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映画備忘録8 『地球に落ちて来た男』


「そこで出会ったヒト型の生物は、身長が140~150cmほどで、ぴっちりとした銀色の服と靴と手袋を身に着けていた。頭は薄く、人間の頭よりも長く、顔の皮膚は銀白色で、平らの鼻、切れ長の目をもち、口は切れ込み状で、会話しているときもほとんど動かなかった。かれらは外に出るときだけ、翼のある蛇の紋章を左胸につけていた。かれらは別の銀河から来て、すでに地球に基地を築いている」


......これは実際に起きた「ハーバート・シェルマー誘拐事件」の報告書で、彼は自身の失踪の原因を、特異な宇宙人に拐われたからだと主張した。

「切長の目をもち、口は切れ込み状で〜」

「蛇の紋章を左胸につけ〜」

「すでに地球に基地を築いている〜」


ヒト型爬虫類(レプティリアン)に遭遇したことがあると主張する、最も古い報告書として知られている。


これが1967年の出来事。

そして時代を少しだけ遡ると、彼にそう言わしめた背景が見えてくる。


1955年、SF小説の『盗まれた街』という作品が、「姿を変えた宇宙人が我々の生活に溶け込んでいる」というテーマをすでに描いていた。


東西冷戦期によく見られた「もしかすると隣人が東側のスパイなのではないか……?」というパラノイア的な不安が、この作品を産んだきっかけに違いない。


さらにはこの小説を、ドン・シーゲル監督が映画化した。『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』が、翌年の1956年に公開される。


そして1961年に、マーベルコミックの『Fantastic Four#2』にて、“スクラル人”が初めて登場する。かれらはヒト型爬虫類で、変身の能力を携えており、ファンタスティック・フォーの面々に成り代わって、さまざまな悪事を働いて、ヒーローたちの信用を失墜させようと躍起になる。


......これらの作品が、ハーバート・シェルマーを妄想世界に引き込んだのかも知れない。


さらには、影響力は影響力を生み、作品は枝葉のように広がる。『 V 』、『第5惑星』、『アライバル侵略者』、『アンダー・ザ・スキン』、等々......。いずれもヒト型爬虫類が登場する。


そして、この『地球に落ちてきた男』(1976)もその一つ。


デヴィッド・ボウイが演じる主人公は、妖しくも魅惑的な男(いちいちカッコいい)。


......その正体は、砂漠化した故郷の星を救うべく、地球に落ちてきた宇宙人だった。彼は水資源を持ち帰る計画のため、人間社会の中に溶け込んでいた。


「宇宙人はすでに地球を侵略している。影響力のある者、または社会を牛耳る者たちのすべては、“ゴムマスク”をかぶっており、仮面の下にはレプティリアンが潜んでいるのだ」という、レプティリアン陰謀論、ゴムマスク陰謀論の起源が、こういった作品の流れの上に成り立っている。




......ちゃんと調べろボケナス。歴史(経緯)を学べ。こういった経緯も知らず、タイムラインに流れてきた情報を鵜呑みにし、それを拡散拡張するだけの人々、即ち言葉(ロゴス)に囚われた人間が無数に存在する。そこに社会の終焉を垣間見る。

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