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2024年 59th 全日本合気道選手権 ~君/僕だって A part of crew~
1.私はまだ"武道家"になれない
1年というのは早いもので、気が付いたら今年も暖かい毛布にくるまって全く動けなくなっている。
お布団でぬくぬくして甘いミカンを頂いて、あとはテキトーにスパ銭行ってマンガでも読んで
シャンシャン🎄✨🎅のシーズンだ。
ま、大人は何かにつけて誰かにプレゼントをあげたくなる生き物だけどね。
─────────
とある木曜日。
仕事を終え、息子を風呂に入れ、柔道場に向かうのが最近の私のルーティン。
その日はふと山道を走りたくなり、帰路、G4のステアリングをいつもと反対に切った。
信号がないからかもしれない。
もしくは暗闇の中で1人、物思いに耽りたくなったからかもしれない。
こちらのが正しいだろう。
その山の中腹に、何でもない建材置場がある。
子どもの頃の私の遊び場だ。
そこには掘っ立て小屋を改築した専用のバッティングゲージ、通称"ゲージ"があり、中学生の頃はMax150キロのスピードボールを発射するアメリカ製のピッチング・マシンと対峙するのが木曜日のルーティンだった。
その行為が私1人の趣味だった訳ではない。
地元から集まった有志の中学生による「クラブチーム」に私は属していた。
最も私は最後まで試合に出たり出なかったりの中途半端な選手だったのだが。
中学を卒業して数年後、そのクラブチームが解散したことを人づてに知った。
確かに、確かに私のチームは本当に強かった。
創部3年で全国大会に2回も出場した程だ。
野球理論も、練習量も、根性も、地域では図抜けたものがあった。
毎週末朝から5キロ走をやってから夕暮れまでひたすら白球を、ボールの色がうす黒くなるまで追いまくる生活。
そりゃ誰だって、嫌でも体力はつく。
だが、今となってはバッティング・ゲージの中で白球に食らいつく少年の姿がどんなに目を凝らしても、穴が空くほど見つめても見えてこない。
何故だろう。
街灯のない山の中で、漆黒の闇にぼんやりとゲージの緑のネットが浮かんでいる。
地元で働いているとネットワークが拡がり、色々な情報が入ってくる。
今は知り合いの方が、当時実はすぐそばにいた赤の他人だった、なんてことは日常茶飯事だ。
その人間関係から得た情報を基に考えると、察して余りあるものを感じることも多いし、まだまだ分からないこともたくさんある。
何故チームが解散に至ったのか…
時が経った今となっては分からない。
ところで。
武道は「人間関係における礼節や作法、所作、上下関係、そういったものを重んじる」と言われる。
正直、うざったいなと思う。
年上とも、年下とも、もっとフラットな人間関係を築きたい、と思うことばかりだ。
強い人は若かろうが年増だろうが強いし、「今はまだ」弱い人もまた然り。
言葉を変えれば、上手い、これから上手くなる、とも表現出来るだろう。
強いから良い、弱いからダメだ、なんていう短絡的且つ粗雑な話を僕はしたい訳ではない。
それは、ここに強く明記する。
私が書きたいことは、
どうやらその「うざったい」の中に、今日も畳の上で命を懸けて己と向き合う少年少女や青年、学生たちが多く息づいていることの意味が隠されているのではないか、と感じてならないことだ。
そこの解像度が不明瞭な辺り、どうやら私はまだまだ、一端の「武道家」にはなれそうもない。
ただ、自分なりの歩幅で、少しだけでもその"謎"を解き明かし、見つけていきたいと思っている。
そう、今日は第59回全日本合気道選手権──
私にとっては7回目の全日本選手権になる。
一瞬の逡巡を振り切り、僕は志村坂上駅の階段を一思いに駆け上がった。
2.綜合乱取試合 1~2回戦 "力、ひしめく中で"
綜合乱取には11人がエントリー。
A、Bコート共に綜合乱取1回戦を消化する形で始まった本大会。
1回戦はやや反則が目立つ試合もあったが、Bコートでは尉遅選手(立大)が遠間からの先制打、潜り込んでの逆内刈など稽古の成果を発揮して2回戦に上がってきた。
2回戦。
中村選手が見事な巻込投を見せると、
菊地選手は指導稽古の要領で間合を図りながらウォーミングアップを済ませた。
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完璧な試合運びを見せた。
私は第三試合から登場。
打技は正直残心で誤魔化した様なところがあったが、投げ合い、組み合いは非常に楽しかった。
尉遅選手は秋頃から足腰に粘りが出てきた様に思う。
潜り技を腐らずに稽古してきた人にのみ宿る粘り腰だ。
彼に限らずこの競技を長く続けていく為に「足腰」の強さ、柔軟性は必須。続けてほしい。
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投、打を網羅していこうというチャレンジングな
「綜合乱取」を見せてくれた。
結果は私に軍配。
しかし、尉遅選手も来春からのビッグ・スパークを期待させるには十分な乱取を披露してくれた。
第四試合は北海道から大久保選手が登場。
学生王者の恩田選手(坂戸)に挑んでいった。
間合が難しいのか、反則が少し多くなってしまった様だ。両者共に消化不良は否めないだろうが、これも最善を尽くした結果。
準決勝の顔触れは中村、菊地、私、恩田。
昨年と違うのは'22年王者の菊地選手が帰ってきたことだ。
調べれば分かるが、彼は'15、'16、'22年と既に3回王者に輝いている。
昨年王者の私としては「暫定王者」の呼び名をそろそろ覆したいところ。
中村、恩田両選手だって負けてはいない。'19年の第56回大会で菊地選手に土をつけたのは中村選手であり、3人の中で唯一菊地選手に勝った経験もある。
恩田選手も今、正に伸び盛り。
今夏の学生大会は余力余しまくって余裕の優勝を果たした。
そんな4人によるバトル・ロワイヤル。
そう、無情にもここでは「戦わなければ生き残れない」のである。
3.捕技乱取試合 1~2回戦
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堅実且つ「掛り」がしっかりしていた。
捕技乱取には17人がエントリー。
Aコートからは'22年王者の加藤選手、立大主将の星崎選手を下し松本選手(池袋)、吉見選手(坂戸)、順当に佐藤碧(池袋)が勝ち上がる。
Bコート。落ち着いた捕技で浦田、菅野両選手、坂戸の村井選手、昨年優勝者の佐藤真歩選手がベスト8に進んだ。
私は綜合乱取にエントリーしていたので捕技乱取の様子をコートの隅で立大広田総監督、宮城監督と眺めていた。
ご両人とも、私の先輩方であることはもちろん、この道に引き込んだ張本人だ。
特に広田総監督には池袋キャンパス一号館で直接声を掛けて頂いて新歓されてからの縁だ。
それは約10年前、2015年の春のこと。
意気揚々と広田総監督の後ろを付いていき、行き着いた合気道部の控え室には今は鬼籍におられる大西前総監督と、宮城監督と、佐藤碧くんがいた。
……
時は流れ続ける。
今や卒業したOBOGも選手として第一線を張っていこう、綜武会という場を活かして武道そのものに深くコンタクトしていこうという気運がかなり高まっている。
大会でOBOGが躍動する様子を見て、立大広田総監督が苦笑されていた。
「OBOGが活躍しすぎると(学生が勝ち上がれないから)学内奨励金の結果報告が渋いんだよな…」
なるほど確かに。
このことについて今すぐに具体策を講じる必要性はないと思う。
が、現役学生とOBOGの実力差が顕著なことは火を見るより明らか。
こなしてきた試合の絶対数、経験値が違うのだから、この現象は不可抗力だ。
誰も悪くないし、卒業した連中、つまり私らを含め広く「立教」と捉えれば、少しずつ時間を掛けて力を付けてきた証だとも思う。
ただ、その間を埋めるような新たなトーナメントがあると面白いかなと思う。
例えば、全日本優勝経験者やファイナリストは出場制限を設ける様なオープントーナメントを増やすのはアリかな…と。
「どうせ○○先生には勝てない」というムード漂う全日本選手権では大会の盛況度にもかなり悪影響だし、番狂わせやジャイキリも中々見られない。
また、そう思われた先生にとっても非常に不幸なことだと思う。
全日本とは異なる別のトーナメントを通じて生まれた新たなチャンピオンが「全日本」のチャンピオンに挑んでいく、という様な構図(今だと、学生チャンピオンが全日本選手権に挑むように)を作れれば「全日本合気道選手権」の価値も少しずつ高まっていく。
やはり今までの歴史の様に、全日本合気道選手権は武田流中村派すべてのトーナメントを集約した、求心力を持つ大会であるべきだ。
そして、そのレベルを上げていこうと何かしら考えること、策を講じることは今、審判や運営をして頂いてる先人たちに少しでも報いることに繋がるのではないか。
今、一線を走る選手たちはそのことを意識しつつ戦わなければならない。
4.柔術拳法組手乱取試合 1~2回 ~躍動する新星たち~
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来年は東南アジアへ留学を控えているそう。
頑張って!
柔拳法組手乱取には8人がエントリー。
ベテラン平野選手(坂戸)、中村、私…両池袋勢、中澤選手(板橋)が準決勝に勝ち上がる。
…と結果だけを羅列すれば聞いたメンバーばかりで何だか味気ないが、せっかくなので別の角度から振り返ってみたい。
それは、今回初出場の板橋綜武館の3人の存在だ。
この章の主役、砂田選手、エルハナフィ選手、中澤選手の3人と小野先生を交えて大会後に少し話をさせて頂く時間があった。
彼らは板橋綜武館、小野師範の道場の門下生だ。
小野先生と彼らの会話の雰囲気が見ていて、何だかホッコリしてしまった。
何と言うか、師弟の信頼関係が会話に滲み出ている。
皆綺麗な目をした少年たち、彼らは驚いたことに全員高校生だという。
体格がいちばんしっかりしている砂田君に至ってはまだ高校一年生だ。
級の問題でまだ白帯を巻いてはいるが、素人とは思えぬ構え、佇まい、何より表情がいい。
エルハナフィ君に聞いたら「彼は日拳(日本拳法)をやっている」という。……納得!
中村くんと組み合って組み負けないのだから大したもの。
蹴りなんか間違いなく私より上手いし、強い。
恐らく3年あれば優勝争いに顔を出すだろう。
坂戸にいる少年たちと切磋琢磨して頑張ってくれたら嬉しい。
5.自由型徒手演武 ~はじまりはいつも真っ白な帯から~
自由型徒手演武には6組がエントリー。
2組目の唐澤・大久保ペア(北大・北星連合)は夏の学生大会でも出場したペア。
座技からしめやかに始まり、時折打撃を挟みつつ、全体的にシックな仕上がり。
蹴受からの一本背負などしぶーい技がイイネ…
「ここはあの演武を参考にしたかな?」
と想像しながら観るのが楽しかった。
スピード、打撃、技、すべて夏よりも難易度を上げた自由型。
背車~抱腕当~巻込~打決めの流れは見事!
会場も沸かせてくれたので、次のペアの私達もやりやすい雰囲気を作ってくれた。
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春から雰囲気作り~決め~残心まで徹底して拘った。
………
第三組、私達のテーマは「柔拳➡️合気術へのスムーズな移行」だ。重々しい騎馬戦から落馬、地上戦。
そこからスピーディーに合気の技へ……古流技を繋ぎに使いつつ、如何にスムーズな移行を見せるかがポイントだった。
──────────────
……なーんてね、ウソです!ウソウソ!!
世間はクリスマス、せっかくやるんだから
シャンシャン✨🎄✨シャンシャン
たのーしーくやりやしょうよ
(って会話を真歩ちゃんとしていた)
ってことで、オレたちサンタになるか?
じゃあ乗ってるのは馬じゃなく
トナカイってことにしよう!(構えは騎馬でも)
しかも2人ともは馬どころかポニーにも乗ったことがない模様。果たして!!
って感じで始まった自由型。
終わってみれば致命的なワンミスしたものの自己ベスト84.3点が出た。笑った。
真面目なところを書くと、
・先生方、互いの挨拶をしっかり行うことで、先生方には演武を観て頂くことへの感謝の気持ちを高め、一緒に演武に挑むペアに対しては一緒に頑張ろうという気持ちを高めること
・初伝研修の際に教わった柔拳法古流型を受けや決めはしっかりやりつつ、重々しくなく表現すること
・繋ぎのキワのギリギリを責めた打撃と交わし
・コートの揺り戻しを利用し、終盤をど真ん中で迎えること
・僕の苦手な後回蹴~飛込突のタイミングをスリリングにやりきること
・自分の一年間拘ってきた技(巻投)で終わらせること
・騎馬を表現する時間を持つこと
・勝ち型の竜尾構、負け型の横門竜の構え方、構えるタイミングetc…
…等々、お互いにそういったところにかなり気を遣った。
大先生方の演武を観ても、
やはり演武は前後±5秒で雰囲気を作れるかが勝負だと思う。
恐らく点数にもならないであろう所に神経が向けば、自ずといい感じの緊張感が生まれることを知れたのは大きな収穫だった。
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菊地先生の見事な隅落
第5組の菊地先生、恩田選手のペアの演武は…
エグかった。
なんで一週間でそのクオリティになんの。笑
前々から思っているが、
菊地先生の技は力感なく受がふっとんでいく。
昔から不思議に思っている。本当にスゴい。
あんまり先生の演武に対してコメントしすぎるのも失礼かなと思うのだが、隅落、当身から返技の掬腰車、上返の肘決め。渋カッコ良い。
シンプルに腕十字に寄らないところが……
好きです。
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ひとり白帯を巻き、不安もあるだろう中、
先輩と果敢に挑んだはじめての全日本選手権。
もう1組、フォーカスしたいペアがいる。
立大の菅野選手×田村選手ペアだ。
その人は、猛者が集う全日本選手権の中へ
たった一人白帯を締めて、口を真一文字に強く結んでやってきた。
まだ初段の型も知らなければ、浮転身もおぼつかない。
皆と同じように大学に入って初めて道着を着たのだ。無理はない。
だが、彼女は25秒、全員の前で見事に演武をやりきった。
菅野選手が彼女を上手くリードしてくれていたことも見逃してはならない。
抜入身の脚捌、抱腰の掛り、背車巻込~裏拳打の揺り戻しのスピーディーさが素晴らしかった。
そして、それに一生懸命ついていこうとする田村選手の姿勢に心を打たれた。
皆、誰しも入部、入門した時は白帯である。
だが…いつしかそれを忘れてしまう。
謙虚でひたむきだった頃の自分は失せ、段位や名誉や権威と引き換える様に積み重ねた貯金で試合を、武道をやるようになってしまう。
私にも心当たりがある。
それが嫌で嫌で仕方なく、その"過去"を振り切るように、私は本当に誰にも告げずに白帯を巻いて、柔道や柔術を始めてしまったという背景がある。(今だったら流石にやらないけど笑)
たとえ周りの方に白い目で見られても、自分自身を真っ白な目で見れなくなる方が遥かに嫌だからだ。
ただ、それでも…初めて白帯を巻いた人の「本当のひたむきさ」には敵わない。
彼女の今回の演武への取り組む姿勢を見ていて、やはり自分が「やってみたい」と思うことへチャレンジすることは、周りが無謀だと感じても尊いものなのだと確信を持つことが出来た。
自分を鑑みると、試合を好き勝手にやるし、試合中に喋るし、やったらめったらに煩い。
映像を見返してコイツ輩か?とも思う。
見る人も「本当にこの人は武道家なのか?」と疑念を抱くだろう。
教育にもよろしくない。
態度はサイテーだと言われても何も返す言葉は持ち得ていない。
ただ、対戦相手と審判の方へのリスペクトを忘れたことは一時たりともない。断言する。
どこまでいこうと、試合はお互いにお互いを高め合う場所だと考えているからだ。
横の比較、絶対的な優劣を競う場所ではない。
あくまでも試合は稽古の一環。
ただし、全日本選手権は"特別な"稽古場だ。
そこに傲慢さや油断、マイナスな感情は無駄な重しになってしまう。
不要なものは荷物になるから、
お家に置いてくればいい。
そもそも試合で履く白袴には「死装束」の意味があるらしい。
必要なのは"死に方"…まぁ現代の乱取では本当に死ぬわけではないから、必要なマインドセットは"負け方"の準備くらいだと思う。
負けた時に潔い自分でありたい。
仮に、こんなでも、新米でも、
既に"先生"の端くれ。
誰より豊嶋先生に、情けない姿は見せたくない。
試合にチャレンジする姿から、観てくれる方へもう"何か"を示さねばならない立場だよな、と自分に言い聞かせる。
私は静かに準決勝の始まりを待った。
優勝は池袋(瀬戸×佐藤真歩選手ペア)
準優勝は坂戸(菊地先生×恩田選手ペア)
3位には北大北星(大久保選手×唐澤選手ペア)
がそれぞれ入賞を果たした。
6.自由型武器演武 "合気道ってなんだ?"
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同じく左手負傷の中村選手は優勝を狙い奮闘。
惜しくも準優勝。
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パブリックイメージの"合気道"を
表現した様な印象を抱く。
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当廻投~脚エフェクトの抜手~決の流れがお見事!
武器型演武はまた新たなチャンピオンが生まれた。立大星崎×玉川ペアだ。
何より評価されたのは序盤の展開と決めの形(当廻~抜手~打の決)だと思う。
練習の経過を観ていたから、正直なところビックリした。一週間でかなーり練習したんだなと思った。美しい打込の決だった。
杖と言えば…忘れられない子達がいる。
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そう、立大の石井・藤島ペアだ。
彼らが、去年の武器型の主役だった。
打撃を交え、発声気合迫力満点の自由型。
杖を振り回し、コートを動き廻り、前腰折倒、杖打の決め。
決の形が重なったから彼らを思い出しのかは分からない。
ただ、これで武器型は立大が二連覇を果たした。
「武器自由型と言えば立大」と呼ばれる様な新しい伝統を築いていってもらえればいいんじゃないかなと思う。
準優勝の中村、小黒先生ペアは正直、中村選手が「素人」役をわざと演じなければ…
彼は自由型に関してはどんな役割でも完璧にこなす、ザ・パーフェクト・ヒューマンだ。
今回も武の心得のない"素人役"を完璧にやりきっていた。
仮決めで私と組んだ時用の徒手型も既に完成していたそう。
彼はそういう人間だ。
でもきっと拘ったのはそこじゃないんだろうから、この結果はこれでいいんだろう。
立大の後輩、中村選手×菊池選手ペアの武器型は大変失礼ながら当日初めて拝見した。
中村選手の流れる様な美しい転身受身と菊池選手の手捌きが…いい。
逮捕術ならぬ手首ロック~後腕絡~打決の流れが綺麗。
武器をちゃっとしまう一瞬のモーションもいい。
ところで、武田流中村派の合気道は、数ある流派の中でも「硬め」の流派の合気道だ。
他流派の技は合同稽古くらいでしか存じ上げないので比較のイメージが曖昧で大変申し訳ないのだが、恐らく試合を行わない分だけ受が"抵抗をしないこと"に「抵抗がない」のかなと感じている。
捕と受の鬩ぎ合いが激しいので、ウチの技のやり取りは世間で言われる合気道よりも「硬め」。
試合のある他武道や競技特性で言えば「格闘技」…例えば日本拳法や空手、柔道、レスリング、少林寺、総合格闘技などと親和性が高いと思う。
何が言いたいかというと、
パブリックイメージの"合気道"をイメージして武田流中村派に偶々入門してしまうと、試合、特に綜合乱取、柔拳法組手乱取を見た時にビックリしてしまう人がめちゃくちゃ多い、ということだ。
かくいう私も漏れなくその1人であった。
初めて先輩の綜合乱取を観た時に「こ、これが合気道なのか……?」と疑念を抱いてしまった。
そりゃそうだ。
立大合気道部に入部した時点で流派のご事情や背景なんざ知ったこっちゃないことだし、合気道自体がドマイナーな武道なので余計にその側面が理解出来る訳がない。
余談だが、私は「少人数の部活動、学生生活」に憧れがあった。
「銀の匙」という漫画をご存知だろうか。
農作業に一切かかわりのなかった一般家庭の次男・ 八軒勇吾が、入学した先の農業高校で苦悶し成長する青春ドラマ。 「食べること」の本質に迫り、農畜産物を消費者と生産者の視点から描いている。 過去のトラウマや家族とのわだかまり、漠然とした将来への不安を、農家出身で厳しい現実と向き合う同級生たちと共に乗り越えていく
というあらすじ。
主人公は未経験で馬術部に入るのだが、そこでの生活描写がまぁ~~いい。青春。
高校生の頃、北大に密やかな憧れを抱き、国立コースを選択したのは明らかにこのマンガの影響だ。
ただ、オツムが足りなすぎて受験は諦めてしまったが。
ともかく、「主人公八軒くんの馬術部ならぬ、少人数でワイワイ、地味だけど楽しい青春~~が出来そうな」部活をフラフラ探していたら部員が6人しかおらず、ガチのマジで廃部寸前の立大合気道部に辿り着いてしまった。
つまり、流派云々以前に私は武道にすら興味がなかったのだ。
ただ、タラレバを言っても仕方ないが仮に北大に万が一受かったとしても、北海道への憧れを貫いて北星、はたまたやはり立大でも…合気道部を選択してしまうと、最終的に何故だかドマイナーなウチの流派に辿り着いてしまう。
苦笑するしかない。
──────────────
優勝は立大(星崎選手×玉川選手ペア)
準優勝は池袋(小黒先生×中村選手ペア)
3位には坂戸(鈴木先生×麻見選手ペア)
がそれぞれ入賞を果たした。
7.準決勝 綜合乱取試合
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菊地先生vs中村選手
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白熱のカードが2枚続いた様に思う。
勝負は回数を重ねれば重ねるほど、因縁めいたものが出てくる。
ここ3年間はほぼ、この4人で永遠に終わらぬ
ジャンケンをしている様なものだ。
結局、グーはチョキに強いが、パーには弱い。
だからこそ勝負は面白いのだが…。
第一試合。
菊地先生×中村選手
2回戦で間合を調整していた菊地先生が積極的に投げに入っていった姿が印象的だった。
中村選手も菊地先生の左手を巻き取って投げていこうとする形はとても良かった。
本来であれば両者ともに打を主体に組み立てながら相手が懐に来たら投げていこう、という後の先スタイルの試合運びが多いイメージだが、この日はケンカ4つの直線の差し合いが普段よりも深く差さりあっており、その結果として両者ともに譲らない「投」がメインになった綜合乱取だった。
両者とも反則は1。
判定は2‐0、菊地先生。
一足先に決勝進出を決めた。
第二試合。
恩田選手×瀬戸
今年学生王者となった恩田選手と、一昨年、昨年に続き3年連続で全日本選手権で顔を会わせることになった。
この日は何故か私の面打が有効に効いた様に思う。近間、遠間、共に私の間合で試合が進んだ。まぁ……本当に偶々なのだが。
決勝は菊地先生と私。
3位決定戦は中村選手と恩田選手というカードに決まった。
8.準決勝 捕技乱取試合
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この日は運を手繰り寄せきれなかった。
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流麗且つ力強い彼女の捕技乱取が
初めて準決勝の舞台で披露された。
捕技乱取準決勝。ここまで来ると一つのミスは文字通り「敗北」を意味する。
また、佐藤碧先生に聞いたところによると全日本選手権の捕技乱取は攻撃減点をかなり見られているという。
自分が技をミスしてはいけないだけでなく、攻撃の反則、間合、形、また受身にまで拘わる必要がある。
運転免許の試験ではないが、
かなり注意力を要する競技だと思う。
恐らく自分が出場しても1回戦で散るのがオチだろうが、私なりに振り返ってみたい。
第一試合
加藤先生×佐藤碧先生
両者ともに優勝経験があり、毎年の様に対決している両者。
恐らく突の捌き一点が勝負の境目。
脚捌き、作り、攻撃の間合を観ても加藤先生の方が安定していたと思う。
第二試合
浦田選手×佐藤真歩選手
立大の先輩、後輩対決は審判泣かせの試合となった。佐藤真歩選手の初手から技二本(大捻、転換腕絡)でミスが3つ出た時点で勝負あったかと思ったが、その後は型を守りきり、しっかり立て直した。
浦田選手は非常にスピーディーに気持ちよく投げていたと思う。
見る人によって判定に差が出る技が本人にとっては得意技、手癖技なのはよくあることだ。
判定は割れ、佐藤真歩選手が決勝へ進んだ。
原因分析はしたくない。
結果論にしかならないだろう。
タイプが違うだけに非常に難しい一戦だった。
9.準決勝 柔術拳法組手乱取試合
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彼も高校生。これからが非常にたのしみである。
第一試合
平野選手×中村選手
菊地先生との一戦で利き手の左手を負傷した中村選手だったが、通常のサウスポースタイルからオーソドックススタイルにスイッチ。
…アドレナリンが出て、途中ノッてきちゃったのだろう。
肩をこれでもかと怒らせクネクネしながら対戦選手に迫るいつもの謎クセが出てきた。
しかも柔道出身の平野選手相手にがっぷり4つで組み合い出したもんだから、コイツ遂に血迷ったかと思った。
左手ケガしてるっての…笑
終盤は間合を測って右中段逆突で〆。
相変わらずトリッキーなんだか、豪快なんだか、繊細なんだか…
全くよく分かんない男である。
第二試合
中澤選手×瀬戸
先般書かせて頂いた板橋道場の中澤選手と対戦。いや、蹴が重たいもんでね。驚いた。
とりあえずいつものパターンで一本取った後はちょっと遊ぼうと思っていたので、投に入ったり脚を取ったりしながら反応を観ていたが、反応が良い。身体も強い。
上段突が自分の課題でもあるので、近間で上段打とうと思って潜ったら思いの他、間合に入ってしまい当て気味の触当になってしまった。
※後で中澤選手にはしっかり謝った。
決勝は中村選手×瀬戸となった。
私にとっては昨年のリベンジ・マッチである。
10. 三位決定戦 柔術拳法組手乱取試合
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平野選手×中澤選手
平野選手(坂戸)が快勝。
前足の1歩目はやや出ていなかった印象だが、肘から先のコントロールの上手さを活かした攻撃を展開し、ベテランらしく突技二本。
3位入賞を果たした。
11.三位決定戦 捕技乱取試合
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佐藤先生×浦田選手
こちらも先輩後輩対決となった。
結果だけ見れば佐藤先生が3位に入賞を果たしたが、この章では別の視点にフォーカスしたい。
浦田選手のことだ。
彼女は驚いたことに初めて全日本選手権で準決勝まで進出した。
埼玉大会では今年を含めて2回、優勝している。私も過去彼女に破れている。
誰よりも高いポテンシャルを有しながら、トーナメントの絡みで中々出てくることが出来なかった。
彼女の技の魅力はそのダイナミックさだ。
流麗でありながら力強い。だからダイナミックに映る。それは佐藤先生にも同じことが言えるだろうが、観ているこちらがワクワクする捕技乱取をしてくれる。
普段使わないジャンルの技を研究し、乱取の幅が広がればまだまだ全然長くやれる選手だ。
次の優勝は、全く夢じゃない。
頑張ってほしい。
12.三位決定戦 綜合乱取試合
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中村選手は手刀の生命線、左手のケガが悔やまれる。
中村選手×恩田選手
珍しく左打同士での相四つ対決となった3位決定戦は中村選手の差打反則で恩田選手が3位入賞を果たすという何とも渋い決着となった。
実は2人の対決は2年前、コロナ禍での交流大会にまで遡る。
この時も当時高校2年生の恩田選手が勝ち上がったが、中村選手の左胴打で技ありを許している。左打の左胴打だから、中々見ない打ち技であり、印象に残っている。
この時は近間で打を放ってのジャストミートだったが、3位決定戦の際は投げを狙い、接近しようとしての左胴打で差打反則を取られてしまった。手を負傷しており、打つとキズに響いたのかもしれない。
対して恩田選手は中村選手ががぶって寄ってきた所を引胴打で上手く合わせた。
この大会の内容は不本意だったかもしれないが、この三年間で経験してきた試合数、大会数は大したもの。
何より年上の選手たちの中に挑んでいこうという姿勢が、誰よりも積極的なのが彼の最大の魅力だ。
次は春の埼玉大会。
課題の投技にチャレンジしつつ、バランスよく稽古を積み、自分の持つ無限のポテンシャルを伸び伸びと育てていってほしい。
13.決勝戦 柔術拳法組手乱取試合
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私の届かぬ間合から打ち込まれた。
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中村選手×瀬戸
決勝戦は昨年の準決勝で破れた中村選手との一戦。
昨年は不用意に近付いたところを左中段逆突でやられてしまったので、そこにはとにかく気を付けつつ、苦手な蹴も交えて投げ合い、最悪柔道をやるつもりで間合を詰めていった。
が、察知されたのか彼は誘いに乗ってこない。
フッとガードを下げた刹那、綺麗な裏拳迎打で先制を許す。
そこからはパンチのラッシュ、ラッシュで余り記憶がない。とにかく必死に脚を使って左手を伸ばしていった。
何も考えず懐に潜っていったのが良かったのかもしれない。
決め手はやはり頼れる相棒の左手一本。
3回目の出場で初めて柔拳法優勝を果たすことが出来た。
次の目標は先ず昇級……んと、
確か五級を取ることからかな……。
14.決勝戦 捕技乱取試合
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加藤先生×佐藤真歩選手
終始、ミスのない捕技をやりきった加藤先生が2回目の優勝を果たす。
特に前落の脚捌、掛かりが見事でした。
前回優勝された2年前よりも高い完成度の
「負けない捕技」。
これを打ち破る選手は、このトーナメントの中にいるメンバー、もしくは彼の壁の高さを知る人の中から現れてほしい。
そうすればより重層的な"捕技乱取"が繰り広げられるのではないかと思う。
観客の1人としては、「型」を超えた「型乱取」が見られれば、と切に思っている。
15.決勝戦 綜合乱取試合 ~貫いたトラディショナル・スタイル~
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右足一本で踏ん張りきった捨身裏投。
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私の撹乱に過剰な反応を示すことなく、冷静に見切り切って左胴打一本で大会を締めた。
菊地先生×瀬戸
2年ぶりの再戦となった本カードは序盤、私が確実にリードした(と思っていた)。
手数も間合も、こちらがコントロールしているはずなのに、何故か?
当たるはずの打が当たらない。
そう、これこそ菊地先生の罠である。
50秒過ぎ、間合を読みきっての飛び込み面で先制を許す。
打たれた痛みはない。
「あっ、まじか」と感じただけ。
どうにかして間合を詰めようと思っていた次の瞬間、菊地先生の身体は宙に浮いていた。
ここが攻め時だと感じながら打を打ち込む。
少しは有効な打になっているのだろうか。
思いは虚しく、まるで何でもないように僕の打は完璧にいなされてしまう。
自分も気が付かない内にジリジリと間合を測られ、一瞬腰が浮いた瞬間、左胴を完璧に撃ち抜かれた。
試合それまで。
綜合乱取の基本は、しっかりと打込を主体にしたスタイルを作り上げることだ。
それが歴代のチャンピオン、古くは豊嶋師範から歴々と受け継がれてきた当流派の血筋であることは間違いない。
他ならぬ私もそのスタイルの中で育ってきた人間だ。確実に試合に「勝てる」スタイルであることも間違いない。
だからこそ、自分が1人磨いてきた柔、打の間合を自在にコントロールし、どこからでも攻撃していく"一歩先の"(※一歩先かどうかは置いておいて)スタイルで、トラディショナルなスタイルに打ち克ち、新たなスタイルを確立しようと思って、この一年間稽古をしてきた。
見方を変えれば、私は豊嶋師範に挑んでいったのだ。
今回、残念ながらその無謀な挑戦には敗れてしまった。
ただ、私は一時の相克に破れ去っただけだ。
また来年がある。
第59回全日本合気道選手権は、こうして菊地先生によって締められた。
16.ノーサイド・ゲーム
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今年も本当にお世話になりました。
ふたりでピースしてるのこれしかなかったけど
渉先輩目ぇつむってるよぉ~~
撮影 by 恩ちゃん
ぼくがずっと憧れている試合がある。
それは2年前、
第57回の全日本合気道選手権決勝戦。
7回の優勝実績を誇るレジェンド、松下先生に菊地先生が果敢に挑んでいった試合だ。
私は準決勝で菊地先生に破れ、決勝戦の舞台に上がることは出来なかった。
しかし、菊地先生の真後ろ、特等席で彼の背中を見ていた。
一言率直に、ぼろっぼろに泣いた。
綜合乱取で初めて骨の髄まで感動して、涙が止まらない試合だった。
この試合は観れば分かるが、圧倒的なプレッシャーを放つ松下先生に対して菊地先生が岩のように立ちはだかり、両者ともに譲らない。
本当に薄氷の上で繰り広げられたような勝負だった。
3分強堪えきり、土壇場で逆転の飛び込み面を放つ菊地先生、負けじと身体を切り裂くような胴打を繰り出す松下先生……
綜合乱取とはこんなに恐ろしくヒリヒリするものかと、肌で感じた試合だった。
祖父江会長がよく、「人に感動を与える試合をしてください」と開会式の時に仰られる。
私は初め、それをよくある社交辞令みたいなもんだと思っていた。感動なんて、そんな簡単な、チープなもんじゃないよね、と。
が、今はその意味がよく分かる。
あの決勝戦を観て、周りを見渡せば泣いているのは私だけだったし、もしかしたら感動していたのは私だけだったのかもしれない。
けれど、確かに感動する試合は存在する。
人によってその感動ポイントは種目によっても違うだろうし、感じ方も人それぞれだ。
そんな試合を、自分自身も出来るようになりたい…とはとても言えない試合運びばかりしてしまっている。
あの試合に一歩でも近づけるように…
少しずつまた稽古していけばいい。
…今回の決勝戦は、2分3秒間行われた。
この一戦を経て、また次の目標が出来た。
私は、菊地先生の左胴打に撃ち抜かれたあの決着の瞬間を越えるためだけに、これからの一年間を過ごすだろう。
お互いの死闘を称え合い、私達はそれぞれの帰路に着いた。
17.My life is…?
三十路の足音が近付くにつれ、ふと、「人生とは?」的な答えのない問いにぶつかることが増えた。
これだけ身体を酷使しつつ、健康に生きられている分だけ、かなり有難い人生だと思う。
私にとって武道は純然たる趣味だ。武道をやって日銭を得ている訳ではない。ただ、やるとなったら本気でやらねば気が済まない。
家族だけでもないし、仕事だけでもない、かといって武道一本でもない。
じゃあなんなんだ、と思った時に僕が一番大切にしたいのは「コミュニケーション」なのだ、と最近になって漸く気付いた。
武道をやるにしても、仕事をやるにしてもやっぱり仲間とワイワイ楽しくやりたい。
厳しいだけでも、だらだらやるだけでもダメだ。
やっぱり仲間と本気で、目標に向かって和を以てやるのが一番充実感がある。
その事にハッキリと気付けた一年間だった。
だから、誰ともコミュニケーションを取れる様に謙虚に生きていきたい。
僕が今一番、コミュニケーションを取るのが難しく、けれど誰よりも楽しい人の話をして、この長い長い大会レポートを終わりにしようと思う。
彼は毎日表情を変える。
今は喃語(なんご)を一生懸命話して、僕たち夫婦とコミュニケーションを取ってくれている。
お得意の左寝返りを披露し、手足をバタつかせ、世界をふしぎそうに眺め、たのしいとわらい、さみしいとなく。
かまってもらえないとおにのようにおこる。
恥ずかしいが、彼の真意が分からない時ばかり。
いったい、何を求めているのだろう?
ただ、どんなに彼が分からなくても、簡単にお口におしゃぶりを突っ込んで眠らせる様な真似はしたくないと僕は思っている。
だっこしてほしいのかな。
ミルク?。
オムツかな。
あ、ねむたいのかな…。
そんな彼を毎日見ているなかで、僕にも願いが生まれた。
いつか、息子と言葉を使って会話がしてみたい。
「いずれ喋りだすよ」と人は言うだろう。
そんなことはわかっている。
だけど、今はまだ言葉を喋れないのだ。
1年後に話せるか、ましてや命があるかなんて誰にも分からない。それは自分の命も。
だから、今日も一生懸命生きていく。
明日を迎えるために。
いつか息子と言葉を交わしあえる日を心待ちにし、麗らかな木漏れ日の中にまだ見ぬ春を思いながら本稿を締めたい。
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(2024年12月吉日)