【法曹実務家・司法試験受験生向け】タイピングの技法(山下竜之介)
1. はじめに
法曹は日常的にパソコンを使用し、書面を書いたり、クライアントにメールを送ったりしている。司法試験受験生は長らく手書き答案を提出してきたわけだが、2年後の令和8年司法試験からCBT方式導入により、パソコンで起案することとなる。
本稿は、迅速かつ正確なタイピングという観点から、タイピングの技法について考察することで、読者により速く、より正確なタイピングをしてもらおうというテーマでお送りするものである。
2. 私のタイピング能力
タイピングの技法というテーマとの関係では、タイピングに対する考え方やテクニカルな面を考察すれば足りるようにも思われるが、読者も筆者がどの程度のタイピング能力を有している人物なのか気になるだろうから、いくつかタイピングゲームをやった結果を示しておきたい。
巷には様々なタイピングゲームが存在するところであり、20代や10代の諸氏は小中高の技術等の授業の中で扱ったこともあると思われる。他方で定石というべきほどのタイピングゲームは見当たらず、おそらく比較的メジャーと思われる寿司打とe-typingに挑戦してみた。結果については、画像の通りであるが、私のタイピングスピードは世間的にもかなり速いと評価されるものと思われる。
3. 法曹や司法試験受験生に要求されるタイピング能力
前項で私のタイピング能力について自慢しておきながら大変恐縮であるが、タイピングゲームの出来と法曹や司法試験受験生に要求されるタイピング能力は、あまり関係ないと思う。なぜならタイピングゲームは入力すべき単語や文章が与えられる(画面に表示される。)のに対し、法曹や司法試験受験生がタイピングする場面では入力すべき単語や文章を自分自身で考えなければならないからである。タイピングゲームにおいて要求される能力は、画面に指示された入力事項を正確にタイプするということと、わずかばかりの集中力であるが、自ら主体的に入力事項を思想することは全く要求されていない。
このようにタイピングゲームと法曹や司法試験受験生のタイピングで共通しているのは、入力段階にすぎず、法曹や司法試験受験生にとって重要なのは入力事項の思考なのであるから、タイピングゲームの成績はあまり関係ないわけである。
法曹や司法試験受験生のタイピング能力について考える際には、思考と入力(タイプ)、2つの能力が要求されるのである。
4. 法曹や司法試験受験生のタイピング能力を向上させる方策―第1段階・技能把握編
法曹や司法試験受験生のタイピング能力を向上させる方策は、非常に簡単であり、より速く思考し、より速く入力できるようになることに尽きる。これ以外に方法はないが、思考速度と入力能力は個々人の差異が大きいと思われ、一度自分の能力についてチェックする必要がある。例えば人によっては、思考はものすごく速いが、入力がものすごく遅いため結果的にタイピング能力が低いとされることもあるだろうし、人によっては入力がものすごく速いが、思考がものすごく遅いためタイピング能力が引くとされることもありうる。タイピング能力が低い、タイピング能力を向上させたいといっても、その原因は全く異なることに注意する必要がある。
この能力差の測り方であるが、次のような方法を提案したい。まず、その辺のタイピングゲームを行い、客観的な入力能力を把握する。この際重要なのは正誤数ではなく、一定の時間あたり何文字タイプできたかである。画面に表示された単語や文章を入力する能力は法曹や司法試験受験生にはさほど重視されないからである。そのうえで、自分が記憶している文章(百人一首でも歌の歌詞でも誰かの演説でもなんでもよい。一定の思考をしながら(思い出すことに脳を割きながらタイプするのが重要である。)を入力してみて、かかった時間と入力文字数を計算する。この時、スピード差が大きく表れるのなら、思考か入力能力のいずれかに問題があるということになる。画面に表示された単語や文章を入力する際にはある種反射神経も要求されるから自分が記憶している文章の方が速くなるのが通常であると思われ、スピード差が表れるのは通常と思われる。仮に大きな差が出るのなら、そこが課題ということになる。
思考が課題であった場合は本稿が対象とするところではないが、思考の速さは持って生まれた能力とも思われ訓練して速くするよりも、入力能力を限界まで向上させ、入力に専念するのが良いのではないかと思う。この点については、他の優れた論考に譲る。
5. 法曹や司法試験受験生のタイピング能力を向上させる方策―第2段階・ブラインドタッチ修得編
さて、入力能力を向上させる方策について検討したい。大前提として、ブラインドタッチはマスターする必要がある。ブラインドタッチとはキーボードを見ずに、画面を見るなどして入力するタイプ手法をいう。法曹や司法試験受験生が入力する時には、ただ単に自分が思ったことを書き連ねていくというよりは、書籍や書面、問題文などを見て検討しながら入力することが多いと思われる。視線はこれらの参照物に向けなければならないのに、キーボードを見ていては視線が忙しくなってしまうし、参照物に視線を向けながらキーボードにも視線を割かなければならず、入力に要する時間は著しく増加してしまう。
ブラインドタッチを習得するのは一朝一夕とはいかない。私は3歳ぐらいの頃からパソコンを与えられ、ローマ字入力をしてきたが、10歳ぐらいまでは左右の人差し指のみを使って入力していた。10歳ぐらいになってブラインドタッチの存在を知って、試しにやってみたら自然にできたという次第であり、特別な訓練をしたわけではない。
しかしブラインドタッチを習得するために必要な能力は存在すると考える。それは、キーボードの位置を把握していることである。私を含めブラインドタッチができる人間は、白紙のキーボードが与えられても入力ができるし、紙にキーの位置を書けと言われれば書ける。つまり、キーの位置(配置)を覚えるということが第一に要求される。どこにAがあるのか、どこにOがあるのかわからないのにブラインドタッチを習得することはできない。
キーの位置さえ覚えれば、あとはそれほど難しいことではない。通常のJIS配列であれば、JとFの位置にくぼみや浮き出たラインなど何らかのサインがある。これはホームポジションと呼ばれるものであり、左右の人差し指を置いておくための場所である。私がブラインドタッチをするときは、キーボードに完全に手を置くのではなく、キーボードの数ミリ上で浮かしているのだが、入力のために手が移動するごとに、意識的か無意識のうちにこのサインに指を触れ、自分の手がキーボードの中でどこに置かれているのか把握している。反対に言えば、ホームポジションのサインがなければ、私がブラインドタッチをすることは著しく困難である。そのため、まずホームポジションを確立する必要がある。
その次に要求されるのは、各指の管轄を遵守することである。図のように、指には管轄があり、この管轄を守らなければ、ミスを生む。指の管轄は、最も効率よく入力するために編み出されてきたものであり、これに従わなければ余計な手の動きが増える。余計な手の動きが増えれば、タイムロスであるばかりか、手を戻す位置を誤り、異なるキーをタイプすることも起こりうる。タイピングゲームと異なり法曹や司法試験受験生が入力するキーは、“、”(読点)や“。”(句点)が多い。この時、毎回右手の人差し指を動かす者も多いだろうが、指の管轄によれば読点は右手中指の管轄であり、句点は右手薬指の管轄である。読点と句点の打ち間違いはよく聞くが、これは指の管轄を守らないことが大きな要因となっていると思われる。
6. タイピングの心構え
最後に、私がタイピングする際の心構えについても言及しておきたい。私は、タイピングをする際、思考しながらタイピングをしている。厳密に言えば、次に入力する文字を考えながらタイプしている。すなわち、私がある文字をタイプしている際、sの文の終わりは全く決まっていない。他者がどのような思考でタイピングを行っているのか知らないが、文末未定で思考しながら入力するというのは比較的珍しいのではないかと感じている。文末は未定であるから、入力を途中でやめて消すということもまま起こる。にもかかわらず、私が文末未定でタイピングをするのは、その方が速いからである。
どのような心構えでタイピングをするかは各々個人差が相当大きいと思われるが、いずれにしても自分に合う心構えで入力をするというのが重要だろう。文末までしっかりとイメージしてタイプしても、文末未定で突入してみても仕上がりが一緒なら優劣はない。
7. おわりに(まとめ)
以上述べてきたことをまとめれば、まずタイピングゲームなどを通じて自分のタイピング能力を把握する。そのうえで、キー配置を覚える。さらに指の管轄を遵守する。これによりブラインドタッチが可能となり、より速い入力が可能になる。
(やました りゅうのすけ)