#368 「T社事件」東京地裁
2014年9月3日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第368号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【T社事件・東京地裁判決】(2013年1月22日)
▽ <主な争点>
雇止め告知対応メールの送信を理由とする譴責処分など
1.事件の概要は?
本件は、T社との間で有期雇用契約を締結していたXが、他の非正規従業員に対して送信したメール(「契約打ち切りを言い渡されたのに、自己都合にすることもできるといわれ、…それでは困るので…と辞めて行った人もいます。それはパワハラにもあたります」等という内容)が同社の信用を損なうなどとの理由で受けた譴責処分の無効を主張して、その無効確認を求めるとともに、同処分がXに対する不法行為に当たるなどとして、T社に対し、損害賠償を求めたもの。
2.前提事実および事件の経過は?
<T社およびXについて>
★ T社は、音響、映像、情報通信に関するコンピュータシステムの企画、開発、設計、製作、販売、保守、修理および運営管理、コンピュータ、通信機器、その周辺端末装置の製造、販売、施工、保守、修理および運用管理等を業とする会社である。
★ Xは、平成16年8月、T社との間で期間1年間の契約社員として雇用契約を締結し、その後、毎年同雇用契約を更新して、同社の業務に従事している者である。
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<本件発言、本件メールの送信等について>
▼ 平成23年11月、XはA(T社に長年勤務しており、Xと親しくしていた契約社員)が同年12月末日かぎりで雇止めを通告されたことを知って、同社に抗議するなどしていた。
▼ 24年1月13日、B(T社の契約社員)は以前から懇意にしていた同社人事・総務部職員のCに対し、自らが退職する旨を伝えたところ、CはBに対し、雇止めによる契約終了の場合であっても、会社都合ではなく自己都合として扱うこともあるという趣旨のことを述べた(以下「本件発言」という)。
▼ Xは同月26日、他の非正規社員ら複数名に対し、以下のメール(以下「本件メール」という)を送信した。
「業務(正社員ではない)社員の皆さんへ
お疲れ様です。
下記の通り、先日労働局に行って話を聞いてきました。また、弁護士さんに相談にも行き、話を聞いてきました。
ポイントだけ言いますが、もしも、辞めたくないのに契約打ち切りを言い渡されたら、『解雇理由通知書』を出してください、と伝えて、『私は辞めたくありません』『辞められません』とはっきり伝えて返事を保留にし、労働基準監督署に相談してください。その時、業績悪化と言われたら、人を新しく雇っているとの話をして、納得いかないし辞めたくない、という話をしてください、『能力が足りない』と言われたら、会社の指導が足りないからではないですか?と言ってください。
とにかく労基に言ってくださいね。たぶん、まず、あっせんという話し合いの場を設けてくれます。それで会社がしらばっくれて出てこない場合もあります。その後は民事で、いきなり訴訟、ではなくて、労働審判(3回で終了)に移行できます。これは地裁からの呼び出しになるので、無視はできません(監督署ではなく裁判所なので、欠席すればこちらの言い分を認めたことになります)。ここで、不満な審判がおりても不服申し立てもできます。
この度、契約打ち切りを言い渡されたのに、会社都合ではなく、『自己都合にすることもできる』と言われ、それでは困るので…と辞めていった人もいます。そんなことはあり得ないし、それはパワハラにあたるので、もしそんなことを言われたら問題です。それも監督署に言ってください。
今年や来年は大丈夫でも、何年後かにはいつか自分もそうなる時がくるかもしれません。また、来ないかもしれません(もちろん来ないことを祈っていますが)。だから、今からそう恐れる必要はありませんが、知識として持っておいてくださいね。
このメールは、必要ならば印刷で出すなどして、すぐに削除してください。 まずは、お仕事をきちんと頑張りましょう!」
★ なお、本件メールを受信した非正規社員らからD部長をはじめとする人事・総務部の職員に対し、苦情や不安を訴える内容の申告が寄せられたことはなかった。
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<本件譴責処分、T社就業規則の定め等について>
▼ T社は24年3月2日、Xに対し、譴責書を交付した(以下「本件譴責処分」という)。同譴責書には、譴責処分の理由として、「24年1月26日の就業時間中において、非正規社員13名宛てに事実とは異なるメールを送信し、非正規社員に不安を与えるとともに会社の信用を著しく傷つけた」との記載があり、T社は本件メールの送信が同社就業規則の60条(11)に該当する行為であると主張している。
★ T社の就業規則60条、61条所定の処罰事由に該当すると認められるときには59条に定める処罰(懲戒)を行うと規定している。そして、同規則59条では、処罰の種類として(1)譴責、(2)減給、(3)昇給停止、(4)降格、(5)出勤停止、(6)諭旨解雇、(7)懲戒解雇が定められ、60条では譴責・減給・昇給停止・降格・出勤停止に処せられるべき事由として、23種類の事由が定められ、そのうちには、「過失により会社の信用を損なうような行為をしたとき」(同条(11))という事由がある。
3.契約社員Xの主な言い分は?
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