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何でも有りの景色

 一昨日までの力仕事の疲れが残っているのか、私は十時にセットした目覚ましが響きに気付いても、布団から出る事が出来ずにいた。
 起きる気が生まれたら起きたら良いだろう…次第にこう考える様になっていった。
 午前から午後に切り替わってから、漸く私は布団を畳みスマホを手にして、やって来た連絡はないか確かめた。
 すると明日お会いする高校時代の恩師からの着信が有り、嬉しいという感謝と、出れなかったというお詫びの気持ちで、留守番電話を聴いた。
《真佐雄君。おはよう。明日のランチだけど、君の近所の交番の前で、十二時半に待ち合わせしましょう。明日私は楽しみにしていますから。失礼しますよ。》
私は、直ぐに折り返したが、ご自宅に先生はおられず、あとどれ位早ければ、通話出来たかと残念に思った…。
 でも、明日の昼には必ずお会い出来るからと思いながら、母が作ってくれたフランスパンにマカロニとソーセージを挟んだサンドを昼食として口にした。
 昼食が済んだら、着替えをして家を出た。目的地はもう決まっている。

 私が、世界一の利用者数を誇る新宿駅から乗った黄色い線の電車は、千葉県に入って最初の市川駅に着いた。
 相変わらず肌を打つ寒さは残っており、これから逃げる為に足早にアイ・リンクタウンへと向かった。
 四十五階の展望施設に向かう為に、三階からエレベーターに乗る。サービスが良い事に、エレベーターには窓が有り、縦に流れる風景を堪能する事が出来るのだ。三階から上がっていく景色を目に映しながら、この景色の様に私の仕事に於ける存在感や立場も上昇していけばなと思った。
 このビルにはこれまで何度か訪れた事は有るが、相変わらずスマートで端正なビルが備える、一五〇メートルからの爽快な景色と、展望施設に在るカフェスペースの長閑で過ごし易い雰囲気が、出迎えてくれていた。加えて、カフェのドリンクが全て二〇〇円という庶民に対する情けも素晴らしい!
 景色は一言で言えば「何でも有り」に尽きて、東側の本八幡を見れば、高さの差が大きな建物が共存というよりは混在しており、北側に目を向ければ、建物は建物で地帯を築き、樹木は樹木で群れを成していた。
 この様に、二つの対照的な要素を備える街は良いと思う。幅が広くて、その分味わい深くなっていく。これは一個人にも当てはまると思う。果たして私がこうして作る文章には、しっかり二つ以上の対照的な要素を持ち合わせているだろうか…。
 さて、景色をゆっくり堪能していた私だが、ここで不図久しぶりにジュースを飲んで見ようと思い、グレープフルーツジュースを、店員に頼んでまた一〇〇円玉を二枚渡した。
 すると、思っていた以上に大きいグラスに入れてくれて、少し得した気分になれた。味は、舌を刺激しない適度な甘酸っぱさが有り、スカッとさせてくれる冷たさが、文章作成の思惟で熱を帯びた私の頭の清涼剤になってくれた。
 カフェが閉まるまで、あと二時間も有るから、最後までゆっくりしていこうと思う。私が市川市に住んでいたら、月に何度も訪れていただろう。           完

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