喫茶天国
9/8
あまり来たことのない駅を通るので、せっかくなら喫茶に行きたい。
先週も同じことを考えて、訪れた喫茶も最高だった。小さなエスカレーターに運ばれて異世界へ入る、この上ない体験だった。
今日は家で作業もあるし夜ごはんも用意してあるし、来週もまた来るからとっとと帰るべき…でもせっかく通るしな…と迷っていたら、喫茶へ向かう足を止めることはできなかった。
お店を探す時はだいたいグーグルマップを使う。小さなお店、古いお店でもけっこう載っている。グーグルマップの情報が充実しているかどうかも、お店の古さや雰囲気を測る指標にしている。
検索するといくつか出てくるのはどの駅も同じだけど、なんだかこの駅は、古くて雰囲気のある喫茶が多い気がする。今まで行ったことある駅では、駅近くだと1軒か2軒がせいぜいのところ、ここには3軒か4軒か…まだ実際に行けてはないのでわからないけど、今のところ入った2軒はアタリだ。予想を超えてくる良さ。
ほどほどに人が入っていて、空いている小さなテーブルに座る。
煙草はあまり好きじゃないけど、古い喫茶なら許してしまう。むしろ喫煙者に愛される喫茶ってそれだけで価値があるとも言える。
夜ごはんが家にあるから、珈琲だけにしよう、と思いながら入店したのに、「かためのプリン」を見つけてしまって、注文せずにはいられなかった。
先週入った喫茶で、「かためのプリン」のおいしさを知ってしまったのだ。しばらく前に流行った気がする「かためのプリン」に、流行おくれながらハマりそうになっている。たしかにいろんなお店のプリンを食べてみたくなる。
内装は、もちろん良い。「癒」をコンセプトに掲げているようで、適度な灯り、適度な広さ、当然おいしい珈琲、お洒落な内装。全てがとても良い。
カウンターの奥に几帳面に並んでいるカップは色とりどり。その前に立つマスターの、髪型がめっちゃ好みだ。グレーがかった色のショートヘアで、ゆるく癖がついている。メガネとマスクも似合っている。
きっちりとしたワイシャツをひさびさに見たけど、ワイシャツってこんなにかっこよかったっけ。漫画で登場してきたら一瞬で惚れてしまいそうな、絵になる人だな。こういう姿を絵に描きたくなる人の気持ちが分かる気がした。
絵を描くといえば、先日、こんな話を聞いた。世の中に写真が現れてから、絵は「人間が見たくて見ている部分のみを表す」ものになったという。
自分はしばらく前から、絵を描きたいと思うことが度々あるけれど、全く捗らなくて、ぜんぜん上達しない。「絵を描く理由がない」せいかと思っていたのだけど、もしかしたらそれとは違う理由もあるかもしれない気がしてきた。自分が「絵を描きたい」と思う時、多くは、今見ているこの景色を、目の前の物を、絵にしてみたいと思う。しかし、そのものを平面に残すだけだったら、写真で事が足りる。実際、写真もよく撮るので、だから余計、絵を描く必要性がなくなってしまっている。
上手くは描けなくても、それが味になる、と頭では分かっていても、自分が思い通りに描けなかった体験が多すぎて、だから余計筆が走らない。そもそも、「絵として」「見たものを表す」ことを、完成させることができない。
だから今後は、絵を描く時は、「目の前の物体だけじゃない何かを残す」ことを考えてみようかな、なんて。
そんなことを考えてはみたものの、「描きたい時に描く」「完成しなくてもいい」方針は今までとは変わらないのだから、まだずっと捗らないままだろうな。
「目の前の物体だけじゃない何かを残す」のに、改めて文章というのは便利だな、と思う。好きなだけ、余計なことに言及したり、全く違う方向に行くこともできる。
ななめ前に見える、MacBookらしいパソコンを使っている人の画面が見えて、あらゆるアプリがするすると切り替わっているのが気持ちいい。家にパソコン置いてきてオフモードのはずなのに、キーボードで日記を書きたいかも、と思う。
あっちに座っているカップルは、女の人は黒い帽子をなぜか結構深く被っている。とても楽しそうに話していて、横目に眺めるのが楽しい。
隣の人は、小さな声で喋り出した…と思ったら誰かと通話している様子。そんな小さな声で電話できるんだな。
ひたすらに喋り続けている人達と、喋るのはそこそこにそれぞれケータイを見ている人達。1人客はだいたいみんな画面を見ている。
とても良い。こんなにゆっくり人間観察をしたのも久しぶりな気がする。
友達が、喫茶でバイトできたら、いろんな人の会話を聞くのが楽しみ!と言っていたけど、たしかにいろんな人が話しているのを見るのって、楽しいかもしれない。
でも、その友達ともしこの店に来たら、お喋りが楽しすぎて盛り上がっちゃって、声が大きくて迷惑になってしまうかもな、という妄想までした。
のんびりしている場合じゃない、いいかげん帰りますか。
無駄な時間こそが人生、とは思うものの、自分で自分の首を絞めるのもいいかげんにしなよなぁ。でも好きに過ごす時間があるからこそ、やらなきゃということもがんばれたりするのよね。絵でも描こうと思ってたけど今日は文章になった。ひとつでも生み出せたので満足だ。
いい時間だった。また来よう。
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