ひねくれ大学生日比野くんの日記 〜大学4年生 (1回目) 編〜
この記事は「ひねくれ大学生日比野くんの日記」の2019年度総集編(再掲)です。
全記事(ほとんど)140字で書いています。
自粛週末のライト(どライト)な読み物にしてもらえたら幸いです。
昨年の6月に突然舞い降りるように爆誕した日比野が、まさかこんなに続くとは思ってもいませんでした。
皆さまがクスっと笑えるネタを提供するため、日比野は日々がんばります。
*
2019年
6月24日(1)
日比野は両手で机を叩いた!
PCの画面の中で、「自分らしく」と謳う人らが徒党を組み、「嫌われろ」と教える人らがまあまあ好かれ、「鈍感力」を自慢する人が実は鋭敏で、「孤独を愛する」と言う人はよく愛されていたからだ。
そして日比野は気付いた。
俺は俺であると同時に俺ではない。
6月26日(2)
日比野は頭を抱えた!
ネコを飼ったらモテると思っていた。いやそんなことより、飼い出したのは癒されたかったからだ。しかしそうはならなかった。
彼はそもそもネコが好きでなかった。
机に突っ伏した日比野の肩にネコがそっと手を置いた。お礼を言おうと面を上げると、ネコの残像が揺れて消えた。
6月27日(3)
日比野は壁のポスターを破いた。
天の川の天体図。願いは今年も叶わなかった!
勢い余った彼は、横に掛けた日めくりカレンダーも一枚破いて出て行った。
窓際の小さな笹の下、一枚の短冊が揺れる。
[落ち着きのある人になりたい]
八つ当たりされたカレンダーが、ひと足早く七月七日を告げた夜。
7月1日(4)
日比野は鏡の前で愕然とした。3日ぶりのニキビとの再会、洗顔も化粧水も意味がなかった。
出がけに自撮りを済ませ、通学中に編集アプリでニキビを消した。
(そうだ! この機能を修得すればニキビを見ないで済む)
しかしそのアプリは既に起動中だった。
日比野には他人のニキビが見えなかった。
7月3日(5)
日比野は恨んだ。「タピオカ」を忌み嫌っていた過去の自分を。初めて飲んだそれは…とても…美味しかった。
それから彼は色んなタピオカドリンクを飲み、味を研究し評価をノートにまとめ続けた。しかし最初の味を越えるものには出遭えなかった。
美味しかったのは、好きな女の子と飲んだからだった。
7月5日(6)
日比野は蘇った!
死んでから7日間、地獄の淵での休眠を経て、
再びこの世に生を受けたのだった。
目覚めてすぐに考えた。同じ過ちを繰り返さぬためにはどうしたら良いのか、と。
彼は強靭な肉体と精神力を欲した。また相手に有無を言わせない絶対智も必要だった。
厳しい修行と研究の甲斐あって、彼はついにそれらを獲得したのだった。
そして間も無くして、再び困難に挑んだ……
日比野はフラれてまた死んだ。
7月7日(特別編:noteオフ会にて)
日比野は冷笑を浮かべた。右側の男たちは仕事論に花を咲かせ、左側の女たちは恋愛論に夢中だった。
「論理じゃねぇ、実践あるのみ」
日比野はお好み焼き二枚を一挙にひっくり返した!!
それを見た両脇の客が驚き彼を褒め称えると、日比野は得意げに話し始めた。
「お好み焼きというのはだな……」
7月10日(7)
日比野は遊具で遊んだ。童心に帰りたかったのだ。1人で揺らすブランコは…その…よかった。
不審に感じたママが通報して、警官がひとりやって来た。
「キミ、身分証を……あれ、日比野君?」
「田中君!?」
まさか本当に童心に帰れるとは!
しかしそれは一瞬のこと。彼の名は田中ではなかった。
7月12日(8)
日比野は困惑した。地球儀を眺めていた。部屋をお洒落にしたくて買ったものだったが、望んでいたものと違ったのだ。大きさも傾きも回り方も。
彼は地球儀の台を乱暴に掴み、床に投げつけようとした!
…が、すんでのところで踏みとどまった。
その両足が立つところにも、1つの大地があったからだ。
7月17日(9)
日比野は凝視した。檻の中のチワワを。
コイツを憎めば…コイツさえ嫌いになれれば…もう何者にも心許さず、傷つくこともあるまい。
店員の攻撃「抱っこしますか?」を鼻であしらい、勝った気で家路に着いた。
夢でチワワは腕の中にいて上目遣いにこう言った。
「嫌いになれるかな?」
日比野は…
7月19日(10)
日比野は心静かに目を閉じていた。
昨晩に読んだ『武士道』や『葉隠』を、頭の中で反芻していた。
(日本人は西洋かぶれになり心を失ってしまった…)
して両の眼をカッと見開く!!
「武士道と云ふは…死ぬことと見つけたりぃ!」
そう叫喚し、エゲレス生まれの食パンに齧り付いた。「うまい!」
7月23日(11)
日比野はあれこれ画策した。雨の駅で傘の先を振り回す輩を懲らしめたかった。
奴らは強い。ひと刺ししては、振り返ることもなく足早に去る。
身に付けるのだ、かの奥義・真剣白刃取りを!
日比野は修行の日々に耐えた。そして…
梅雨空は明け、みな眩しい光に包まれた。
心踊る夏はすぐそこに!
7月28日(12)
日比野は苦しんでいた。あせもの痒みに。
遠い言い伝えに聞いた。あせもには桃の葉を煎じた水薬が効くと。しかしどのようにして手に入れたら良いか。
俺には文明の利器がある。Google先生に聞けば、桃の原産地は中国西北部高山地帯らしい。
彼は渡航費を稼ぐために汗水流した。
そうしたら…
7月31日(13)
日比野は耳を疑った。大学の友人らがこう言ったのだ。「海でパリピしようぜ!」
パリピとは属性を示す名詞ではないのか?
「属性+する」は成立するのか?
「イケメンする」や「右翼する」もアリなのか?
だとしたら……俺にもパリピできるのかぁ!?
友人らは思った。(コイツには無理だな)
8月6日(14)
日比野は地団駄を踏んだ!
ボールを蹴ったらあさっての方向へ飛んで行った。サッカー少年たちがニヤニヤしてる。バカにされていることだろう。
二度と人助けなどするまい……心に誓った。
公園を出ると道に人だかりが出来ていた。ボールがひったくり犯の頭部を直撃したらしい。
日比野は頭を抱えた
8月10日(15)
日比野には逃げ場がなかった。帰省のために乗った高速深夜バス。
隣の男が肩にもたれてきて、いびきをかきはじめた。前の座席からはヘッドフォンの音漏れ、後ろのカップルはイチャついていた。
「俺はもう星空に帰省する!」
窓から飛び立とうとした…が数cmしか開かない。夜風もうるさく生暖かい
8月17日(16)
日比野は退屈した。無性に皿を洗いたい。普段バイトでしているからだ。
実家には手練れの母がいる。調理器具は料理の間にさっと洗われ、つけ置きの皿はいつの間にか姿を消す。
ライバルは父ではなく母だ、俺に皿洗いをさせろ!!
睨みつけてくる息子を見て、母は「まだまだね」と言いニヤリとした。
8月21日(17)
日比野は悲しくなった。祭囃子の練習が聞こえなくなった。途端、秋の気配を感じるのは何故だろう。四季は俺の外側にではなく内側にあるのではないか……
天気予報も気象図も無意味に思え「俺の夏は終わらないっ!」とタンクトップ1枚で外に飛び出した!
確かに、雲が夕立を降らす準備を始めていた。
9月15日(18)
日比野はぶつかり続けた。前を行く人、すれ違う人々に。現実の道を歩くことで冒険できる携帯アプリに夢中だった。
しかしなぜこうも人にぶつかるのだろうか?
日比野はある結論に達した。
これは道行く人をモンスターと見做し倒していくアプリなのでは!?
クエスト「日比野から携帯を取り上げろ」
9月24日(19)
日比野は薄ら笑いを浮かべた。食欲の秋……芋栗南京を利用すれば女子にモテるに違いない!
彼は農家に弟子入りし、農業をいろはから学んだ。いつか美味しい芋栗南京を育てるために!
その間に意中の人は、秋のデザートビュッフェでインスタ映えを、ディズニーリゾートでハロウィンを楽しんでいた。
10月17日(20)
日比野は自信に満ちた表情で座っていた。教授が分厚い紙をペラペラめくっている。卒業論文の中間報告だが、彼には自信があった。
半年前から寝ずの生活を続けてまとめた大作だ。
教授がため息をついて言った。
「来週もこの時間に来なさい」
日比野は思った。
こいつ、もしかしてオレに惚れたか?
10月30日(21)
日比野は邦画にハマった。家に引きこもり、この10年くらいの名作を漁った。そして思った。『死んだ目系俳優』が人気なのだな。体育会系でも王子様系でもないことはありがたい!!
彼はいそいそと外に出て、死んだ目を作ってキャンパス内を歩き回った。
友人らが噂した。「日比野はゾンビになった」
11月8日(22)
日比野は自信をなくしていた。すれ違う人すれ違う人、みな自分より大きく見えてしまう。
「俺はなんと小さな存在なんだ。もうダメだ。人が怖い……」
日比野は背中を丸め、ますます小さくなって家路についた。
その日、彼が歩いた通りにある施設で、日本ボディビル選手権決勝大会が粛々と行われた。
11月13日(23)
日比野は涙を流した。手には女性作家の小説が大切そうに抱えられていた。女性の感性とはなんと豊かで細やかなことか。こんな文章を書くには一体どうすれば……
彼の住むアパートに友人らが集められた。
「いいのか?」「い、いくよ?」
剃刀とメーク道具を手にした男女が、日比野にじりじりと寄る。
11月26日(24)
日比野はタイミングを窺っていた。
つい今し方、占い師に「アンタ死ぬよ?」と言われたのだ。
彼女はそれから、お札を買え、壺を買えなどと『死なないための方法』をしつこく教示してくる。
詐欺だ、反駁せねば。
「僕は……ボクは……ぼ、く、は……」
「ぼぉくはしにましぇ〜ん、とか下手なモノマネするつもりなら、まずトラックの前に飛び出しなされ」
日比野は驚愕した。
こ、こいつ、なぜ俺の言わんとしたことが分かった? 占い師か!?
11月27日(25)
日比野はニヤニヤしていた。
教室内で、ある男が女子に囲まれ楽しそうに話しているのを横目で捉えていた。
心は嫉妬に燃えていた。
そいつは学年随一のイケメンで、端正な顔立ちにはいつも品のある表情を浮かべていた。
背筋はシャンと伸びており、普段から人の視線を浴びることに慣れているようだった。
しかし日比野は知っていたのだ、
驚くべき彼の秘密を。
待ち望んでいた暴露の日は、
まさに今日に違いない!
そうだ、今に違いない!!
日比野は立ち上がった。
「そいつはなぁ、おしっこする時の立ち姿がすんげぇダサいんだぜぇ〜!」
……という言葉を、必死に飲み込んだ。
あの日、日比野は男性トイレ内で彼が用を足す姿を目撃して驚愕した。
普段は見れない猫背も、左右非対称の立ち姿も、あまりに不自然で可笑しかった。
ズボンのチャックを上げる時の所作など、下手くそ過ぎて嘲笑に値した。
しかし暴露しようと立ち上がった瞬間、それまで盛んに燃えていた嫉妬の炎の勢いが和らぐを感じたのだ。
人間らしい、あまりに人間らしい姿が、このようなイケメンにも存在すること。
それを思うだけで、多少は彼のことを、いや人間存在全体のことを好きになれそうな気がしたのだ。
日比野は穏やかな気持ちになって、静かに腰を下ろした。
そこに浮かんでいる笑みがあまりに気色悪くて、女子たちはますます日比野から遠ざかったのだった。
*半分、実話*
12月12日(26)
日比野はわなわなしていた。
アイドル作家がネット炎上している。助けたい。しかしヲタが擁護するほど、アンチは増殖する一方だ。
彼は受話器を取った。
「もしもし119番?火事です!Misakiちゃんち…事務所?…いや…とにかく燃えてるんです、早く来てください!」
「消させん」
「え」
12月20日(27)
日比野は大地に両手をついた。留年が決まった。失敗だらけの4年間だった。
しかし絶望する彼にふと言葉が降り注いできた。
(Tomorrow is another day…ディ…ディ…)
日比野は涙を拭いて顔を上げた。
かくして4月、彼は新入生サークル勧誘の門戸を叩くことになる。
12月23日(28)
日比野はコソリと足元を見た。五千円札が落ちている。深夜の皿洗い5時間分だ。
辺りを窺うが人っ子ひとり見当たらない。
(くぅ〜ん)しかし野良犬がいた。
小鳥も蟻んこもいた。
太陽も風も木々達も彼を見守っていた。
日比野はお札を拾って交番へと駆け出した!
「あはは素晴らしき世界!!」
12月31日(29)
日比野は部屋の隅で三角座りをしていた。
留年が決まったことを親に告げられず、帰省しなかった。
ピーンポーン「宅急便です」
箱いっぱいの食料、その上にはメモが置かれていた。母からだ。
〝来年まで東京にいて大丈夫ですよ。ただし嵐のライブの日には泊めて下さい。チケットもヨロピクね♡〟
2020年
1月7日(30)
日比野は羨望の眼差しを向けた。毎朝、自転車を並べて走る高校生の男女に。彼にはそんな経験なかった。
翌朝、日比野は自転車を準備した。そして例のカップルが目の前を通り過ぎた瞬間……ヨーイドンで走り出した!!
歩道に3台並ぶ自転車。カップルは困惑したが、日比野の表情は終始満足げだった。
1月21日(31)
日比野は扉の前に立った。高鳴る胸の鼓動を感じながら。そこは俳句サークルの部室だ。同級生に誘われたのだ。
よし身嗜みOK。新しい一歩だ!
ガチャ…
部員らが日比野の姿を見て爆笑した。
「やっぱりな、ぜってぇ芭蕉コスチュームで来ると思った! 賭けは俺の勝ちな〜」
日比野はただ涙した。
1月27日(32)
日比野は喫茶店で唸っていた。
なんだったっけ、アレの名前。
「モルフォン」は蛾のポケモン。
「コロフォン」は希少なクワガタムシ。
「サイモン」はガーファンクル。
う〜ん、う〜ん……
「お客さま、お会計を」
差し出された伝票の下に、小さく鉛筆で書かれていた。(サイフォン)
それだ!
2月4日(33)
日比野は戸惑っていた。地域文化を問わず人が未来永劫の肉体を求めたことに。ミイラ展を鑑賞した帰り道だった。
自分はいつ消えたっていいと思ってるのに……俺にはミイラの気持ちが分からない!
薬局の店員も戸惑った。
「お、お客様。買い占めは困ります。しかもマスクじゃなくて包帯ぃ!!?」
2月7日(34)
日比野は目を見開いた。「嵐」の関連サイトをチェックする母の背中がずーっとそこにある。
幼少期の記憶、忌まわしき呪詛のことばが蘇ってきた。
(ゲームは1時間までって言ったじゃない!…ジャナイ…ジャナイ……ジャ……)
あの台詞は俺にではなく、きっと自分自身に向けたものだったのだ。
2月13日(35)
日比野は勝利を確信した。リサーチによれば女子はこの時期、苺フェアビュッフェに行きたくなる。絶対に。
余裕綽々でバイト先の後輩を誘った…
「わたし月餅か胡麻団子がいい。ねぇ日比野くん、君はいったい何のために中華料理屋でアルバイトしてるの?」
日比野は本気で生きる女子の存在を知った。
2月18日(36)
日比野は涙した。路上で人目も憚らず。
そうか、俺は辛かったんだ。留年も決まり…女子にも振られ…
誰も俺の泪を気にも留めない。みんな自分の泪を堪えるのに必死なんだ。
風が吹き荒び、ますます泣けてくる。鼻水も出てきた…帰ろう…
日比野が花粉症の存在を知ったのは、それから3年後だった。
2月24日(37)
日比野はスマホを地面に叩きつける!…すんでのところで止めた。
落選。最近知ったアイドルのチケットが取れなかったのだ。悔しい…スマホの画面で彼女が優しく微笑んでいる。
-松田聖子ディナーショー¥47,000-
「アイドルとは会いに行けるものじゃなかったのか?時代は変わったもんだ!」
3月5日(38)
日比野は退屈していた。新学期はまだ先、加えて世間は自粛モードだ。この退屈をしのぐには、
「梅…梅はうめぇ…ふふ。あられのあられもない姿…へへ。三人官女のお勘定、五人囃子の林さん…うひゃひゃひゃ」
その晩、郵便受けに手紙が入っていた。
『日比野くん、独り笑いの苦情が来てます。大家』
3月11日(特別編)
日比野は立ち止まり黙祷を捧げた。バイトに向かう道すがら。
留年太郎の万年皿洗い。あの日から、何か出来るようになったわけでも、何か言えるようになったわけでもない。
でもな、こうして生きているのは……
日比野はゆっくり目を開き、そのひと足を踏み出した。誰もが願った平凡な日常へと。
3月16日(39)
日比野は髪を明るくしてみた。
しかし翌朝、慄いた。洗面台の流しに毛が流れるのを発見したのだ。彼は髪を黒く戻した。
翌日もまた毛は流れた。
また明るくして、また黒くして……
毛は抜け続けるが、なぜか日比野の髪が減ることはなかった。
「まさか!俺は髪が生え続ける呪いの人形なのか?」
3月24日(40)
日比野はニヤついた。卒業する2人の友人に餞を考えていたのだ。
彼の誘いで酒場に集まった3人は地ビールを堪能した。しかしその後、日比野は何も言わず満足げな顔で帰ってしまった。
「一体なんだったんだ?」
「多分俺らエール(ビール)を送られたんだよ」
「さすが日比野担当」
「ちげーし」
3月30日(41話)
日比野は奮起した。4月から俺は生まれ変わるぞ! 資格、語学、就活、筋トレ……やるべき事を数えて歩く。よそ見をしている暇などない!
ふと、道端に足を怪我した子犬が泣いていた。その先には風船を木に引っ掛けた子ども、さらにその先には翼の折れたエンジェル……
俺は、俺はどうしたらいい!?
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今後も日比野の日々の日記を
楽しんでいただけたら嬉しいです!
今年度もよろしくお願いします。
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