ヒトデめいたスリケン
※この文章には暴力表現が含まれます。
「……私たちはIRC通信による交流を重ね、クリエイティブをアップデートしました。大学時代の素晴らしい思い出です。皆さんもIRCを使った積極的なクリエイティビティを磨いてください」
熟年にさしかかった女性が壇上で大学生たちに講演を終え、それなりの拍手が送られる。
「ミャツッカ・ワンジュー=サンのクリエイティブについてのお話でした。ありがとうございました」
司会の声を後に彼女が舞台から立ち去ると同時に、最後列にいた学生があくび混じりに席を立つより早く、会場の後部出入り口が一瞬開きすぐ閉じた。
「やってちょうだい」「カシコマリマシタ」
大学の来客用駐車場から高級リムジンが走り去る。
「カビジ家お気に入りの学長の頼みだからって、遠い大学で無料の講演をさせられるのはちょっと……」
ミャツッカはひとりぼやくと、カチグミ住宅街に戻るまで仮眠をしようと目を閉じかけた。
快適な帰宅はそこまでだった、リムジンの前輪が何かにぶつかり、車はパーキングエリアの料金支払い機に体当たりした。
「「アイエエエエエ!?」」
車内にも響く衝撃に、運転手は運転席で何度もバウンドし、女性は後部席の天井でしたたかに額をぶつけた。
自動車から這い出した運転手は、前輪のタイヤに奇妙な物体が刺さっているのを目にした。
ぐにゃりとした突起がほぼ等間隔に飛び出している、黒い塊。
「STARFISH?」
「NO! It is SURIKEN!」「アバーッ!?」
かがみこんでいた背中にボーめいた衝撃がぶつかり、アラスカ出身の運転手は肺が破裂して死んだ。
結果的に運転手を蹴り殺した者がリムジン車の後部ドアをメリメリと引きはがす。
「アメリカ旅行を自慢しといて、な~にが大学は遠いじゃ」
声は女性、布を巻いた顔、虫を見るような目。
ミャツッカが人生の最後に目にしたのは、人の形をした暴力だった。
『カビジ家の令嬢・ミャツッカ・ワンジュー=サン(40歳)が自動車爆発事故で死亡。同家はヤクザクランともつながりがあり抗争が激化。政権交代すべき』
音読ドロイドが読み上げる日刊コレワのゴシップニュースをBGMに、キーパンチャーとスキャッターは搬入されてきた段ボールの山から古文書やマキモノを取り出して分類コンテナに詰め込んでいく。デュフューザーはまとまったコンテナを図書館各階の待機室に運び入れてもうすぐ戻ってくるだろう。
「へー、40歳」
「女は年齢にすぐ食いつくな」「はいそれセクハラー。恵まれた人生自慢をガキどもにそれらしく聞かせるようなバカ女は歳を取っても変わらないものね」
キーパンチャーは昨夜の、高級スーツを土足で踏みつけながらその上で泣きわめく首を試行錯誤しながら折った中年女の歪んだ顔を一瞬思い出してすぐ忘れた。
「ねえデュフューザー、非ニンジャの首ってどっちに折ったらすぐ死ぬ?」
[了]
キーパンチャーのスリケン:大気を10分くらいこねているとなんかできる。むしろヒトデに似ている。文鎮がわりになる。
スキャッターのスリケン:すぐできる。画鋲っぽい。資料の仮止めに便利。
デュフューザーのスリケン:気合でちゃんとした攻撃用スリケンが出てくる。