#348 「乙社事件」東京地裁
2013年11月13日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第348号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【乙社事件・東京地裁判決】(2012年8月21日)
▽ <主な争点>
パワーハラスメントにより辞職を余儀なくされたことを理由とする損害賠償請求等
1.事件の概要は?
本件は、乙社の講師であったXが同社の従業員であるAのパワーハラスメントにより辞職を余儀なくされたとして、乙社およびAに対し、不法行為または債務不履行に基づく損害賠償(財産的損害220万8660円、慰謝料200万円、弁護士費用42万円)等を求めたもの。
Aは平成22年5月6日、Xに対し、乙社の受講者であったYからの「Xと男女の関係になって性病をうつされた」等の手紙を見せ、XはAに講師を辞する旨を伝え、乙社に業務委託講師契約解除通知書を提出している。
2.前提事実および事件の経過は?
<乙社、XおよびAについて>
★ 乙社は、国家試験その他資格試験等の教育などの業務を目的とする会社である。
★ Xは、行政書士であり、乙社において行政書士講座および公務員講座の講師として受験指導等を行っていた者である。
★ Aは、乙社の従業員であり、同社の教育第4事業部副事業部長(平成22年4月から事業部長に就任)として、講師に関する人事権を掌握し、講師の採用・解雇、契約の更新ならびに講座の割振り等を担当していた者である。
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<本件契約、Xが解除通知書の提出に至った経緯等について>
▼ Xは平成21年12月、乙社との間で「契約期間:22年1月1日から12月31日まで。業務内容:講義、教材等の原稿作成、採点、教室運営、その他これらに関連しまたは付随する業務」という内容の業務委託講師契約(以下「本件契約」という)を締結した。
★ 本件契約には、以下のような規定がある。
第11条(解除)
乙社は、Xが次の各号の一に該当するときは、何らの催告なしに本契約の全部または一部を解除することができる。(中略)
(5)本契約に違反する場合またはそれに準ずる事由があると乙社が判断した場合
▼ 22年5月6日、Xが原稿を届けるため、乙社を訪れた際、AはXに対し、乙社の受講者であったYが同社の新宿校に持参したという手紙を見せた。その手紙には、「Xと男女の関係になってXから性病をうつされた。弁護士および○○大学セクハラ啓発防止委員会を通じてYの意向を通知する」等といった趣旨のことが記載されていた。
▼ Xは当初辞職するか否かにかかわる返事はしなかったが、Yとのトラブルが解決できない状態で講師を続けていくことには問題がある旨をAが繰り返し述べる中で、一旦講師を辞める旨を申し出るに至った。
▼ XはAに対して講師を辞する旨を伝え、同月10日、乙社に対し、業務委託講師契約解除通知書(以下「解除通知書」という)を提出した。解除通知書には「本件契約11条5号に該当する事由が発生したことが判明したため、22年5月10日付で業務委託講師契約を解除いたします」と記載されていた。
▼ Xは同年6月30日、行政書士1名とともに乙社を訪れ、Aらに対し、Yとのトラブルが収束したことを報告した。
▼ Xと乙社は同年7月30日、契約期間を8月1日から12月31日までとする業務委託講師契約を締結した。同契約は、Xが更新を希望しなかったことから、12月31日、期間満了により終了した。
3.講師Xの言い分は?
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