ないものねだりで生きてきた

昔から、憧れていたものがあった。
親友。
何らかの特技。
知らない世界。
いろいろあったが、最大公約数的に言えばこんなものだろう。
憧れが手に入らなかったことへの呪詛を書き連ねていこうと思う。


小学生のとき、いじめを経験した。
今思えば、自分の立ち回りが悪かったことが最大の原因のような気がしてならないが、とにかくそれで小学校の知り合いには険悪な関係の人間が少なくなかった。
良くしてくれた人もたくさんいる。だが全く気を許せるほどの友達はできなかった。ゲームも持っておらず、漫画も知らず、インターネットも知らなかった上に、僕の興味が偏っていたので、話が合う人がいなかった。
中学に上がってからも、なんだか気味悪がられたり、気を遣われたりすることが多かったような気がする。
本当に仲のいい友達がほしくて、中学生の時には比較的仲のいい人にメンヘラ的な絡み方をした。「僕たち友達だろ、僕以外と帰るなよ」と言った記憶もある。恐ろしいことだ。
それで当時一番仲の良かった友達を失った。謝りたいのだが、縁を切られたので連絡のしようもない。
うっすらと自分のことが嫌いだったのが、露骨な嫌悪に変わったのはその頃だった気がする。

高校では、趣味は合わなくとも気が合う友達がかなりできた。
人生で一番人間関係に恵まれていたと思う。ほんとうに楽しかった。
高校の同級生はみんな頭が良い上に器が大きくて優しかった。はずれ物の僕が安全に暮らしていけた。
今でも彼らとは連絡を取り合っている。見つけた鳥の写真とか、些細なことばかりだ。彼らのことは一生大事にするつもりだ。
でも、なぜだろう。なんだか孤独感が無くなった気がしない。それどころか、かえって大きくなっている気がする。こんなに良い友達がいるのに?どうして。

高校1年の初夏に恋というものを覚えた。初めてのことだった。世界が一瞬にして鮮やかに光って見えるようになった。ただ、高3までに散々な思いをすることになる。これについてはおいおい書きたいが、とにかくトラウマができてしまい、恋のこと、好きだった人のことを考えてはどうしようもない気分になっている。人間関係のことで満たされない気持ちが、陰湿に付きまとっている感じがする。


歌うことが好きだった。
小6から7年間合唱部にいた。最初は下手くそだったし、なんなら高1までまともな発声ができなかった。
それでも、上手くなりたい一心で頑張った自負はあった。
とても上手い先輩や大人の合唱団の方々、イギリスのプロの合唱団……「ああなりたい」という憧れが原動力だった。
「あ、俺歌ってるんだ、生きてるんだ」という感覚がたっぷり味わえた高校時代は、結局3年とも東北大会でギリギリ全国大会に届かずという結果であった。別にそれは良いのだが、やはりなんだか不完全燃焼な気がしてならない。
でも、何より、みんなを驚かせたかった。
聴いた人全員を感動させたかった。誰かの人生を変えたかった。そして、自分にしかできないことが、欲しかった。歌で、やりたかった。
それが今も心残りである。
今は合唱をやっていない。もう疲れてしまった。でも、時々YouTubeで良い演奏を聴いては、「ああなりたかったなあ…」と、叶えられなかった夢を反芻している。かつての自分の人生を変えた、素晴らしい演奏たちである。

声を褒めてもらえた日のことは、よく覚えている。顧問の先生。中学の後輩。高校の先輩。
とりわけ、別の高校の人に「先輩の声めっちゃ好きです!」と言ってもらえたときは、泣きそうだった。今まで頑張ってきてほんとうに良かった。俺まだまだ頑張りたい。実際ちょっと涙出てたかもしれない。
僕の高校にもっと上手い人はたくさんいたのに、他でもない僕の声を好きだと言っててくれたのだ。それからは大学受験を控えているにも関わらず、練習にますます打ち込んだ。
たぶん人生が変わっていたのは僕の方かもしれない。


旅行がしたかった。海外に行ってみたかった。
中3の春にコロナで学校が休校になり、家で動画ばかりを見る生活だった。
そこでTwitterを始めて海外を旅していた方々の写真を見たこと、そしてニコニコ動画でシベリア鉄道の配信を見たことで、海外への憧れが生まれた。
独学でロシア語を勉強したりもした。すぐ挫折したが。
そしてインターネットで見た海外の写真は、勉強と部活と習い事で鬱屈していた中学生を刺激するには、十分すぎた。
東欧の重厚な建造物。中央アジアの砂漠。活気溢れる東南アジアの市場。ハイテクな高層ビルとアングラな生活が混在する中国のカオス。中南米の色とりどりの景色、そして遺跡。西アフリカの不思議な街並みとスリル。
未知の世界が、別の日常が、ある。そう思うと胸が踊った。行きたくて仕方なかった。

高校受験が終われば全て自由だと思っていた。甘かった。
なまじ進学校であったがために、受験期よりも忙しかった。コロナもあり、海外旅行だなんて到底考えられなかった。
大学受験が終わったら、今度こそ…。
そう思っていても、大学生は高校生ほどではないにしろ、やはり旅行なんてできないくらいには忙しい。
かといって夏休みに入って時間ができても、疲れ切ってとても海外旅行どころではない。金もない。家でゆっくりしていたい。
ゆっくりしていたら夏休みが終わった。

こうして僕は人生を浪費していくのだろうか。そう思うと虚しくなった。自分の夢を叶えられるのに行動しない自分に呆れた。
あんなに憧れだったのに。


僕の今までの人生はなんだったんだろうか。
これからどうなってしまうんだろうか。

逆に、僕は何ができたのだろうか。
もしかしたら気付いてないだけで、何か達成しているのかもしれないが、今のところは、思いつかない。

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