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レンズ談義 その13 ヴェロスティグマートの謀略~キノ・プラズマートの呪縛を逃れて

Wollensak Cine Velostigmat 1inch F1.5
 
4群4枚 キノ・プラズマート(4枚玉バージョン)タイプ
Cマウント
最小絞り値 f16
最短撮影距離 2inch
絞り羽根枚数 9枚
シルバー鏡胴
 
 小振りな、ちっちゃな、滲み系のレンズである。
 かの巨匠ルドルフがツアイスで開発し、フーゴ・メイヤーに移籍後、同社から製造販売された革新的なシネ・レンズであるキノ・プラズマート(50mmF2 4群6枚)、その4枚玉バージョンと同じレンズ構成である。
 キノ・プラズマートには、3種類のパテントデータがあるそうです。
 4群6枚の貼り合わせが中央のものと貼り合わせが両端のもの(実際に製造販売されたもの)の2種類と4群4枚の1種類になります。
 
 シネ・ヴェロスティグマートの1inch(25mm)には、開放絞り値がF1.9のものもあるが、レンズ構成はまったく同一のようだ。
 16mm映画用のカメラの交換レンズですが、1inch F1.5のイメージサークルはかなり広く、APS-Cセンサーをほぼカバーしており、撮影の際に、余計なストレスを感じることはない。
 ニューヨーク州のロチェスターにあるウォーレンザック、同社のレンズでは、シネ・ラプター(Raptarは、同社製の最高級品質のレンズに付けられた名称)1inch F1.9を保有しているが、フードを取り外して撮影しても、若干ケラレのようなものが出る場合があります。
 
 最後のオールド・レンズは、キノ・プラズマート型と決めていたので、オークションで5千円程で落札できた時は、望外とその達成感から襲って来る喪失感のようなもので、何だかもみくちゃでした。
 実際にAPS―Cで撮ってみると、滲み全開、ぐるぐるボケ満載、淡白な味付けながら色味あり、中央部の解像度はイケてる、って感じでした。
 2段ほど絞れば、かなりの発色です。
 C―CS変換リングを介せば、接写も十分に可能になります。
 これなら、この1本で楽しい撮影旅行ができそうだ。
 納得のお買い物でした。
 
 これで、やっとオールドレンズの沼から抜けられる。
 ルドルフの最高傑作キノ・プラズマート、その後裔レンズを手に入れた以上、何を望むのか。
 そうは思うのですが、果たして、魔鏡に掛けられた呪縛はあっさりと解けるものでしょうか。
 なぜか不安がよぎります。
「これでいいのか、おれの人生」
「これで、いいのだ!」
 もしかして、これも謀略、あんな安価、超破格値で手に入ったこと自体が間違いで、だとしたら、この先、どんな災厄が(おれのカメラ人生に)待ち受けていることか、知れやしない、などと要らぬ心配(いわゆる杞憂というやつですが)をする始末。
 再度点検したが、フードの剝がれ以外には特段の支障はない。レンズ内部は、チリも目立たず、綺麗な方だし。
 疑心暗鬼が却って災いをもたらすものとは先刻承知の上だが、素直にレンズ沼卒業を祝えないのは、未練(=欲=より生きようとする意欲)というものかも知れない。
 いまだ見ぬ超弩級のレンズ大山脈には登攀すら叶わぬまま、その鉱脈に触れることもなく退場していく。
 老兵は死なず、と負け惜しみを言ってみても、事実上の死に体。
 寄る年波と顔の皺…
 
「まあ、いいっか。行けるとこまで行ってみるしかない、それが人生だ」
 かくて、レンズ沼は、一段とその色味を濃くし、底のまるで見えない泥沼と化した。

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