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ドラマ劔 その10 ドラマ還流(中森明菜の場合)

 コロナ下、韓流にはまった人が多いと聞く。
 往年のCITY・POPも再評価され、リバイバルしている。
 外出が抑制されている状況では、ネットへの依存が高まるのは、必定か。

 韓流ドラマには雨が多い。
 最初に韓流の渦に引き込まれた「ピノキオ」にしても、あのバス停での雨のシーンがなければ、最後まで見たかどうかは保証できない。コーン・ポストの目に食い込むような赤と叩きつけるような雨足、帰りを待ちわびて、静かに眠りこける少女……

 突然降りだす雨、天気雨もあれば、片時雨、篠突く雨、涙雨もある。
 日が差していたり、虹が出ていたりすることもあるので、天泣なのか微雨なのか、なぜか狐の嫁入り的なシーンがやたら多い気がする。
 傘を持たない思い人のために、人肌脱ぐところまではいかないかもしれないが、とりわけ印象的な雨のシーンは、「ピノキオ」と「彼女はキレイだった」

 急な場面展開というか、まだ、昼の間だと思っていると、急に夕闇が濃くなっていて、驚くことがままある。
 時間経過が不自然だが、この時間帯が韓国の視聴者の嗜好に合っているのだろうか。

 親しくなるきっかけになる(する)のか、ラーメンを食べるシーンが多い。
 恋人、夫婦でも氏名で呼び合うし、名前だけの呼び捨てはあまりしないもののようだ。
 後日気が付いたことだが、これは、相手の「本貫」を常に意識せざるを得ない常況に置かれていることからくる自然に身に備わった習慣というか、時間をかけて獲得された習性なのではないか、と。
 だとすれば、何やら物悲しいような、切ないような……
 夫婦別姓と一口で言ってみても、その国、地域ごとに、様々な厄介な事情や深刻?な時代背景を持っていることがわかる。

 恋愛にも親の了解(事後的?)がいるようだ。結婚ともなれば、親の同意がなければ、除籍され、相続権を失うおそれもある?!
 いずれにしても、韓国社会は夫婦別姓制の下にあるが、妻=女性の相対的な地位が夫=男性のそれよりも低いことが、その遠因かも知れない。
 ご先祖様からの系図(中国発の東アジアに広く伝わった父系血縁集団の系図、族譜とやら、いずこでも(日本でも、ご多分に漏れず、神代記の時分からそうだが)頻繁にやられたように、後代、売り買いされた「紛いもの」が数多く出回っている(らしい)のは、ご愛敬)には、女の名前はない(書かれない)らしいから。未だ実質的な家父長制の影響下にあるのだろうか。
 戸籍制度は、中国から東アジアに広がった国家制度の基本となるものだが、戸主が国家による人民支配の直接的な担い手となり、その戸に属する者の婚姻や相続、就業について規制している。
 本貫といい、280余りの姓しかないという社会の窮屈さ、縛りの強さ、不自由さに、がんじがらめになっているのではと、要らぬ心配をする。

 幼馴染(その後、成人するまで離れ離れになっている)や幼い頃に浅からぬ因縁(事件など)のあった者同士がそれと知ってか、知らず再会し、恋に落ちる、このパターンが結構多い。
 代表例:30だけど17です、彼女はキレイだった、とにかくアツく掃除しろ!
 気付いたときには、もう、引き返せない、そんな「運命」に翻弄される二人。
 これを奇縁というなら、財閥や金持ちの父母、祖父母が後裔が図らずも絡めとられる「悪縁」におそれおののくその姿は、わが同胞とさしたる違いはない。
 仏教というかその母胎となったバラモン教の因果応報=カルマの世界観が今もその影響力を失っていない証左か。
 人の前世や来世を語っても、何の意味もない、時間と人生の無駄足だ。
 一度切りのこの生をいかに生きるか、それだけが最大事であり、唯一の関心事であるべきなのだが……
 見つめ続けることができないもの、太陽と鏡と自分の人生

 ここまで生(いのち)をつないできたそれぞれの人生、それらの途絶えることのなかった不可思議の連なり、その奇跡、その結果として今ここに自分が生きてあること、それらの苦難と歓喜の軌跡に、深く思いを致し、感謝の念を注ぐことに、何のためらいもないが。

 中森明菜の「Blonde」をしばらく聴いている。
 その歌詞、最近とみに巷間を賑わしているミソジニー(女性嫌悪)の香りがしなくもないが、彼女の歌手、演者としての最高潮にある楽曲であることに疑いは無い。
 これほどまでに、繊細で芳醇で妖艶な歌い振りは、ビブラートの変幻自在の階調豊かな表現にも存分に発揮され、華麗な衣装(エルメスのスカーフ)と流麗かつ優美にして、退廃の美すら感じさせる踊りとがめくるめく世界を玻璃のように煌めかせている。
 「Fin」も素晴らしい出来だった。「難破船」は最早登り詰めた後の悲しみの影をどこかしら引きずっている。
 わずか5年ほどで絶頂期を迎えた早熟の天才は、やがて、引き潮のように舞台から遠ざかる。まるで、廻る星座のようにそれを知っていて、とうに覚悟していたかのように。


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浮島 漣
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