アイリッシュセッションとは何ぞや
こんにちは。今回は普段ジャズをやっている筆者が完全なる偏見に基づいて最近始めたアイリッシュ音楽について徒然なるままに書いていきたいと思います。Note初投稿ですので、どうか暖かい目で読んでいただけると幸いです。
アイリッシュのセッション
アイリッシュのセッションは、よくアイリッシュパブやブリティッシュパブなどで行われていて、それぞれのプレイヤーが楽器を持ち寄ってアイルランドの伝統音楽を演奏します。アイルランド音楽ではさまざまな楽器が使われており、主要なものだけでも、ティンホイッスル(リコーダーのような小さな笛)、アイリッシュフルート、フィドル(ヴァイオリン)、アコーディオン(ボタンのものが一般的)、バンジョー、コンサーティーナ(小さな蛇腹楽器)、ギター、バウロン(太鼓)などがあります。他にもイーリアンパイプスというバグパイプのような楽器やブズーキ(弦楽器)アイリッシュハープ、マンドリンなどの楽器も使用されます。このようなさまざまな楽器を持ちよっては夜な夜なみんなでパブでの演奏を楽しんでいるのです。しかしパブで演奏している人たちのほとんどはプロという訳ではなく、昼の間違う仕事をしている人たちばかりです。だからよくパブに行くと仕事終わりの人たちや学生がセッションに参加している姿を頻繁にみることができます。
アイルランド音楽は、曲の拍子や雰囲気によっていくつかのジャンルに分けられます。例えばReelというジャンルは4/4で速いテンポの曲が多く、Jigは6/8、Polkaは2/4などと分けることができます。さらにゆったりとしたAirというジャンルやReelのテンポを落としたような雰囲気のHornpipe、三拍子のWaltzやMazurkaなどさまざまなものが存在します。また他の音楽にない面白い特徴として伴奏楽器とバウロンなどの打楽器奏者を除いて、全員が同じ旋律を演奏するという特徴があります。これは、伴奏楽器の人が即興でコードなどをつけているため、他の伴奏者がいると重複してしまうからです。
どのように演奏されるのか
実際に演奏される際は、こうした同じジャンルの曲同士を3曲ほど即興で繋げて弾かれます。三曲とは言っても、一つの曲がAとBという2パートしかないものが多いですから30秒もすれば一曲が終わるほどの短さです。だからABABという風に2、3回曲を繰り返して次の曲に移行します。何の曲を繋げるかは事前に決めて行うこともあれば完全に即興で繋げる場合もあります。また、一般的には次の曲に移行する場合や、最後の曲で終わりたい場合などは、掛け声やわかりやすい動作で次にいく合図をします。この時に伴奏楽器奏者がスムーズにカポの取り外しや切り替えを行うことができるように、次の曲の調などを叫ぶ時もあります。そうすると、みんな一斉に静かになり、曲出ししている人の音に耳を澄ませ、良いタイミングで知っている曲ならば参加します。知らないのにも関わらず無理に入ろうとすると、他の演奏者に迷惑をかけてしまったりすることにつながるのですぐに聞いて覚えられるような人でなければその場で曲に参加することは避けた方がいいそうです。曲出しをする人はセッションホストから出していいと言われるパターンや、自然発生的に曲が始まってしまった場合など色々なパターンがありますが、一般的には一人の人が全ての曲を出します。ちなみに慣れていないとスムーズな曲出しに失敗して恥ずかしいこともよくありますが、なんの曲かわかるように弾ければ初心者に優しい奏者は続きを弾いて助け船を出してくれます。
曲について
ちなみにとても恐ろしいことにアイリッシュの曲(Tunesと呼ばれます)は数えきれないほどあり、セッションの常連となると軽々と1000曲ぐらいを暗記している猛者がいたりします。ちなみに筆者はせいぜい200曲ほどしか自信を持って暗記していません… だから外部のセッションに出向いても参加できるのは、3曲に一曲あればマシといったところです。ただ一つ一つ曲名を覚えているかというと、印象的な曲名以外はあまり覚えていないという人が多いです。一つ一つの曲は結構シンプルなのですが、似ている曲が多かったり、Bパートを忘れたり…などで放っておくと知らぬ間にレパートリーが減っていくのも恐ろしいところですね。基本的にアイリッシュは口伝で継承されてきたので、楽譜で見て覚えるのではなく、全て耳コピで曲を覚えます。というのも、楽譜が存在していないものや、楽譜が存在していてもバージョンがいくつもあったり表記が違ったりするので耳で覚える方が都合が良いのです。その場で覚えられない人は、ボイスレコーダーや動画を撮って家に帰って覚えている人もいます。だから中には楽譜を読むことができないセッション常連の方もいたりします。
装飾音
また、アイルランド音楽の特徴としてただただみんなが同じメロディーを弾くだけでなく、強拍などに装飾音をつけることによってアイリッシュらしさが演出されています。装飾にもさまざまな種類があり、音を三分割するトリプレットや、ターンにあたるロールなど他にもさまざまな技法を駆使して演奏します。楽器によっても装飾の方法が異なっており、それぞれの楽器によって装飾のバラエティがあります。装飾はなさすぎてもしすぎてもダメということでその塩梅が難しく慣れるしかありません。ただ、うまく装飾を使えばアイルランド音楽特有の踊っているようなグルーヴ感を演出できるので、研究してみると奥が深いです。やはりセッションに足繁く通ってアイリッシュに耳を慣らす方法しかないのかもしれませんね。それとも、そもそもアイリッシュ自体が踊りから派生した音楽なので踊って覚えるのが自然なのかもしれません。
最後に
さて、ここまで話すと具体的にどこのアイリッシュパブのセッションを聞きに行くのが良いのかと気になる人がいるかもしれません。そんな人のために用意されたアイリッシュセッションの日程と内容を事細かに載せてくれているsession goというウェブサイトがありますので、ぜひご参照ください。
筆者は上京後にアイリッシュを始めた人なので、東京近郊しか紹介することしかできないのですが、赤坂のCraigや高円寺のCluracanなどお洒落なパブで聴くアイリッシュは最高なので是非ともお勧めしたいです。音楽単体だけでなく、ギネスビールや美味しい料理も楽しめるので、普段とは一味違う雰囲気を楽しみたい方にもオススメです。他にも東京近辺には数多くのアイリッシュパブが林立しているので、少しでも気になった店があったら入ってみると面白いかもしれませんね。
かなり長文になりましたが、今回はアイリッシュセッションについて書きました。次回はジャズのセッションやジャズとアイリッシュのセッション文化の比較についても書こうと思います。同じ「セッション」の名がついているのにやっていることは全く違ったりするので、両方やってると界隈ごとに違う雰囲気が味わえてとても面白いです。それでは!