映画備忘録9 『TITANE』
まず久しぶりにいい作品を見たということを言いたい。
いい作品とは?
自分の中でのそれは、「言葉に纏めることのできない」、または「ジャンルに捉われない」、もしくは「それまで培ってきた社会的視座を覆すような作品」のことを指し示す。
一体何なのだろうこれは?
鉄製の髪留めで次々と人々を殺めるシリアル・キラーものではなく、
車とセックスをして妊娠をする奇々怪界なホラー作品でもなく、
ふとしたきっかけで、狂人と狂人とが共に暮らす奇妙な共同生活のドラマでもない。
......それらは物語の細部に過ぎない。その中に潜む、“性”なるものについての問いかけが、話の中核を担っている。が、その答えが簡単に導き出せないからこそ、ひとえにこの話を纏めることが不可能となっている。
“性的”とは? ......同じ人物が、同じ踊りを踊っているのにも関わらず、何故そこに欲動の差異が生じるのだろう?
“母性”とは? ......女性のみが用いることを許されているその資質を、最後の彼に感じるのは一体何故だろう?
このように観る者たちの価値観を徹底的に揺さぶってくる。即ち、それまでの社会の常識や、世間の見地に亀裂を入れ、ベールの薄皮を剥がし、その奥に広がるカオスの世界の一端を覗かせてくれる。かくあるべきアートの本髄を100%提示している。
......勿論、ある程度のリテラシーさえあれば、話の本質を解き明かすことができるかも知れない。
例えば、
『......なるほど、チタンプレートのギブスは、冠のメタファーか』とか、
『TITANE(チタン)=TITAN(タイタン).....即ち、神話的な構造か』とか......。
けれども、そんな必要はないほどに、素晴らしい作品となっている。答えなるものは必要なく、カオスをカオスとして受け取ればいい。