レスターVSエヴァートン(2016) ~メリハリのある守備戦術~試合分析#1
ーーーレスターが奇跡の優勝を果たしてから早4年。当時のレスターには「堅守速攻」というイメージが強い。ラインを低く設定し、相手にボールを持たせロングボールをDFラインが弾き返す。ボールを奪ったら、バーディーを走らせてあっさりゴールを決める。こんなイメージをお持ちの人も多いだろう。当時は一切頭を使ってサッカーを見ていなかった私もそんなイメージを持っていた。バーディーが速い!マフレズが上手い!カンテが走って奪う!モーガンとフートが強い!みんな頑張る!ということしか感じていなかった。しかし、レスター対エヴァートン戦を見てそんなイメージが変わった。そこでこの試合の分析をしてみた。特に守備に重点を置いて、守備の国イタリア出身のラニエリが率いるミラクルレスターの守備戦術を掘り下げていくーーー
*記事の最後に試合の動画( YouTube)を掲載しているのでぜひそちらもご覧ください。また、YouTube上に試合時間が記されていないので、10:00 [1:00]の場合、10:00が動画の時間、1:00が試合の時間という形で時間を表しております。(試合時間は計算ミスや数秒のずれがある可能性がありますがご了承くださいませ)
試合概要
レスター
GKシュマイケル
DFシンプソンヴァシレフスキモーガンフクス
MFマフレズカンテキングオルブライトン
FW岡崎バーディー
エヴァートン
GKジョエルロブレス
DFベインズベニントンストーンズオビエド
MFクレヴァリーマッカッシーバークリーレノン
FWニアセルカク
スタッツ レスター エヴァートン
スコア 3 1
ポゼッション 41% 59%
シュート数 31 9
枠内シュート 8 5
パス本数 340 504
試合展開
終始王者らしい戦いぶりを見せたレスター。ポゼッション、パス本数は下回るもののこれは狙い通り。素早い攻撃から数多くのシュートを浴びせ、もっと点差が離れていてもおかしくなかった。
前半5分、ハーフスペースでスローインを受けたキングがキーパーとディフェンスの間にクロスを送り、それをバーディーが合わせ先制。
前半33分、相手の中盤の陣形が整う前にDFライン前でボールを受けた岡崎が右のマフレズに預け、マフレズの仕掛けのこぼれ球を上がってきたキングが押し込み追加点。
後半はバーディーのPKとミララスのゴールで試合は3-1で終了。
ここからが本題!
<攻撃時の狙いと約束事>
この記事は守備がメインなのであまり多くは語らないが、軽く攻撃についても触れる。まず、相手がある程度攻めてきて、スペースがある状況だとどんどん前に運んでいく。カンテやマフレズといったドリブルで運べる選手が1人で運んでいくこともあるし、食いついてきた相手を逆手にワンタッチパスを活用した連携でかわすこともある。カウンターの場面ではチームとして同じ絵を描いている。最後の局面ではやはりマフレズの仕掛けや、バーディーの裏抜けなどがメインだった。
相手の陣形が揃った状況でDFラインがボールを保持している状況では、DFラインは持ち運んだりくさびのパスを通したりすることは少ない。相手がワントップだったので、2CBで横パスを回しながら、リスクが低ければSBや中盤、降りてきた前の4人に出す。相手が少し前に出てきたら無理をせずに、中盤を経由することなくロングボールを蹴る。そのボールを、キングやカンテがほとんど拾っていて、そこから攻撃がスタートしていた。また、マフレズやオルブライトンが中に入っていくこともあり、その場合は2トップがサイドに流れることが多かった(特に右に流れるシーンが多かった)。CBは繋ぐのが厳しければ、流れた2トップに向けてロングボールを蹴るし、繋ぐことが出来れば、FWが相手SBをピン留めすることでフリーになったマフレズやオルブライトンにボールが入る。
マフレズは自由に動き、色々なところに顔を出していた(これは予想通り)少し意外だったのが、サイドに張っているイメージのあるオルブライトンが結構中に入ってボール回しに絡んだり、逆サイドに流れたりして左サイドに張る時間がイメージよりかなり少なかった。両SBはむやみやたらにオーバーラップすることはないが、状況によっては上がっていってクロスを上げることがあった。シンプソンはマフレズが右サイドで仕掛けられるときは、ドリブルの邪魔をしないためにも上がらずにリスク管理をしている。フクスはシンプソンに比べてアップダウンする回数が多く、特に後半は左からのクロスを何度も上げていた。
Focus Player Andy KING
この試合1番活躍が目立っていたのがこのキング。実際にこの試合のMVPにも選ばれているが、それにふさわしい極上のプレーをしていた。まず、チャンスの時には積極的にボックス内に飛び出していく。実際に、2点目のシーンも自陣のスローインからの得点だったが、岡崎がマフレズパスしたときには画面に映っていなかったが、その後一直線にペナルティエリアに走っていき、こぼれ球を決めた。他の場面でも積極的に飛び込んでいくシーンが多く、先ほど2トップがサイドに流れることもあると述べたが、2トップがサイドに流れたときにはほぼ必ずボックス内に飛び込んでいった。この試合なんとバーディーと同じ7本のシュートを打った。キングの上下移動の繰り返しが、チームの攻撃を活性化させた。
守備面ではタックル数はカンテに及ばないものの、カンテはボールホルダーにがつがつ食らいつき、キングはバランスをとる守備をしていた。2人の連携はすごくよく、スタッツには表れないが守備にもしっかり貢献していた。
キングの良さが際立っていた切り替えの早さ。守備から攻撃に切り替わったときにすぐにゴールに向かって走っている。また、味方が自分の近くでボールを回収したときに、近くにいた相手より先に動き出してフリーでボールを受けていた。後半はオープンな展開になったが、レスターがボールを回収したときに誰もボールを受けられる状況でないときが多くあった。しかし、キングがこういったときにボールを受けるために走っていた。これはカンテにも同じことが言えるが、中盤の2人には切り替えの瞬間にチームのためにもうひと踏ん張りする姿が見えた。
最後に動きの連続性を取り上げる。
79:47 [58:27]キングがオルブライトンの落としをダイレクトで左のスペースにフクスを走らせるボールを蹴る。
そのボールに追いついたフクスがルックアップすると、先ほど逆サイドにいたはずのキングが近くに寄ってきた。フクスがキングにパスを出し、キングが動きながらダイレクトでボールを返すとキングはこの動きをする
2人ともフクスに食いついたので、キングは相手ゴール側にいる選手(レノン)の背中をとった。そこにフクスはダイレクトでスペースに蹴る。このキングの連続した動きでレスターの攻撃が前向きになった。この攻撃の形はなかなか良かったので、キングに絞らずに解説していく。
ドリブルで運んでいくキング。ペナルティアークの手前にいるのがCBのストーンズ。同じ芝のラインにいるのが中盤の選手。中盤の選手は遠くから寄ってきたので間に合わないし、CBは岡崎とバーディーがいるので出ていく訳にはいかない。では左サイドの攻撃だったのになぜ相手の右サイドバックが出ていけないのか。実際にこの画面に映らないところに右SBのオビエドはいる。
キングが中に持ち運んでいき、岡崎にパスを出した。キングが中に持ち運んだことにより8番の右SBオビエドは岡崎のいるほうの中にポジションチェンジした。なぜ、先ほどキングのドリブルになぜ寄せられなかったのか。それは左下にいるオルブライトンがサイドに張っていたからだ。彼が張ることでオビエドをピン留めしていた。キングのパスを受けた岡崎はフリーのオルブライトンにパスを出したが、このパスは少しずれた。キングは岡崎にパスを出した後、下の写真のように岡崎が引き付けたストーンズとバーディーがファーにいることで引き付けているベニントンの間に走ってクロスを呼び込む準備をしている。
岡崎はスルーしようとしたが相手に取られてしまう。それでもボールをすぐに回収したレスターはフクス、カンテ、シンプソンでパスを回し、シンプソンは画面に映らない場所にいるヴァシレフスキにバックパスする。
このとき、キングはここにいる。パスを受けたヴァシレフスキは相手が寄せてきたのでバーディーにロングボールを蹴る。
バーディーがヘディングする時にはもうここにいる。もしかすると、バーディーには後ろにそらして欲しかったのかもしれない。キングの連続性のある動き、さらにボックス内に積極的に飛び出す姿勢がこれらの写真から分かるだろう。
<メリハリのある守備戦術>
高いディフェンスライン
タイトルにもあるようにここからレスターの守備に着目していく。屈強なCBを中心として弾き返す守備戦術ではない。たしかに重心が低く、相手にボールを持たせる時間も多いが、意外にも鈍足なCBにも関わらず、ハイラインを設定していることがかなり多かった。状況によってはボックス付近までラインを下げることももちろんあるが、相手がボールを持っている場所が自陣深く出ないときはかなり高いラインを設定していて、時にはハーフェーライン付近で相手がボールを持っているのに、ボールホルダーとDFラインが10m以内にあることもあった。
カウンターのシーンとはいえ多少ディフェンスラインを下げる時間はあったのに、下がらない。(26:46[9:56])
エヴァートンが後ろから繋いで運んだシーンでも、背後に広大なスペースがある。(24:09[6:19])
前からの守備と撤退の守備のメカニズム
レスターの守備の形はざっくり分けて2パターン。
前からしっかりとプレスをかけて、DFラインも高く設定する
後ろにしっかり引いて、外回りの攻撃をさせる。
この2つの使い分けがスムーズかつ的確だった。どちらも出ていた一連のシーンを紹介する。
32:14[15:24]相手の中盤マッカーシーが2CBの間に降りていきダウン3の形になる。レスターの2トップは片方のサイドに限定する。降りてきたバークリーにはダブルボランチのどちらかが見る状況。しかしそんなにタイトにマークはしない。この形を「2+1DF」と仮定するが、この+1は状況によってはサイドハーフが担うこともある。(立ち位置は必ずこの形とは限らないが4対3の状況になる)
ストーンズがSBにパスを出すとオルブライトンが出ていく。カンテはバークリーから離れスペースを埋めることにシフトチェンジする。しかし、ここでオビエドがオルブライトンをかわし、前にいたニアセにパスをする。
この状況でもDFラインはこの位置。しかし、ニアセが画面右にいる選手に落とし、バークリーを経由した後左のベインズにボールが渡ると...
いつの間にかここまでラインを下げた。ニアセに収まったシーンではこの白いラインがレスターのDFラインだった。少し相手の攻撃のスピードが緩まり、サイドの選手にボールが渡りそうになったタイミングでラインを一気に下げる。シンプソンはベインズのところに出て行かず、待ち構える格好になる。ベインズのクロスがDFにブロックされ、バークリーがこぼれを拾うと…
キングが寄せ、横パスは岡崎がケアする。バークリーはバックパスを選択せざるを得ない。そしてこの後、バックパスを受けたマッカッシーから岡崎がついていたクレヴァリーにパスが渡り、クレヴァリーは右SBのオビエドにパスをする。
するとオルブライトンが出て行き、岡崎はそのままクレヴァリーに並走。降りていくレノンにフクスはついていき、カンテも近くに寄っていく。オビエドからクレヴァリーに渡る頃には
密集ができた。このシーンはレスターの強度も弱く簡単に打開されてしまったがレスターの守備の狙いが見えたシーンだ。相手がこぼれを拾った時に、しっかりとボールに寄せ、横パスも切っているので相手の攻撃が外回りになって、サイドに追い込んだところではめることが出来た。
守備の結論
敵陣で相手がボールを持っている時はラインを高く設定し、前から追いかける。追いかける形は状況によって違い、ある程度のベースをもとに、選手の判断に任せているように思われるが、相手の中盤が降りていって3バック化しても2トップでしっかりサイドに追い込む。さらに降りてきて縦パスを受けようとしてる選手には中盤がついていき、2トップ+1で対応する。相手が自陣まで運んでいき、かつ攻撃のスピードが緩まるとラインを下げる。
ファイナルサードまで追い込まれても、近場の選手にはパスを出させないような形をとり、相手にバックパスや効果的でない横パスを選択させる。外回りの攻撃をさせ、サイドに追い込んだところでボール保持者やボール保持者に寄っていく選手に厳しくマークをし、相手からスペースと余裕を奪い密集を作りボールを奪う。
まとめ
攻撃時はリスクをかけず、DFラインはシンプルに狙いを持ったロングボールを蹴る。2列目以降は流動的に動き周り、スペースを使い合う関係が出来ている。SBはリスク管理を徹底しながら、隙を見て攻撃参加する。
キングは前線にも飛び出し、攻撃の厚みを増していた。攻守において切り替の早さと、チーム全体の攻守を引っ張っていた。
守備面では、相手が敵陣でボールを持っているときや、ボールを失った直後はDFラインを高く設定し、前から猛然とプレスをかける。自陣深くまで運ばれるとDFラインは低く、必要なスペースとパスコースを埋め、相手の攻撃を外回りにさせる。じわじわと追い込み、狙いを定めて一気に密集を作り、ボールを回収する。
こちらが取り上げた試合です。
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