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ふと思い出したこと

規則破りの誘い

 中学生の時、クラスの友達のひとりが、こっそり学校の規則を破ってお菓子を交換したいと言い出した。
 お菓子はただ隠し持っているだけ。学校内で食べたりもしないしみんなに見せびらかしたりもしない。その日1日持っているというスリルを味わうだけの遊びだと。

「誰か一緒にやってくれないかなあ」

 そう言われて、大したことのない悪戯だしリスクも少ないと判断した私。

「いいよ。一緒にやる」

 と答えてしまったのです。

いざ決行! そして衝撃

 うちの学校はとにかく規則が厳しかった。
 中学なんてどこもそうかもしれないけど、休み時間のうちから勉強や運動を始めていないといけなかったし、髪型やスカートの丈まで細かく決まっていた。
 少しでも守っていなければクラスメート同士でも容赦なく注意し合う、そんな環境で過ごしてきた私は、「一緒にルールを破ろう」と言い合える友達の出現がちょっと嬉しかったんだと思う。

 当日、私とその友達は小さな小さな飴をカバンに入れて登校した。そして交換した。成功! やったね!!

 ところがその日、運悪く持ち物検査があったのです。

 言わなければわからない。ポケットにでもティッシュケースにもどこにでも隠せるし、カバンを全部ひっくり返して見せる必要だってない。
 私は黙っているつもりだった。だって、それも含めて計画だから。素知らぬ顔でお菓子を1日持ち歩く。そういう遊びだったから。

 でも友達はあっさりと、みんなの前で飴を出してしまった。

「ごめんなさい、持ってきてしまいました。クロミちゃんも持っています」

 なんだと〜!!!?

修羅場? それとも?

 友達を責めることが、私にはできなかった。
 私たちはルールを破ってお菓子を持ってきて、友達はそれを正直に言った。それだけのことだから。

 他にもルール違反の持ち物を持っている子は複数いて、全員がひどく怒られた。他の子たちはみんな泣きそうな顔をして反省していたけれど、私はそうじゃなかった。
 だって、計画していた遊びだから。食べるつもりのないお菓子だったから。
 そもそもお菓子や色付きリップやぬいぐるみを持っていることが、そんなに凶悪な罪だとは思わなかったから。

 すると、一人だけ涼しい顔をしている私を、学級委員の女の子が責めた。それはもう、責めた。ひどいやつだと。反省しないのは悪いことだと。

 これはまずい状況だとさすがの私も気づき、とりあえずその子に謝った。反省していないように見えるのは、みんなの前で謝るのが恥ずかしかったからだと言い訳をした。
 でもその子は納得せず、「私はこんなに辛い思いをしているのにクロミはひどい。反省しているなんて絶対に嘘だ」と言った。

 うん、まあ確かに嘘だったんだけど、なんでその子がそんなことを言うのかわからなかった。自分がルール違反をして自分が反省したなら、もうそれでいいじゃん。
 人を裁こうとする人って、まったく理解できない。なんでそんな権利があると思うんだろうね。私がよっぽどの悪人に見えたのかしら。

 今はこうやって書いているけど、当時は自分も感情がぐちゃぐちゃになってしまって、かえって目立つ行動をしてしまっていたと思う。
 もっと冷静になればよかった。反省しているのはそこだけ。

これは裏切りか?

 一緒にルールを破ろうと言い出した友達は、私とお菓子を交換できたことをとても喜んでいたらしい。後日、親同士が会って話して、私もそのことを聞いた。

「でもクロミ、裏切られたね。あの子は信用できないよ」

 親はそう言った。
 こう書くと私の親が支配的で悪いやつみたいに聞こえるかもしれないけど、ぜんぜんそんなことはない。
 私はものすごく世間知らずで友達付き合いが下手ですぐ騙されて、身内からそれはそれは心配されていたんです。

 あれは裏切りだったのか、今もよくわからない。
 確かに自分から言い出しておいて、自分から私を密告したのはひどいことだったかもしれない。
 学校には学校のルールがあって、友達はそっちを優先したけど、私は自分たちの遊びのルールを優先するつもりだったから、確かにびっくりした。

 でも私は、ものすごい剣幕で批判してきた女の子のほうが衝撃で、落ち着いた態度をとれなかった自分も情けなくて、友達に対する怒りまで持ち合わせる余裕がなかった。

ある程度の「ゆるさ」

 学校にお菓子を持ってきて1日持ち歩いているくらい、いいと思うよ。
 率先してやれとは言わないし、そんなことを思いついた私も友達もバカだったとは思うけど、それが非行や暴力につながるような危険行動だとは思えない。

 ほんの小さなガス抜きをしないといられないほど、窮屈だったんだよ。
 生きていくには「ゆるさ」が必要よ。何も髪を染めろとか派手な制服改造をしろとかそういうんじゃない。
 ほんのちょっとだけ、迷惑をかけない範囲で遊ぶ。そして、自分を責めない。私たちにはそれが必要だった。

 私の学校ではないけど、学校に飴を持ってきた男子生徒が自殺した事件、ショックだったな。ニュースで遺書が読み上げられた時、「嘘だろ!?」と思った。
 他に原因があるならわかる。でもわざわざ遺書にそれを書くってことは、それが原因なんだよね。
 そんなことで死ぬなんて、とその男子生徒を笑う人もいた。当てつけだとか、メンタル弱すぎだとか、批判する人もいた。
 でも私は、自分の状況と重なって、ただただショックだった。死なないでほしかった。どんな事情があったのかは知らないけど、飴を持ってくるくらい全然大したことじゃない、と大声で言いたかった。

 ちなみに。
 私と友達は、1ヶ月後に懲りずにまた飴を持ってきて、交換しました。
 今度は友達も密告しなかった。ただ持ち帰って食べた。おいしかったよ。卒業してからは会ってないけど、元気にしてるかしらね。


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