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M-E typ220という悪女

発売からずっと気になっていたカメラをようやく買った。ライカM-E typ220。
進化の著しいデジカメはフィルムと同様に消耗品とあきらめ、10万円未満のデジカメを新しいものが出るたびに買い替えていた。そんな姿勢を見た友人は「ライカM9が買えるね」と揶揄したものだが、80万円を越えるカメラを買う勇気はなかった。
M-EがライカM typ240と同時に発表されたときも、値段は納得行くものだったとはいえ、最新のMを見てしまうと、液晶、電池の保ち、ライブビュー、どれを取っても、M-Eは見劣りしてしまい、結局は富士フィルムのX-Proシリーズと良い関係を結んでいた。

流れを変えてしまったのがシグマfpだった。フルサイズのfpが生み出す余裕のある描写は素晴らしく、さらに45mm f2.8が柔らかく繊細で解像感も高い。どこに行くにもfp+45mm f2.8になってしまった。

「そう、カメラ1台とレンズ一本で日常は切り取れるのだ」と、それまでのハーレムモードから一転して一途なストイックモードになってしまう。何度も繰り返す断捨離とハーレム。

小型の広角のないfpを補うのに、フォクトレンダーやカールツァイスのMマウントに興味が行く。止まらない好奇心。
マップカメラさんのレンズを覗いているうちに、ハロウィンセールになった。
「良さそうなレンズはないかしら、ウルトロンとか…」と眺めていたら、M-Eもセールになって2万円ほどお安くなっている。
「いま買わねば、2万円損するようなものだ」と勘違い。
ほとんど持ち出していない望遠ズームレンズとfpを下取りに出して、あの憧れのM-Eをお迎えした。いらっしゃいませ。


〈聞いてはいた悪女っぷり〉
事前にM-E/M9の悪女っぷりは把握していた。生み出す絵に比べたら、些細な欠点にしか過ぎない。アバタもエクボ。だが、実際に届いてみると、最初からガツンと殴られた。高を括っていた自分を恥じた。

〈酷い液晶画面〉
久しぶりに見た2.3インチのモニターの小ささに驚く。コントラストが付きすぎていて、白飛び、黒飛び。露出はわからない。
ピントはなんとか確認できるような、できないような。

・滑らかではないシャッターボタン
一段目は軽く押すと電源が入る。
二段目にハッキリとした半押し。
更に押すとシャッターが切れる。3段階だ。
電源が入る一段目まではスムースなものの、それ以降はまるでオリンパスM1やPenを思い出させるメカニカルな硬さを感じる。完全メカニカルなハッセルのほうが滑らかだ。
名物の分離シャッターの他に「ソフトレリーズ」というモードがある。二段目の半押しAEロックとともに、シャッターが切れる。とてもスムースだ。ただ、このモードはAEロックのみができない。マニュアル露出じゃないと使えない。一段目でAEロックが利けばいいのに、電源が入るだけだ。もう。

・遅い書き込みスピード
CCDの特徴といえば、書き込みスピードの遅さだ。ペンタックス645Dを使っていて分かっていた。それでも、この小さなファイルサイズにしては処理スピードが遅く、赤いLEDが点滅を眺めてしまう。

・頼れないバッテリー
びっくりするくらい電池が減ってゆく。フル充電したのにあっという間に35%とか表示されていて泣きたくなる。しかも数字自体が当てにならない。最初に30分だけ充電してまずは試しとカメラにいれたら「Low Battery」と出て電源が落ちた。なんだこの悪女。
ちなみに30%を切ると、矯正オフになるなどの情報もあったが、わたしのは25%でも切れずに安定している。意外だ。

〈使ってみて〉
1日撮り歩いて気がつく。
あ、この感覚はシグマdp1(初代)や merrillに似ている。変なWB。ISOは400まで。電池は一つあたり100枚。ジージー言うメカニカルなモーター。そして、パソコンでRAWを展開したときに、(ときおり)裏切られるくらいの高画質。
M-Eはレンズ交換のできるレンジファインダーMerrillなのだ。良かった、DP1(初代)を使ったことがあって。あれも散々な液晶だったから、免疫も出来ている。
ちなみに初代DP1は2008年の発売。M9が発売された2009年に近い。進化の途中にあったカメラなのだ。

(魅力もあるさ)
M-Eの魅力は何かと言われると、その欠点をすべて含んだ使用感だと気がつく。デジカメは2012年以降に発売されたものは、ほとんど文句ない仕上がりだ。使い手に寄り添う、誰でもきれいに撮れるカメラに進化した。
でもカメラって「誰でも撮れない」からこそ、価値があったように思える。誰でも撮れるのならスマホでいいのだもの。

レンジファインダーはオートフォーカスの呪縛から離れ、もっともシャッターチャンスに強いカメラだ。フォーカスは人に委ねられている。この人馬一体な感じ、これがカメラだったなぁ。空シャッターを切って改めて感じた。

アナログなカメラに、無理やりデジタルを押し込んだ風合いがM9/M-Eにはある。ライカM typ240は動画を入れたりとデジタル感が強いし、M10に至ったてはレンジファインダーを搭載した高性能ミラーレスに見えなくもない。


〈2020年問題があっても〉
2020年になってセンサー交換を受け付けないとライカからアナウンスされた。一般的なデジカメは修理ができなくなったら値段が下がる。ところがM9やM-Eの値段は高く推移している。typ240の方が早く陳腐化してしまったのだ。
45万円という価格は多くの人にとっては納得いかないものだろう。わたしだって出来上がりの写真を見るたびに、自分の腕と経験を疑い、これまでに費やした時間とお金を思い出しては途方に暮れる。

ただ、このカメラを使って、わたし自身が強いられる体験/負担は、最近の高性能なフルサイズミラーレスでは遠く足元に及ばない。M-Eを使って出来上がった写真は、まちがいなくわたしが撮ったものなのだ。


〈さいごに〉
なにより、わたしはM-Eの佇まいが好きだ。性能や欠点を超越するアンスラサイトグレー。
そしてライカファミリーの中でも謙虚な"E"の称号。"P"ではない、"D"でもない、気負いしない存在が好きだ。

M10-Eがアンスラサイトグレーで出たら買うかもしれない。でもM-E typ220に買い足して行きたい。