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空港職員に薬莢を仕込まれた話

これは2022年マニラのニノイ・アキノ国際空港ターミナル3(T3)で起こった出来事です。

その日はそこそこ混んでいました。
手荷物検査場にも長い列。
私と夫は同じレーンに前後で並んでいましたが、持ち物の少ない私はさっさとX線を通すためのトレーに荷物を載せ、自身は金属探知機を通り、無事にコロコロローラーで運ばれてきた荷物を受け取りました。
振り返ると夫は5人程あとに並んで金属探知機を待っていました。
上着やベルト、鍵やこまごましたものを出すために時間がかかっていたのです。
それを何気なく見ていると夫が金属探知機のトンネルを通っている時、夫のカバンが通常のコロコロローラーのルートとは別に置かれ、それをトレーごと係員が運んでいるのが見えました。
気になった私はスマホの動画をONにして近寄ります。
金属探知機を通り抜けた夫が係員に荷物の場所に呼ばれて何やら見せられていました。
右手にはライター、そして何故か手のひらで隠すように左手に持っているのは3つの薬莢でした。

「これがお前の荷物から出てきた。重大な違反だ」
「それは自分のじゃない」

夫と職員の声が聞こえたので私は慌てて駆けつけました。
スマホを向けながら「何があったの?」と聞くと職員は「撮影禁止エリアだから撮影はやめろ!」と言ってきます。
反論してもいいことはないので、撮影を止めたふりをして動画は回し続けながら更に聞きました。
(そのため動画には係員の鮮明な顔やチラ見せされている薬莢が映っていません。しかし音声はしっかり録音されています)
「何があったの?」
「これが、彼のバッグに入っていた」
係員が見せたのはライターと、薬莢。
しかも「これはお前のバッグにあった、ここにあった、間違いないだろう?」と夫に差し出しています。
「触っちゃダメだよ!手を出さないで!」
とっさに夫に日本語で伝え、そして係員と私のやりとりが始まりました。

「えぇと、あなたの名前は◯◯というのですか?Sir◯◯?」
首から下げているIDカードの名前をあえて呼びました。動画に音声として残すためです。
「そうだ」
「Sir◯◯、彼は入れてないしそんな物知らないと言っている」
「間違いなくこれらは彼のバッグにあった、重大な違反だ」
「薬莢が3つ、彼のバッグに入っていたとあなたは言うのですね。しかし彼は知らないと言っています」
「彼のバッグから出てきたのは間違いない」
「Sir◯◯、彼の指紋を取って調べてください。警察を呼んでそれの指紋と彼の指紋を調べればいい」
「彼のものだ」
「Sir◯◯、指紋がついているか調べるべきでしょう。警察を呼んでください」
「警察が来たら逮捕される」
「それは警察が判断する。彼は触っていない、指紋もついていない。彼は何もしていないから警察を呼んで指紋を調べて、Sir◯◯」
「・・・」
「そして私達の弁護士を呼ぶための電話を貸してください、Sir◯◯」
「・・・次はもう持ってくるな」
「は?」
「もう行け」

そして彼はシッシと追い払うような仕草でライターと薬莢を持ったままX線レーンに戻っていきました。
「あれは一体…」
呆然とする夫を急かしとにかく早くその場を離れようと思いました。
心臓はドキドキ、手は冷や汗。
めっちゃ怖かった!!

ラウンジに入り真っ先に「空港、薬莢、仕込まれる」などのワードで検索。
すると2016年以前にマニラ空港で続出していた空港職員による不正の手口だったことが判明!
なんてこった!!
これを事前に知っていたら、もっと心構えができていたでしょう。
フィンガープリント(指紋)なんて単語ももっとスラスラ出てきたでしょう!(なかなか出てこなくてフィンガー・・・フィンガーなんだっけとか呟いてました)
2016年頃にこの不正に対して政府が一斉摘発を行ったそうで、それ以降は一旦収まっていた手口だそうです。
しかしまだちょろちょろやっていた人がいたのでしょう。
そしてこれを書くきっかけになった32023年6月にも、同様の手口ではめられそうになった日本人の方のツイートを拝見しました。
だからきっとまだやってるね…。

今回夫が目を付けられた理由はたぶん
・英語が苦手そうな中年の単身旅行(私がだいぶ先に出たので単身だと思われたのだと思う)
・タバコを持っていた
からだと思います。

前者はいわずもがなですが、それだけではこの手の詐欺に引っかかることはほとんどなく。
たぶん、タバコが入っていたので「カモ」としての条件を満たしてしまったのだと思われます。
もちろん、夫はライターは持っていませんでした。
過去に大事なライターを没収されて悲しい思いをしたことがあるので、それ以降飛行機に乗る時は必ず使い捨てライターを持っていて手荷物検査の手前でゴミ箱に捨てています。
今回もそうしていて、見せられたライターは全く見覚えのないものでした。
にもかかわらず、わざわざライターを持っていたのは写真をみればわかるように、周りからはライターしか見えず「ライターを持ち込もうとして怒られている人」にしか見えないよう偽装するためです。
周りが何だなんだと騒げば英語の通訳をしてくれる親切な人も出て面倒なことになるかもしれません。
しかし空港職員がライターを片手に日本人に何かを言っていたのを見たならば「あぁ、あるある」と苦笑して過ぎていくだけでしょう。
それが狙いなのだと思います。

ライターが見えるように


巧みに隠してる



この事件を受けて気をつけるべきところを自分なりに考えてみました。
今回はたまたま夫婦でいたのでよかったですが、もし一人だった場合の注意点。

1.X線通す時はスマホをカバンとは別のトレーに載せて先に流す
2.動画を撮る
3.相手の名前を呼ぶ
4.証拠物に触らない
5.万が一のときのため、各種連絡先を控えておく

1に関してですが、金属探知機を通るのでスマホは持っておけない。
しかし同じトレー(荷物流すときに入れるやつ)に入れると押収されて手出しできなくなる。
なので、スマホは先に出るようにトレーを2つにわけ一つにはスマホや絶対に何も入れてない薄手の上着、鍵や交通系ICなど軽微なものを先に流す。
そのあと手荷物として持ち込むバッグを入れたコンテナを流す。
2つにわけることで、もしバッグに仕込まれた場合も先にスマホを入手でき動画を回すことが可能です。

小物とバッグを別にする


これ、一人だった場合なるべく同じトレーに入れてしまおうと思いがちですが、私は以前からわりと2つに分けてやってましたのでおすすめです。
今回はじめて「このためだったのか!」と改めて気づきましたが(笑)

2の動画を撮る場合、まずは職員の全体像と何を指しているかをざっと撮る。
その後「撮影ダメ」と言われるので止めたフリをして音声だけは録画できるようにしてスマホは向けないこと。
あまり強く反発しては相手もボルテージが上がり引っ込むに引っ込めなくなってしまうので、指示には従う姿勢を見せることが大事です。(あくまでもフリ)

3.直接画像が取れなくても音声が残っているのは重要な証拠になります。
相手は必ず身分証のようなIDカードを下げているので、見せてもらい名前を確認してできるだけ名前を連呼します。

4.私がこだわっていた一番のポイントは「指紋」でした。
係員はやたらと夫に「確認しろ」と言いながら薬莢を触らせよう、持たせよう、渡そうとしてきますが一切手を出してはダメ。
身に覚えのないものには何と言われても触れてはいけません。

5.一番いいのはローカルの友達の連絡先を控えておくこと。
何かあった時に現地の友達が友達の友達などに声をかけて警察関係や弁護士関係者を探してくれることも多いです。
その場で電話をしてローカル言語で職員と話してもらうのも効果的だと思います。
他には大使館の連絡先や学校など滞在先の頼れる(?)ところへかけること。
ともかく「自分は一人ではない、連絡すれば事情を把握してくれる人が現地にいる」ということが大切です。

本当はカバンを開けられなようにしておいて、X線で何らかの不審物が見つかった場合は改めて衆目の元でカバンを開封するのがいいんですが機内持ち込みの場合、特に小さなハンドバッグやポーチにはしっかりした鍵がついてない場合が多いです。
少しでも防御する方法はあるのでそれはまた別の機会に防犯対策も兼ねてのお話ができたらと思います。

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