。
もう新納さんは出ていないシーンですが、ラストの列車シーンで語られた新兵たちのその後。彼らの青春を垣間見た後で語られた戦争の話は辛かったです。あのとき、先のことを知らずにいられて良かった、という言葉に、いっきにそれまで見てきた彼らの日常が重なってきて胸が締め付けられました。最後まで割と淡々と男の子の青春を見守ってきたつもりだったのに、そこから先の彼らが、急に誰か知らない大人が始めた戦争に駆り出され体や心の一部を失ってしまう未来に繋がってしまったことを思うと…。特に、もう歌えなくなるカーニーの歌声や、それに合わせて失われる右太ももを叩いてリズムを刻むワイコフスキを見て。
戦争とか人種といったテーマがもちろんありますが、最終的に、先も見えずただ今をありのままに突き進んでいた頃、っていうのに帰結して、なんだか胸の奥がキュンとする余韻がありました。
そしてやはり、「過激であることの刺激」はみくびれません(笑)。新納トゥーミー軍曹による印象は大きかったです。一際の存在感と演技力、その余韻は大きくていつまでも胸に刺さっています。本当に見応えのあるトゥーミー軍曹を観られて大満足でした!
その他細かい雑感。
・5分前のワンベルが進軍ラッパなのが可愛い
・オープニングの「Biloxi Blues」って描かれたペンキの液だれが血糊のように見えて、いっきに戦争を感じさせられる
・個人的にはどうしてもトゥーミー軍曹大好き目線で観ちゃうから、時折「エプスタインめ」ってなる(笑)
・「ナチのサービスガールたちとくらいは」って言いづらそう
・ドル紙幣を掲げて見せる軍曹の指先越しに見るまさコフスキーの表情好き
・「赤ん坊を連れて帰ってくるなよ」ってエプスタインが冗談言うの好き。あ、親友にはこんな冗談も言えるんだよね、って和む
・カーニーがダンスに行く前にユージンの写真撮ってたから、後で効果的にその写真が出てくるのかなーと思ったけど、何もなかったのちょっともったいない感じ。あの写真をデイジーにあげられたりしたのかな
・ロウィーナが持ってる毛の生えたサイ?のスツールが可愛くて欲しい
・カーニーは休暇の後ベッドで手紙を読んでいたり、タバコを吸うときにジッポライターを見つめたりしていて、シャーリーンを想ってるのかな、っていうところ好き
・ワイコフスキとセルリッジのジャイアンとスネ夫感
・デイジーの無邪気がポップ。神に敬けんなのにユージンに対してはどこか軽くて、最後には顔も見ず去って行ってしまうところだけは妙に回顧録っぽかった(ユージンの記憶のイメージの3D化みたいな)。最終的にホロビッツ姓になった彼女、結婚相手はユダヤ教徒…?