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もし、言葉が通じなくなったら


ある時ふと、「ある日突然、お互いの言語が全く理解できなくなったらどうしよう」と思った。

バベルの塔をご存知だろうか。

旧約聖書の中にあるもので、人々が力を合わせて天まで届く塔を作ろうとし、それを恐れた神様が、人々の言語を乱し、言葉が通じ合えない別言語を話させるようにして、人々を結託しづらくさせた。結局、人々は当惑し、塔の建設を諦め、世界各地に散らばっていったという話だ。

それまで人々は共通の意思のもとに協力していたのに、ある日突然、相手が何を言っているのか全くわからなくなる。
その時の人々の困惑を思うと、若干私は怖くなる。他人事と思えないと言うか。




先日、数日間だけオーストラリアに滞在した。
現在オーストラリア在住の彼女が住んでいる地域、そして日本で私が住んでいる地域からの航空代、距離などを鑑みて、私達はサンゴ礁が有名で海の綺麗な都市に旅行することにした。

「9月初めまでオーストラリアに住んでいたくせに、また行くの?」とよく聞かれたが、私達の遠距離期間の限界は2ヶ月(と私達は勝手に決めている)なので、2ヶ月に一度は会うことにしている。
また、ちょうど先日私の誕生日だったこともあり、この数日間に会うことを決めたのだった。



彼女とは毎日電話をしている。
ので、基本的な言語の壁はないのだが、私は日本では日常的に日本語しか使っていないので、時折他言語が頭に入ってこない時があった。
特に私達はミックス言語コミュニケーションを取るので、会話の中に英語、日本語、中国語、韓国語が混ざる。

オーストラリア滞在中に彼女が「It's me na」と言った時、中国語圏の人はよく語尾にnaとかlaとか付けるのだが、それが私の頭から瞬間的に抜け落ちていて、「meana」って何?となった。

私がオーストラリアに住んでいた頃には、このような聞き間違いをした記憶はない。
なので、遠距離になり、会話量が減ったことで生じたものだったと思う。

まあとはいえ私は数秒後にすぐ「me」と理解できたのだが、その時にふと冒頭の「私達がある日突然お互いの言語を理解できなくなったらどうしよう」という考えが頭をよぎった。




ある日突然、彼女と言葉が分かり合えなくなったら、私達はどうなるだろうか。
お互いに「なんで!?」「Why!?」「為什麼!?」と困惑しあって、「何て言ってるの!?」「我不知道!!」と声を荒げ始めるかもしれない。
もしかしたら、泣き出すかもしれないし、理解しあえないことに怒り出すかもしれない。

でも、私達は何だかんだで適応能力が少し高めなので、もしかしたら一つずつ言葉を整理し出すかもしれない。

例えばイスを指さして、「椅子」と発音し、(ちなみに日本語はイス、中国語だとyizi、ちょっと似てる)お互いに、この物体はこの発音をする、と一つずつ確かめ合う。

そうすることで段々、相手が何の対象について話しているのか少しずつ、少しずつ理解できるようになっていく。かなり時間はかかるだろうが。
(物体の名前は覚えやすいだろうが、抽象的な概念を伝えるのには骨が折れそうだ…)

とはいえ、私と彼女だと彼女の意見が通りやすいので、おそらく彼女側の言語が多めになるだろうと推測される。
まあどうしても私が発音できなかったり覚えられないものは、彼女は私側の方で覚えてくれるだろう。

そして出来上がった言語、
まさに完璧な「私たち語」を用いて、完全に私達にのみ理解できる言語を話すようになる。






不思議だ。
今もすでに私達は4ヶ国語が混じったミックス言語コミュニケーションをしているが、それが更に高度なものになっていく。
もっともっと現在が洗練されてゆく。

そうなるためには、今とは段違いな努力と継続的な言語学習が必要になってくるだろう。

でも、もしそうなったらなったで、私は頑張りたい。
言語は頑張ればある程度覚えられるが、彼女という人はこの世に一人しかいないのだから、彼女と分かり合えずに離れ離れになるぐらいなら、私は血の滲む努力をするだろう。
こんな特別な人にはもう二度と出会えないと確信しているから。




まあでも、言葉は難なく通じ合えることに越したことはない。
神様、どうか私達の言葉を乱さないでください、お願いしますね。

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