夫の発達障害【日常の困りごと⑩「同じ」へのこだわり】
とても特徴的だなあ、といつも思う夫の特性が、「同じもの」「同じ場所」「同じ道」「同じ店」へのこだわりだ。
たとえば、かつての夫は毎回隣の市の美容院を利用していて、
行き帰りに1時間半、ヘアカット、パーマに2時間、トータルでおよそ4時間くらいをかけて散髪に行っていた。
結婚当初はよほどその店を気に入っているのかな、と解釈していたのだけれど、
よくよく聞いてみると、とくにそこが他店よりテクニック的に優れているとか、担当スタッフの方と親しいとか、人柄を気に入っているだとか、そういった理由は一切ないというから驚いた。
じゃあ、なぜ?と訊くと、
「何となく」
と言う。
どうやらこの地に越してきたときに誰かから聞いたのがたまたまその美容院で、以来そこへ通っている、というだけのことらしかった。
さらに結婚してからは、一体どこにパーマをかけるのだ、というほど短髪にしていたのに、
「俺は癖があるからまとまらないんだ」とパーマをかけ続けていた。
正直、パーマなんて単価も高いのに、一体どれだけ無駄なコストをかけて生きてるの……と私は呆れていた私は、あるとき、
「いや、もうそんなに短いのにかけなくても変わらないと思うよ。1回かけるのやめてごらんよ、大丈夫だから」
と、そう声を掛けて送り出してみた。
すると、彼はパーマをかけていたはずの前回同様のヘアスタイルで戻ってきた。
つまり、かけなかった今回と前回では、何も変わらないように私からは見えた。
本人的にはどうなのだろう、と思って訊いてみると、案の定、
「違和感ない(問題ない)」
という答えが返ってくる。
そうだよね、変わらないと思うよ。
「ね、大丈夫だったでしょ?」
といえば、半笑いで頷いていた。
それでも、もし本人が気に入っているのなら、と時間をかけて隣の市で散髪してくることは長らく容認していたのだけれど、
娘が生まれてからも同じようにそれをしようとするので、私はいよいよ止めざるを得なかった。
だってまず、改めてその店に行く理由をヒアリングをしても、
とくになし、なのだ。
それで私は、
「もしかして、新しいところが嫌なの?」
と訊いてみた。
彼からは、「うん、めんどくさい」と返ってきた。
なるほど、新規のやり取りが負担なんだな、とその頃の私はもうピンとくるようになっていたので、
「わかった。私が近所で探して予約する。それでいい?」
というと、彼は渋々了承した。
ヘアスタイルのオーダーにも困らないように写真を準備して、
「これにしてください」って言えばいいよ、と彼に伝えた。
そこまでしてでも、私はもういい加減近所で済ませてほしかった。
正直、産後3時間も4時間もかけて美容院に行くなんて、どうしても我慢できなかったのだ。
「あの店のカットが気に入っている」
とか、
「あの人のカットじゃなきゃダメなんだ」
とか、そういう理由があるなら別だけれど、ただ店を変えるのが面倒だからという理由だけで、優雅に隣の市まで行かれるのはNG。
私なんて産後半年経ってようやく、それも1時間かからない店を探して急いで行ってきたものだ。
それを知っていながら、
「近所でちゃちゃっとして戻ってね」
と言った私に、「えー、それくらいさあ……」と返してきたときは「はあ⁈」と思わず声を荒げた。
私だって、「それくらい」したい。でもできないのよ赤子がいては。
そんな時間があるのなら、赤子の世話をしてほしい。
散髪当日、近所の美容院に出かけて1時間もしないうちに戻ってきた彼は、
「大丈夫だった」と言った。
担当の方との会話も含めて、「大丈夫だった」ということだった。
それ以来、今度はその店にずっと通っている。
他にはたとえば、私たち夫婦は市内で何度か引越しを繰り返しているのだけれど、
あるとき彼が、一番初めに通っていたコインランドリーまでわざわざ時間をかけて往復していることが発覚した。
「え? ランドリーなんてそこにもここにもあるよね。なんで?」
と訊けば、
「いや、ポイントカードとかあるしさ……(ごにょごにょ)」
と目を泳がせて言うので、ああ、これもとくに理由はないやつだな、と察した。
それからは、コインランドリーも近所で済ませてもらうようにした。
美容院にしろランドリーにしろ、彼にとって「どうしても」な理由がないためか、1度場所を切り替えると、後はすんなりそっちに通うようになる。
じゃあ最初っからそうしてよ……と思うけれど、これも「受動型」の特性なのかな、と思う。
はじめに刷り込まれた情報を更新することが難しいし、
日常場面における細やかな変更は、彼には負担が大きいのだと思う。
だから積極的には変更しない。
似たようなケースで、娘にはいつまでたっても10倍がゆを食べさせようとしていたし、
サイズアウトのためにパツパツになって臍が出ている着丈の服をいつまでも着せようとする。
引き出しの中に何着あっても、いつも同じ3枚くらいしか目に付かないらしい。
だから、だいたいいつも同じものを着せる。
まあ、目の前でそれを私が着替えさせても文句は言わないので、出かける前に私がもう1度選び直すのだけれど。
これは飲食店でも同じで、彼はいつも同じ店ばかり行こうとする一方で、
私が別の店を候補に上げれば、そっちでもいいという。
こうした点から推察するに、結果として「同じものを選ぶ」ことになるのは、
おそらく彼の場合【同じものへのこだわり】というよりも、
【経験した出来事から情報を引き出す】という特性によるところが大きいのではないかと思う。
「行ったことのある店」しか浮かばないし、
「着せたことのある服」しか目に入らない。
これがまず1つ目の要因。
それから、自分が誰かとやり取りをしなければならないケースでは、
「初対面の人と話さなければならないことへの負担」が環境を変えることへのブレーキになっている。
美容院を変えられなかったのはこのところが大きいように見える。
これが2つ目。
加えて、たとえばヘアスタイルを変えられなかったことに関しては、
「最初の刷り込みを更新できない」特性が影響しているのだと思う。
やや長髪だった頃と、短髪になってからでは前提とする条件が異なることに、気が付かない。
指摘されても本人の中でなかなかイメージが切り替わらないのだろう。
これが3つ目。
こうして書いてみると改めて、彼の場合は「執着」というよりも、「思考への負担」という部分が大きいのではないかと思う。
「選択する」には「思考」がいるし、「会話する」にも思考がいる。
初期の情報を更新するにも当然「思考」がいる。
彼は、日常的な場面において極力思考を省こうとしているように見受けられるのだ。
ワードローブを同じ種類で統一して、毎朝の(彼にとっては)余計な選択を省こうとするスティーブ・ジョブズ氏が浮かぶ。
夫にも、それと似たようなところがかなりあると私は感じている。
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