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K-BALLET TOKYO "Mermaid"を観て

熊川哲也さんが創設したK-BALLET TOKYO。今では日本バレエ界を代表するバレエ団による新作「マーメイド」を観てきました。思えば昨年の今頃も熊川哲也さんによる新解釈の「眠れる森の美女」を観に行ったなぁ・・・と思いだし、そうなるとこの短期間で熊川さんは新作を2年連続でこの世に創り出したのかと思うとまずそこに驚きます。一体あの方の脳内はどうなっているのだろうか、どのように作品を創り上げて形にしていくのだろうかと不思議でなりません。
今回はアンデルセンの名作「人魚姫」をベースにした物語ですが所々熊川版ならではの解釈があったり、原作にはないキャラクターが出てきたりとK-BALLETならではのマーメイドの世界を見ることができました。
マーメイドといえば、ディズニーの「リトルマーメイド」が有名ですし、ディズニー版のミュージカルも人気の舞台ですね。ミュージカルの「リトルマーメイド」を知っているだけに、バレエだとどのようにこの世界観が表現されるのだろうかとかなり楽しみにしておりました。


Theater Orchestra Tokyoによる圧巻の演奏。

劇場内の照明が落ち、幕が開く前。
ハープの優しい音色から少しずつ広がる音。このはじめの音を聞いただけで不思議と目の前に海が広がるのです。自分が海の中に漂っていて、魚たちがせわしなく泳いでいる様やイルカが優雅に泳いでいる姿を見ている感覚になるのです。まだ幕が開いていないのにすでに気持ちは海の中。
グラズノフの音楽は四季でもそうですが、音を聞いているだけで目の前にその景色・季節感・温度感がリアルに広がるのです。グラズノフの音楽が持つ魔法と、シアターオーケストラトーキョの皆さんの演奏の力によって観客はあっという間に海の中に。

海の中、海面、そして地上という3つの舞台で展開された物語はどのシーンもとても幻想的で美しく、私たち観客が想像力を駆使しなくても一つ一つの景色をリアルに見せてくれました。

地上は港町にある酒場。そこで愉快に踊ったり飲んだり交流を楽しむ町の人々。そしてそこに訪れて一緒に交流する王子やその友人たち、そして王様。時代がそこまで昔の設定ではないためここで出てくる王様は私たちが想像しているよりもかなりフランクでモダンな感じ。
ここで登場する物乞いの男はストーリーテラー的な役割で、彼の踊りや演技を見ているとこの町の人々がどのような人たちなのか、いかに暖かく包容力のある人たちが住む町なのかがよく伝わってきます。物乞いというとマイナスイメージがありますが、ここに出てくる物乞いは人々の金品をパッと軽やかな足取りで奪いますが、見つかって怒られてもみんなそのあとは笑顔で「まぁ仕方ないやつだなぁ」と和やかな空気に。物乞いが人々をつないでいるようにも見え、大変重要なポジションだと感じました。私が観た上演回では栗原柊さんと吉田周平さんが踊られていましたが、お二人とも軽快で明るく、憎めないキャラがぴったりでした。

イルカが海面からジャンプしているように見える!

海面は王子が父親に幻のクジラを仕留めてくるように命を受けて船出をするシーン。
ここではイルカやトビウオ、そしてシャークが出てきて踊りますが舞台上を立ち止まることなくずっと縦横無尽に動いているのを見てダンサーの皆さんの体力のすごさに圧倒されました。
イルカが海面からジャンプする様はダンサーの皆さんがジャンプしているわけでもないのにあたかもイルカがジャンプしているように見えるのが素晴らしかったです。
イルカ、トビウオ、そしてシャークはそれぞれ衣装の袖や裾がひらひらとしているのですが、これによって波がゆらゆら動いているように見えるんのです。それを意図してデザインされたのかは分かりませんが、実際にダンサーの皆さんが踊っているとひらひら衣装が揺れることで波を立たせながら泳いでいるイルカやトビウオ、シャークが見えてくるのには感動しました。

考えてみたら、舞台演出は今ではプロジェクションマッピングなどを使えばいくらでも幻想的な非日常的な世界は創り出せるもの。
にもかかわらず、熊川さんは古典芸術としてのバレエを大切にし、演出も古典的な技法を巧みに使っているのが印象的です。もちろん照明で海面のゆらめきを表現したりと多少その力を使っているところもありますが、波を表現するのに衣装を使ったり、ダンサーさんたちが青い大きな布を持って走ることで波を表現したりと、あくまでも現代技術ばかりに頼らない工夫がより一層感動させてくれているのだろうと思います。
マーメイドが優雅に泳いでいる様子も、ワイヤーアクションを使うのではなく、トビウオ役をやっている男性ダンサーの方々がリフトしているそのうえで上半身を反らせて踊ることであたかもマーメイドが海中を泳いでいるように見せるのが素敵。トビウオの衣装の袖のところも長くひらひらしているのであたかも波のように見えるから余計にマーメイドが波間を優雅に泳いでいるように見えるのです。
衣装、大道具、小道具、そしてダンサーの皆さんの動きによって海の世界が表現されていたことは思っていた以上に感動的な演出でした。

海の生物たちの振り付けもとても独特で、でもどの生物も「そうそう、そんな動きするよね!」と思わせてくれます。
ヤドカリは地面を這いつくばって貝の中からひょこっと腕を出したり足を出したり。カクレクマノミはサンゴの間を駆け抜けてすばしっこく動いたり。どれも水族館で見ている生物たちの動きそのまま。
熊川さんは振り付けを考える際に水族館に行って観察したりしたのだろうか・・・?生物たちをじっと見つめて観察している熊川さんを想像すると少し面白いですね♪

ヤドカリさんの動き「わかるわかる!」

カクレクマノミを演じられた塚田真夕さん、辻梨花さん、世利一葉さんはとってもキュートで、役にぴったり!振り付けを見るとものすごく忙しい動きの連続で、あの難しい振り付けを息を切らすこともなく、終始笑顔で軽快に踊られる3人はすごいとしか言いようがないです。そしてマーメイドのよき理解者のような立ち位置で存在しているロブスター。海中のロブスターはこれくらい動き回るんだろうなぁと感じるくらいよく跳ぶ!よく回る!!私たちが見ているロブスターはたいていお皿の上か、地上を這いつくばっている姿なのであんなに生き生きしたロブスターを見るのは新鮮でした(笑)後からロブスターを演じられた吉田さんのブログによれば、最初ロブスターではなくタツノオトシゴだったそうで・・・あの場面がタツノオトシゴだったら舞台はまたどう違っていただろうと、それはそれで気になります。

幻想的で美しい海中世界

地上のもう一つのシーンはプリンスとプリンセスの婚約のパーティーシーン。
王子が海に投げ出されたところを救ったのはマーメイドなのに、その手柄を横取りするプリンセスはいわば恋敵というか、悪役に分類されるキャラクターですが熊川版マーメイドに出てくるプリンセスはまったく憎めないというか、お茶目でとても女の子らしいキャラクターでした。
アンデルセンの原作ではプリンセスは明らかにマーメイドを目の敵にしマーメイドから王子を奪う役どころですが、熊川版ですとマーメイドを意図的に敵視する様子はなく、単純に王子に恋する一人の少女。マーメイドとは結果的にライバルになってしまいますがマーメイドを蹴落とそうとか追いやろうという魂胆はありません。だからこそ、王子が自分を救ってくれた本当の恩人がすぐそばにいるのを気づかずにプリンセスに心惹かれていってしまう場面はより一層残酷で、プリンセスとプリンスがパーティーへと去っていったその背中を見つめるマーメイドの表情には心が引き裂かれます。

パーティーシーンは豪華絢爛そのもの。これぞバレエ!といわんばかりの素晴らしい典型的なバレエのスタイルでここはシンプルに踊りと場面の豪華さに感動しました。
プリンセス役を踊られた成田紗弥さんと日高世菜さんはどちらも貫禄のある踊りで、ヴァリエーションでは難易度高いバランス力が求められる振りも一切乱れずに踊っていてそのバランス力・体幹力に感動しました。実は上演キャストは3キャストあって、他にプリンセスは長尾美音さんが踊られていたのですが、長尾さんのプリンセスも見たかった!!3人ともとても上品なオーラのある方々なので三者三様に美しいプリンセスだったに違いないです。
K-BALLETはいくつかのキャストで交代交代に上演されるのですが、どのキャストも見ごたえあるメンバーなのでできることなら全キャストの公演を見たいと思ってしまいます。そんな贅沢ができるようになりたい・・・(涙)

主演のマーメイドを演じられた飯島望未さん、そして王子の山本雅也さんペア。
そして小林美奈さん、堀内將平さんペア。
どちらもそれぞれに少しずつ解釈が異なるマーメイド・王子を演じられていて、どちらも素敵でした。実際に観れなかったけれど、岩井優花さんと栗山廉さんのペアも観たかったなぁ・・・。
はじめは王子に夢中で人間の世界に行きたい一心で人間になったけれど、自分の恋が叶わず泡になって消えるしかないと分かった時に覚悟を決めたような、その短期間で純粋で天真爛漫な少女から女性へと成長したように感じさせてくれた小林さんのマーメイド。
恋心がまるで大きな炎のように燃え上がって、その勢いを止めることないまま、その火が消えるまで駆け抜けていった情熱・感情の塊にこちらまで心を揺さぶられた飯島さんのマーメイド。
どちらにもラストはめちゃくちゃ泣かされました・・・最後まで泣かずに観ると決めていたのに最後の泡の演出で涙腺崩壊しました。

・・・

ゼロから全く新しいバレエ作品が誕生する瞬間を自分の目で見て、その場に立ち会えたことがどれほど幸せなことか。きっと世界で初めて白鳥の湖やくるみ割り人形が上演されてその瞬間を見た人たちも同じように感動して興奮したことでしょう。
バレエ作品が出尽くしているように感じられる現代において、まだこうして新しい作品が誕生する瞬間に自分も生きていられるという奇跡はもはや言葉にできないほど感慨深いですし、思い出すだけでも鳥肌が立ってきます。

K-BALLETは来年にもまた新作を発表する予定だそうで、今度は何が生まれるのか楽しみでなりません。
ちなみに、昨年「2024年に新作が出る」とニュースを見た時、同じくK-BALLETの大ファンである母と「何を題材にするかな~」と話したことがありまして。
その時、母は「人魚姫とか?」と言っていたのです。

見事に当てた母・・・さすが文学専門家(笑)
来年は何が来るのかも当ててほしいところです。
でもその前にまずは今年の締めくくりとなる「くるみ割り人形」が楽しみです♪

・・・

もっと色々書きたいことはあるのに・・・もっとうまく文章は書けないものかと自分の文章力のなさに悲しくなりますが。今後もアウトプットをうまくできるよう精進しようと切実に思いました。
そんな私の文章ですが、最後まで読んでいただきありがとうございました★

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