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二日も休めるなら北とぴあへ

 師走の土曜日。久しぶりの二連休故に、私は自宅で制限時間なんて意識せずに、ゆっくりリラックスして過ごす事が出来ている。
 昼下がりになり、私は知人に出す二枚の年賀状と、学生時代の恩師に差し出す手紙を入れた封筒を手にして、外出した。恩師は携帯電話を持たれないのでメールは出来ず、ペーパー形式で連絡を取るしかなかった…。
 家から歩いて二分も掛からない郵便局が在るが、平日でないから営業をしていない為、新宿駅前の大規模な郵便局に足を向けた。
 店内の二階は、老若男女問わず、大勢で番待ちをしており、私は二十五分待ちを宣告されたのである。
 郵便受付窓口は十も有るが、半分以上は職員が不在で機能しておらず、その有様は私のせっかちな性から来る歯痒い想いを生じさせた。
 やがて私に順番が訪れて、百八十円と白い封筒を担当してくれた係長に渡した。いちいち私は、役職を持ち合わせる人間が出るのだから、郵便局も職員不足で困っているのかと余計なお世話の推測をした。

 いよいよ私の外出の目的地で在る、王子駅前に聳え立つ「北とぴあ」十七階の展望ロビーに辿り着いた。
 私が一歳の夏に完工したしたこのビルは、汚れではなく、今日まで風や雨や雪を堪能して来た歴史をしっかりと刻んで来た事が、見て取れた。
 すぐ西隣には、日本の東半分を樹木の枝状の如く通る新幹線が、躍動感を纏って進み、私の遠出意欲を引き出すのであった。
 展望階には、十七時という早過ぎると言いたくなる時間に閉まるレストランが在った。私は、外出が遅かったから、居れる時間は一時間も無かったが、折角訪れたのだからと、ホット珈琲一杯でもと店内に踏み入れた。
 小柄で親切な女性店員が、
「おひとり様ですか。では、お席の確認を致します。」  
 と、わざわざ客席に足を進めて見渡してくれた。これは、私も外来の方をお迎えする際は見習わねばならないだろう…!
 閉店まで残り二十分を切ったが、それでも席の七割を私を含めた来客で埋めらていた。そして、右からも左からも他の客の話し声が、耳に到着して来た。別にこれは雑音という粗野な受け止め方ではなく、活気や臨場感という前向きな捉え方をする事が出来る。矢張り、店はこうであるべきであろう。
 一方で、私の目に映る景色は、感知出来ないゆっくりした速さで、空の色が暗く濃くなり、街灯や建物の灯が目立って行く…。                   完

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