初めての路上教習

私が通う自動車学校は、そこだけ何十年も前から時が進んでいないような装いで、初日に配られるのはダサくて、ゴム臭い時代遅れのセカンドバッグ。
私の父も、若い頃に通っていた学校だ。
頭のいい私は学科は得意だったが、どうも運転の技能教習が苦手だった。子供の頃から運動神経が悪かったものだから想像はついていたが。マリオカートなら、交通ルールも難しい操作もないのにな。実はマリオカートでも毎回最下位だ。

技能教習を終えた私は、教習所内の小さな窓から見える車のライトの流れに心を奪われ、静止した。
技能教習が終われば、私もあの車のライトの流れに乗るのである

帰りの送迎車、誰も喋らない車内に流れている間抜けたラジオが私に青春を思わせた。
事務の女が運転する帰りのバスでバブリーな曲が流れた時は焦った。完全にこの女性の趣味だろう、と。しかししばらくするとそれがラジオ放送であることに気づき、安堵する。

教習所内での教習を終え、いよいよ今日、路上に出る。私が運転席にいて、先生が助手席にいる。2人は無言で道路上を滑走した。
いつもは教習で磨かれた会話力で私を笑わせてくる先生が、今日は珍しく口を閉ざしている。何年も自動車学校の教師を務める先生でも、さすがに初めて道路に出る生徒の車に同乗するのは緊張するのだろうか。私の方も運転席で体をガチガチに固めていた。出発前、緊張しすぎだと注意されたのに。
時々先生が私に初の路上進出の感想を求めた。
私はうまく答えられなかった。「夢みたいです。」ほんとに走馬灯の一節のようだった。後から思考を整理してみると「人間って変われるんだな」
これに尽きる。自動車学校入りたての時、初めて座った運転席を思い出す。もう、安全確認の順番で注意される私はいなかった。自動車学校に戻って車を駐車した後、私は脇がひんやりする感覚を覚えた。これがまさしく冷や汗である。先生はようやく安心したようにいつもの調子を取り戻した。「時々左に寄りすぎてたな。おぉ!ってなったよ。とりあえず今日のミッション、生還する、クリアです!おめでとう!」私にとってのミッションは先生を生きて帰す。こちらも無事ミッションクリア。
車を降りて待機所のベンチに座ると奥歯が痛んだ。自分が思っていたより相当力んでいたようだ。

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