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筋腫や腺筋症に伴う過多月経をマイクロ波照射で低侵襲に治療する

子宮内膜を制御出来たら、子宮内からの出血は制御できます。

 性成熟期の子宮からの出血の多くは、卵巣から分泌される二つのホルモンすなわち卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)の血中濃度の周期的な変化に関係しています。ホルモン濃度に依存して、子宮内膜(子宮腔表面をおおう壁紙のような粘膜組織)の厚さと性状が変化し、周期的に出血する現象が性成熟期女性の月経です。正常の出血量では貧血の原因になって労作時の動悸や息切れを引き起こし、生活の質(quality of life(QOL))を低下させることはありません。子宮に出血の原因(悪性腫瘍とか、子宮内の血管の破綻とか)がない場合は、子宮内膜を制御出来たら、子宮内からの出血は制御できます。

 ホルモン治療は子宮内膜を制御する保存的な方法です。月経周期を調節することもできます。一定期間は無月経に保つこともできます。子宮の機能を温存できる可逆的な方法です。中止したら、症状はもとに戻ります。血中エストロゲンの作用を低下させると、子宮を腫大させ出血量を増加させていた子宮筋腫や子宮腺筋症は縮小します。同時に無月経になれば、貧血は改善しますので、外科的治療を行う前の準備として好都合です。閉経までの期間が短い場合は、ホルモン治療で閉経まで逃げ込むこともできるはずです。

閉経年齢を予測に有用な検査はありません。

 ホルモン値を測定すれば、測定時のホルモン状態がわかりますが、その後、いつ閉経するかまではわかりません。平均的な閉経年齢は50才前後ですが、55才で閉経する女性は100人に1人、59才で閉経する女性も300人に1人くらいいます。何かの検査で、あらかじめ閉経年齢が予測できると便利なこともあるのですが、現在のところ、閉経年齢を割り出す検査はありません。

年令的にはもうすぐ閉経するはずだが、筋腫や腺筋症に伴う出血が多いという場合は、どうしたらいいのか?

 一般的な婦人科医は、ホルモン治療や止血薬により閉経へ逃げ込むことを勧めるかもしれません。偽閉経療法と低用量エストロゲン・プロゲスチン療法などがホルモン治療の代表です。このような保存的治療が無理そうなら、子宮摘出を提案するでしょう。最近は、開腹手術は少なくなり、腹腔鏡下あるいはロボット補助下の子宮摘出術が増加傾向です。手術の前には、筋腫や腺筋症を委縮させ、同時に貧血を改善させる偽閉経療法つまりエストロゲンの作用を低下させるホルモン治療が行われるでしょう。

 出血が増える原因が筋腫や腺筋症であるのなら、それらを摘出することも有効な治療法です。しかし、閉経が近い時期に、子宮機能を温存する手術を選択するのは、あまり適切ではないと考える医師が多いようです。いっぽう、子宮筋腫の一部は子宮鏡下に切除することもできます。子宮鏡下手術の名人は相当大きい粘膜下筋腫を見事に摘出しています。

外科的な摘出手術はしたくないという場合はどうするか?

 子宮鏡下筋腫核出術は子宮内から筋腫を摘出する低侵襲の手術です。しかし筋腫が大きくなるとたとえ名人であっても手術時間は長くなります。径5cmの筋腫の体積はおよそ60cc、6cmでは100cc、7cmでは170ccです。1回で切り取れる組織の体積には限界がありますから、手術の手数が極端に増加します。

 そこで発想を変えてアブレーションという方法を採用すると新しい展開が可能になります。切除するかわりに何らかのエネルギーを加えて組織を壊死させます。壊死した組織は体が処理するので徐々に縮小し、切除した場合と同様の効果を得ることができます。

 筆者は約20年にわたって婦人科領域でマイクロ波アブレーション治療に取り組んできました。最初は、保険適用の治療法にすることを狙って、マイクロ波子宮内膜アブレーション(MEA)に使用する器具の開発から開始しました。MEAは先進医療として実績を積み重ね、2012年には保険適用になりました。

 

MEAの適応を広げるために経頸管的マイクロ波筋腫融解術

((transcervical microwave myolysis(TCMM))、経頸管的マイクロ波腺筋症融解術((transcervical microwave adenomyolysis(TCMAM))も開発しました。TCMMとTCMAMは、MEAのテクニックという位置づけでいまだ独立した術式ではありませんが、臨床試験を行えば十分保険適用になる実力があると思っています。しかし、保険適用にするために助力しようという声はどこからもあがっていません。



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