写真を撮った、恋だと気づいた
少し遠出をする時は、いつもカメラを持っていく。カメラが好きな父がプレゼントしてくれた小さめの扱いやすいカメラで、景色や友達を撮影するのが好きだ。プロみたいにカッコいい写真は撮れないけど、自然体な友達の姿を撮れた時はつい嬉しくなって何度も見返してしまう。
週末は久しぶりに魚釣りに行った。釣りと言っても本格的なものではなく、山奥の静かな渓流に作られた釣り堀での釣り体験。
前に勤めていた会社の同僚と、外出自粛で延期になっていた計画を満を持して実現した。
日程が決まってから1週間、テレワークで重くなった身体を絞った。
毎日の筋トレとプロテイン、1時間近く湯船でマッサージ、食事も野菜とたんぱく質を中心に低カロリーなメニューを意識した。放置していたネイルも整え、髪も念入りにトリートメントをして、梅雨に負けないサラサラストレートを目指した。
どれもこれも、久しぶりに会う彼に「あれ?可愛くなった?」と思われたいという全力の下心だった。彼をドキッとさせたかった。
去年の冬、近づいたのは心の距離ではないと気付いた。一人で舞い上がっていたことが虚しくて、かっこ悪くて、惨めだった。だから、好きじゃない、最初から本気じゃなかったと “決めた” 。
そうすることで、選ばれなかった自分を何とか肯定した。
それからしばらく経って久しぶりに会うと決まった時、「綺麗になって見返してやる…!」と元カレに対する見栄のような、とてもありきたりな感情がむくむくと顔をだした。
2kg痩せて、サラサラストレートで迎えた当日、彼には付き合って半年になる彼女ができていた。嬉しそうに彼女の話をする彼に、また「私には関係ない」「別に好きなわけじゃない」と言い聞かせ、1週間必死に努力した自分の惨めさをぎゅっと握りつぶした。
目的地へ向かう車の後部座席で、私はどんな顔をしていたんだろう。
楽しみにしていた魚釣りは、あっという間に自分の分を釣ってしまった。
子どもの頃から祖父や父に連れられ、自然の川で遊んでいた私には釣り堀は退屈だった。
餌のブドウ虫が触れない男性2人を前に、女の子らしさなんてどうでもよくなった私は無敵だった。ガンガン触ってどんどん釣った。釣れた魚もガシっと掴んだ。
自分の食べる分を釣り終わると、写真を撮ることに専念した。
綺麗に透き通った川や、石で遊ぶ子供たち、なかなか釣れなくて苦戦している2人を何となく撮った。
帰りの電車で撮った写真を見返した。
楽しそうに釣り糸を垂らす顔や、真剣にウキを見つめる彼が写っていた。
とても素直な、良い写真だと思った。
あぁ、ちゃんと好きだったんだ…。
自分で撮った写真で、今さら気づくなんて思ってもみなかった。
カメラのシャッターを押す瞬間、その一瞬を残したいと思うからシャッターを切る。だから撮れてしまって当たり前だ。
写真をグループのアルバムに保存した後、みんなが撮った写真を続けて保存してくれた。
その中の1枚に、彼とふざけながらとても楽しそうにしている私が写っていた。バレバレの笑顔で幸せそうに笑っていた。
一瞬近づいたと思った去年の冬、素直に言えばよかった。選ばれなかったとしても、恥ずかしくても惨めでも、きちんと傷ついていればよかった。
好きな人に振り向いてほしくて頑張った、可愛い自分を否定しなければよかった。
タラレバってこういうことだ。
ダッサダサの高すぎるプライドを壊すため、私は今日も筋トレに励んでいる。
今度はブドウ虫も掴める素敵な男性のために、可愛い努力をするんだから。
思わずシャッターを切りたくなる人と、バレバレな笑顔の写真が増えるんだから。