同人小説「永遠のうた」8
僕は、今日も一人ストリートで歌う歌うたい”J”と呼ばれる大野渚だ。幼馴染の猛とは3歳違い、ひかるとは4歳違いだ。
ラーマヤーナ物語的に言えば、ラーマ王子が僕のことを、ラクサマナが猛のことを、そして木下ひかるがシータ姫のことを指すだろうか。でも、ラヴァナ王は誰なのだろう?
なぜ僕は歌うのだろう。ただ歌いたいからなのか、それとも人に伝えたい熱いメッセージがあるのだろうか。有名になりたい?お金持ちになりたい?異性にもてたい?
昔から、胸にしくしくと痛みとも悲しみとも取れる感覚を抱くことが多い。ひかるを見ていると、特に痛みが増す。
ひかる…、ひかる…、ひかる…。胸のクロスのペンダントをつまんでみる。牧師ではないけれど、この十字架のネックレスは特別お気に入りだ。
夜は更けた。これからどこに行こう。大学生とは言え、ほとんど学校には行かない。でも、うちの学部はこんな状況でも卒業は許されるらしい。一応、民俗学を学んでいる。といっても、文化人類学のフィールドワークが面白くて、地方に出かけては祭りや芸能を学んでレポート提出している。趣味みたいなものだ。
将来は何になろうか考えることもある。今のままだと、売れない半アマチュアのロックミュージシャンか、アルバイトを転々としながら女に養われる日々か。あるいは大学院進学か。レベルを下げれば大学院進学もできると思う。
「募金お願いしまーす!カンボジア難民のための募金お願いしまーす!」街外れでボランティアたちが声を上げている。
・・・・・・・・東南アジアぶらり旅とか行ってみるか、タイとかミャンマーとかインドとか。東南アジアの人たちは必死に生きてるのに、日本人は暖かなものだな。大野渚は一抹の良心の痛みを感じた。