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若手インハウスロイヤーが業務上留意すべきポイント

第76期の弁護士の皆様、弁護士登録おめでとうございます。
本稿は、第76期のインハウスロイヤーの先生方の入社時期が本年1月又は4月に集中していることに鑑みて、(第76期の先生方を含む)若手のインハウスロイヤーの先生方を対象に、「若手インハウスロイヤーが業務上留意すべきポイント」と題して、りーぷら様に寄稿させていただきました。
(りーぷら様、このような発信の場を設定してくださり、誠にありがとうございます。)

なお、私は第67期で、自らを若手であると自認しておりますが、これまでの反省と自戒を込めて執筆いたしました。通勤時間にでもお気軽にご覧いただけますと幸いです。

さて、インハウスロイヤーとして業務を遂行するに際し、どのような点に留意すべきでしょうか。
様々なファクターが挙げられるところですが、note.に記載するということを考慮し、極めて簡潔にまとめると、
(1) 企業内での信頼関係の構築(法務部・事業部・役員)
(2) 幅広い見識の涵養
が挙げられ、かつ、(1)と(2)は「目的」と「手段」の関係にあると整理できると考えております。

以下、上記(1)・(2)に言及した上で、最後にインハウスロイヤー特有の悩みポイントである
(3)他の弁護士や弁護士会との関係構築
という点についても、(業務遂行そのものとは無関係ですが)触れたいと思います。

(1) 企業内での信頼関係の構築

職種・業種問わず、職場における信頼関係の構築が必要不可欠であるのは言うまでもないことですが、インハウスロイヤーとして有用な視点を挙げてみました。

■法務部との関係

いわゆる「報・連・相」(報告・連絡・相談)又は「確・連・報」(確認・連絡・報告)を意識するとよいと考えております。
ご自身からは上長・他の法務部員へ事業部・役員からの相談内容を意識的に共有することをお勧めいたします(具体的な共有プロセスは企業によって異なると思いますので、その指示に従ってください。)。
反対に、上長・他の法務部員からは、相談内容に対する回答方針を確認することによって、以下の内容が学べるのではないかと考えます。ゆえに、最初のうちは、ご自身での回答が容易な案件であっても、上長・他の法務部員の回答方針を確認することをお勧めいたします。

- 法的見解
特に業法関係は、初めて取り組まれる分野かと思いますので、どのガイドラインを参照しながら対応しているか等学ぶことができると思います。
また、事業部の相談に対する回答スタンス(あえて分かりやすく表現すればコンサバティブかプログレッシブか)やレスポンススピード(内容の正確性と事業スピードのいずれを優先するか)も学べる機会であると考えます。

- リスク(法的リスクのみならず、財務リスク・レピュテーショナルリスク・経済安全保障リスク等)及び相談内容の緊急性(優先度)に対する判断

- 回答内容の基礎となる事情(事業部の事業に対して理解又は把握している内容・過去の類似の相談内容及び回答内容、企業の組織体制(人員配置等も含みます。)、直近の事業展開・業績、企業の慣行・歴史、業界全体の慣行、並びに競合他社・取引先との関係等)

- 代替案がある場合には、代替案の内容とそれを代替案とした理由
  等を学ぶことができるのではないかと思います。
「回答の基礎となる事情」として挙げた考慮要素は、企業に一定期間在籍し、実際の相談に携わることによって自然と見えてくるようになることが多いですが、積極的に上長・他の法務部員から学べるのは貴重な機会であると思います。また、担当案件以外の案件も可能であれば確認し、法務部全体としての回答の傾向をつかむことができるとよろしいかと思います。

■事業部・役員との関係

「事業部・役員との心理的・物理的距離を近くすること」を意識することが重要であると考えます。
事業部・役員(以下「事業部」)の方が、法務部に対し相談しづらい部署であるとの感想を持たれているケースは、私が見聞きする限りでも多いようです。しかしながら、事業部にとって法務部に相談しにくい環境にあるということは、事業部の法律相談を把握できず、ひいてはコンプライアンス違反事案又はリスク事案の検知もできないということにつながりますから、意識的に両者の距離を近くすることが必要不可欠です。
具体的な方策としては、

- 事業部への出張相談や定期的な1on1ミーティング等による接触回数の増加
事業部にとって、相談に対する心理的ハードルを下げる効果をもたらします(心理学にいうところの「ザイオンス効果」)。なお、私は、「法律に関する相談かどうか判断できなくても構わないので、困りごとがあったらいつでも連絡してほしい」と伝えるようにしています。

- 事業部にとって「分かりやすい」回答
(簡潔であること、法的リスクや財務リスク等に関する見解の開示、代替案の提示等)

  等が考えられるところでしょう。
特に、二点目の事業部にとって分かりやすい回答を目指すということは、法務部の永遠のテーマではないかと思います。分かりやすい例としては、「契約不適合」を「欠陥」・「バグ」に言い換える等が挙げられるかと思います。
事業部との関係については、法務部強化の観点から企業の法務部全体でも様々な取組みをされていらっしゃることと思いますが、ご自身でもできることから始められるとよろしいのではないかと思います。

(2) 幅広い見識の涵養

企業内で信頼関係を構築するためには、(1)で触れているとおり、法的な知識のみならず、リスクや事業部の事業に対する理解が不可欠になります。また、企業における法務部の位置づけによっても異なるとは思いますが、財務経理・人事労務(純然たる労働法的知識に限らず、実際の勤怠管理や給与計算等も含みます。)・内部統制・IR・情報システム(ISMS等)・マネジメント、それらに関連するDXの取扱い等管理部門全体に関する理解が必要となる場合もあります。
加えて、海外子会社管理のために当該国の法令を学ぶ必要が生じることもあります。
すなわち、これまで司法研修所で学んできた純然たる法律知識・法解釈のみを業務スコープとするのみでは足りず、幅広い分野の知識を学び、見識を深める必要が生じることとなります。
若手インハウスロイヤーの方については、法務部以外の他部署が最初の配属先とされるケースが一定数あるように伺っていますが、企業としても、上記に掲げた知識を学び、バックグラウンドとした上で法務に携わってほしいという意図があるものと推察しております。

(3) 他の弁護士や弁護士会との関係構築

ごく一部の企業を除いては、一の企業に所属しているインハウスロイヤー数は少ないため、結果として、法律事務所に所属されている弁護士の先生方と比較して、周囲に相談できる弁護士も少ないのが現状かと思います。そのため、「弁護士としての在り方」や「弁護士としてのキャリアの築き方」等、弁護士特有の悩みを相談しづらい場合もあると考えます。
 そこで、私としては、弁護士会において関心のある分野の委員会やJILA(日本組織内弁護士協会)に加入し、ご自身の業務に支障のない範囲で活動されることをお勧めいたします。活動をしているうちに、他の弁護士の先生方ともお話できる機会が自然と増えますので、何か困ったことがあったときに相談することができるかもしれません。私自身、(活動量はほどほどのタイプですが)活動を通じてお会いした先生方には大変お世話になっており、深く感謝をしております。
また、私でよろしければ、個人的なご相談も受け付けておりますので、いつでもご連絡ください。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

寄稿者ご紹介

弁護士 干場 智美先生
一橋大学法科大学院修了、株式会社レオパレス21、株式会社リコー等を経て現職。現在は、労務/ジェネラルコーポレート/IPO支援を主軸業務としながら、リーガルオペレーションズ(ナレッジマネジメント等)についての活動も行っている。

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