【考察】ジョーカー フォリ•ア•ドゥ
※ネタバレを含む
“ジョーカー”は、いない。
前作「ジョーカー」で悪のカリスマ、ジョーカーに心酔した観客はどう思うのだろう。
裏切り?期待外れ?
アーサーは長らく笑いものだった。
笑わせているつもりが笑われている。
周りを笑顔にする”ハッピー”と呼ばれていたが
それはある種の内輪のジョークで実際のところは嘲笑されていただけだった。
では、ジョーカーの誕生背景はどうか。
アーサーはただただ誰にも馬鹿にされたくないという一心で抵抗した結果、6人を殺害した。
動機は、「馬鹿にされたくない」それだけだったように思う。
たまたまその被害者に上級市民が含まれていたことで、下級市民のヒーロー、”ジョーカー”に仕立て上げられてしまった。
アーサーの中には凶暴な一面がもちろんある。だがそれは彼を悪のカリスマたらしめる程強力なものではなく、単に自分を傷つける者を目の前から除きたいというだけのものではなかったか。
法廷の証言者席で、かつて同僚だったゲイリーは言った。
「君らしくない、僕を笑わなかったのは君だけだった。」
それを聞いたジョーカーに扮するアーサーは、ジョーカーとして抵抗した。厚い化粧のせいでアーサーの表情は読み取れなかったが、本当の自分を思い出させられた瞬間だったように見えた。
「ジョーカー フォリ•ア•ドゥ」で最も印象的なのはリーの存在だ。模範囚として刑務所で暮らすアーサーに刺激を与え、徐々に自分の理想の男、ジョーカーへ仕立て上げる。アーサーもリーの求めるがままに再びジョーカーを演じるようになっていく。
しかし、リーが愛していたのは、生身の人間アーサーではなく、悪のカリスマ”ジョーカー”だった。
終盤、アーサーはあっさりと”ジョーカー”を下りる。それはやはり、ジョーカーという存在が自ら望んだものではなく、周囲が彼をそう仕立て上げ、彼もそれによってジョーカーを演じさせられてきたからに違いないと思う。
周囲の人間に勝手に期待され、裏切られ、最期まで道化として弄ばれたアーサー。
また、彼を弄んでいたのは私たち観客もではなかったか。
彼を救うにはどうすればよかったのか。
今だに私にはわからない。