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彼女はプラズマクラスター

私の親友はプラズマクラスターだ。
私に友達がいないとか、機械が友達とかではなく、親友が私にとってそういう存在だという意味で。
「プラズマクラスターはシャープだけ♪」 とエアコンや空気清浄機のCMで流れてくるあの歌、一度は聞いたことがあるはず。
でも何者なのか、何がいいのか全然知らなかった。うちもあるのに。
シャープのHPによると、+と-のイオンを発生させて、そのイオンが空気中のウイルスと結合し、空気を綺麗にしてくれる。しかも静電気まで除去してくれて、浄化した後イオンは水になって空気に戻るそうだ。(公式HP:https://jp.sharp/plasmacluster/about/

どうして急にプラズマクラスターについて調べたのか。
2週間前、私は限界を迎えていた。

緊急事態宣言もまだ解除されず、在宅勤務が3ヶ月を超え自粛のストレスもしっかり溜まった頃、新しい部署へ異動した。
とても優秀でクライアントも上司も厚い信頼を寄せる先輩(出木杉先輩と呼ぼう)の後任として、私が配属となった。出木杉先輩は頭の回転が早く記憶力も良いので、1年数ヶ月の記憶を迷うこと無くペラペラ、どんどん話す。私は彼の記憶を数時間でメモし、記憶しなければならなかった。
引き継ぎだけでなく、各所への挨拶もすべてWeb会議で行った。新しい上司とは、まだ一度しか会ったことが無い。出木杉先輩もすぐに別の部署に移動してしまった。
そんな状況で仕事を始めたら、毎日大量に届くメールや頼まれる仕事の内容が理解できず、誰に助けを求めていいのかも分からず、何も出来ない不甲斐なさとプレッシャーで心が限界を迎えた。これまでもストレスで体調不良になることはあったが、今回のはちょっと違うなと感じていた。
なかなか寝付けず、悪夢を見て夜中に何度も目を覚ます。仕事のことで頭が一杯で休みの日も何も手につかず、家事どころか食事もシャワーを浴びることさえもできなかった。いつも喉に何か詰まっている感じがして息苦しかった。
だけど本当に追い込まれた時は意外と相談できないもので、心の不調が身体に現れはじめてから1ヶ月、誰にも言えなかった。やっと相談した相手は家族だったが、私が病院に行こうか迷っていると話すと、母は「大丈夫、あなたは鬱じゃない。お母さんも眠れなくなることはある。」と言った。
母は私を励まそうとしたのかもしれないが、その程度で病院に行くなんて情けない、大袈裟だと言われた気がして、それから相談できなくなった。
辛さを分かってくれているとは思えなかった。時代も環境も違うのだから当たり前なのだと今は理解しているが、その時は世界から味方が一人もいなくなったと感じた。

それから数日して、大学時代からの親友に連絡を取った。
本能的に心の栄養を求めたのだろうか、急に彼女の声が聞きたくなった。
「しゃべりたいな」と短いメッセージを送ったその日の夜、平日だったにもかかわらず仕事終わりに時間を作って電話をくれた。
半年ぶりに聞いた「もしもし」の一言で涙が溢れた。私がここまで書いてきた仕事の愚痴とも思える話を3時間近く聞き続け、「そんなプレッシャー私なら耐えられないよ、大変だったね、偉いね、すごいね」とひたすら肯定してくれた。彼女も仕事が大変でその話も聞いたが、母に話した時のような虚しさは感じなかった。
日付が変わる頃には、いつも通り笑いながら話ができるようになっていた。息もできるようになった。
彼女はいつもふわふわと優しい雰囲気で周囲の人を包み込み、安心させてくれる。昔からそうだった。彼女の周りの空気は美味しい。
そのことを彼女に伝えたら、「プラズマクラスターじゃないんだから」と笑っていた。
プラズマクラスターってどんな効果があるんだっけ、と思って調べたのが冒頭の説明だ。納得だった。心にため込んだ毒素が彼女の言葉や態度で浄化され、綺麗な空気に戻っていく。
彼女は私の心のプラズマクラスターだ。

まだ新しい部署での仕事は始まったばかりだし、眠れない夜も息苦しい時もたくさんあるけれど、時々彼女が作り出す美味しい空気を吸えたら、もう少し頑張れそうな気がする。
そして私も彼女のように、誰かのプラズマクラスターになりたい。美味しくない空気を知っているから、きっとなれると信じている。

#エッセイ #日記 #日常 #仕事 #れもんさわあ

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