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言オリの対応問題のグラフを用いた解法テクと使用例(JOL2020-4リヴォニア語)

言語学オリンピックの対応問題は、グラフを書くと解きやすいかもしれないというテクニックの紹介+JOL2020-4 リヴォニア語の解説記事です。


対応問題とは?

A語の語句とその日本語訳が別々の順番に並べてあり、対応を明らかにする問題のことを指します。例えば下記の第3問(カマン語)等が該当します。
https://iolingjapan.org/pdf/jol2023-se.pdf

グラフとは?

本ページでいうグラフはいわゆる棒グラフや折れ線グラフではなく、グラフ理論で用いられるグラフ(頂点の集合Vと二点間を結ぶ辺の集合Eで与えられる。)を指します。重要なのはどの頂点とどの頂点が結ばれているかであり、点の配置がどのようになっているか、結んでいる線は直線かどうか、は考えません。そのため、下記の左右のグラフは同じであるとみなします。
以下、点のことを「頂点」、線分のことを「辺」表記します。

図1 グラフの例

グラフを用いた解法テクニック

ここでは、対応問題を下記の4ステップで解きます。

  1. A語の関係性をグラフ(厳密にはグラフでない)にする

  2. 日本語の関係性を思う範囲でグラフにする

  3. A語のグラフと日本語のグラフを見比べ、同じ形を見つける

  4. A語のグラフと同じ形になるように日本語のグラフを修正する

グラフを書いて比較することで、下記3つのメリットがあります。

  1. 要素の繋がりを可視化し、初めの整理を容易にする

  2. 「同型のグラフを作成する」ことがゴールとなり、未対応の語句の候補を明確にする

  3. 一部でも同型のところを仮置きできるため、検討がスタックすることが減少する

使用例:JOL2020-4 リヴォニア語

問題内容(わかりやすくするために、表記を一部修正しています)

リヴォニア語とその日本語訳が別々の順番に並べてあり、対応を明らかにする問題です。

ステップ1:A語の関係性をグラフにする


リヴォニア語の一覧を見ると、2. jalgaledはjalgaとled、3.kadkielaはkadとkielaに分けられることがわかります。分けられる最小単位の言葉(以下、単位語、『』で囲う)を頂点、存在する単語(以下、「」で囲う)を辺とするグラフを作成すると、下記の通りになります(尚、単位語が存在する場合は単位語から他頂点とはつながらない辺を伸ばし、3つ以上の単位語からなる単語は、貫くような形で単位語を配置することとします。)。また、ヒントとして「kindolpava」が「聖燭祭(ろうそくを清める祭り)」であることが与えられているので、『kindol』と『pava』を結びます。

図2 リヴォニア語のグラフ

ステップ2:日本語の関係性を思う範囲でグラフにする

次に、日本語の単語の意味を考えながら、意味を頂点(以下、『』で囲う)、存在する単語(以下、「」で囲う)を辺とするグラフを作成します。
ある程度辺をつなげるように、「腕時計」は『腕』+『時計』、「手引き」は『腕』+『本』等、少し強引に意味を分解します。ここではリヴォニア語の対応は特段考えません。また、ヒントである「聖燭日」は『ろうそく』+『日』としてグラフに追加します。

図3 日本語のグラフ

ステップ3:A語のグラフと日本語のグラフを見比べ、同じ形を見つける

リヴォニア語のグラフと日本語のグラフを見比べると、赤枠の部分と青枠の部分の形が一致していることがわかります。ここから、jalga=足、led=葉、kindol=ろうそく、pava=日、kuoda=家であると推測可能です(『led』と『pava』の間に辺はが存在しないが、ヒントよりkindol=ろうそく、pava=日とおけるため、led=葉と推測。『piva』、『kiela』は左右反対の可能性があるため確定しない。)。

図4 リヴォニア語と日本語のグラフの比較

ステップ4:A語のグラフと同じ形になるように日本語のグラフを修正する

ここからは、日本語のグラフを修正し、リヴォニア語のグラフと同型にすることを目指します。まず、『日』と『葉』の間の辺に該当する単語は「日刊新聞」「日曜日」のどちらかです。「日刊新聞」を「毎日の紙」と解釈しなおし、『新聞』の頂点を削除、『日』と『葉』の間に辺を貼ります。

図5 日本語のグラフの修正①

次に、『聖』と『鐘』がつながる単位語を考えます。候補は『日曜』と『時計』ですが、『日曜』→『祝日』→『聖』、『鐘』→『知らせるもの』→『時計』と解釈し、辺をつなぎなおします。これで日本語のグラフがリヴォニア語のグラフの形と一致しました。あとは該当する単語をマークするだけで回答完了です。

図6 日本語のグラフの修正②


図7 リヴォニア語のグラフと修正後の日本語のグラフ

終わりに

Online Olympiad in Linguistics 2025 2.回輝語を解いているときにたまたま思いつき、TwitterとGoogleを探してもグラフを用いた解法に言及している人がいなかったため記事にしました。ただ、言オリ界隈に疎いため既知かもしれません。
最近のJOL、オープン上位勢のインフレが激しく金がとれそうにないのでもっと参加者が増えてほしい……


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