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映画 「漁港の肉子ちゃん」 の感想

ネタバレ注意です。

ツイッターなどで「#みんな望まれて生まれてきたんやで」というフレーズが拡散され、その言葉だけが独り歩きしてしまっているように感じます。

ですが僕はこの映画をハッシュタグだけで判断してほしくありません。むしろ、このタグに苦言を呈している人にこそ見てもらいたい映画です。

確かにこのハッシュタグはあまり良くないです。反論したくなるのも理解できます。好意的に解釈すれば
「気付いてないかも知れないけれど、皆は親から愛されていたんだよ。」
ではなく
「今生きている人は、皆誰かに必要とされているんだよ。」
ということを伝えたいのだと思います。

「望まれて」というのが「親から望まれて」という様に限定されていないのはこのためでしょう。

ですが僕がこの映画で最も重要だと感じたのは、このような一般化された教訓ではありません。この映画で重要なのは「幸せな気持ちになれる」ということです。

「漁港の肉子ちゃん」で描かれるのは不幸な子供の苦悩だとか超克だとか、そういったものではなく、日常の温かさや楽しさです。

主人公のキクコちゃんが友人関係に悩んでいる時に肉子ちゃんの単純な性格から来る言葉で胸が軽くなったり、キクコちゃんがお腹を空かせて帰ると面倒を見てくれている焼肉屋のおじさんが賄いを出してくれたり…そういった場面を見て心が温かくなる。

どんな時でも底抜けに明るい肉子ちゃんの姿や、よく知らなかった同級生の意外な一面などを見て楽しくなる。

そういった日常の中にある幸せが最も重視されていたと思うのです。

また、その日常の幸せを描くための表現も素晴らしい。

まず、絵が凄い。四季折々に変化する背景や、肉子ちゃんの肉感あふれるコミカルな動きも凄いですが、中でも特に驚いたのが食べ物です。

肉子ちゃんはその見た目通りとてもよく食べます。そのため様々な食べ物が出てきました。そのどれもがまるで輝いているかのように見え、非常に食欲をそそります。

また、ギャグも吉本が関わっているからかはわかりませんが、面白いです。
日本人の身内ネタともとれるようなオマージュもありましたが、心地よい範囲に収まっていて見ていて飽きませんでした。


また、描かれるのはただの日常だけではなく、キクコちゃんの特殊な出自についてもしっかりと答えを出していました。

キクコちゃんは父親が誰か分かりません。そのことを普段はあまり気にしていないのですが、とある出来事で、面倒を見てくれている焼肉屋のおじさんに迷惑をかけてしまったときに、自責の念から「私は望まれていない子なんだ」と漏らします。

それに対しておじさんは「お前は望まれて生まれたんだ」と返しました。

「お前は」であって、「みんな」ではないのです。

つまり、世間の全員に無責任に投げつけた言葉ではなく、キクコちゃんに向けられた言葉だったのです。

そしてそれは、これまでのキクコちゃんのひたむきな生き方を見ると実に納得できる言葉でした。

この映画は教訓の押し付けではなく、幸せに生きるキクコちゃんを描いた映画なのです。

笑って泣いて、見終わった時に心が温まっている、見てよかったと思えるそんな映画でした。



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