夫の発達障害【WAIS検査】
【脳神経外科での精密検査】
CTスキャンからおよそ1か月後、私たちは結果を聞くために再び脳神経外科を訪れた。
結論からいうと、【若年性アルツハイマーの疑い】で、要精密検査とのことだった。
スキャン画像を指さしながら医師が説明したところでは、夫の海馬は縮小していて、小さくなった分だけ隙間が黒く写っていた。
後日、夫は1人で精密検査を受けに行った。
検査だけであれば特段説明することもないので、困ることはないだろう。
そう思って私は夫を送り出した。
そのときも彼は飄々としていたから、自分の異常をまったく信じていなかったのだと思う。
2週間ほどして知らされたそのときの検査結果は、
【進行性ではないため若年性アルツハイマーとは認められない】ということだった。
私は、「進行性ではない」ことに喜んでいいのかよく分からなかった。進行性ではないということは、先天的に海馬が小さいということだ。
今後、短い期間に物忘れが激しくなっていくようなことは起きないのだとしても、やはり彼の脳には生まれつきの異常がある。
しかし、脳神経外科ではそれ以上のことはできないとのことで、
私は予め調べておいた、発達障害専門のクリニックに予約を入れた。
【発達障害専門クリニックへの相談】
発達障害専門のクリニックでも、初診は私が同席し、私が生活の中で困っていることを挙げて必死に説明した。
以前の記事で書いたような、暮らし始めて「あれ?」と思ったことをたくさん話した。
ここでもはじめ、どうやら医師は夫の方を信じようとしているのだということが言葉の節々から感じられた。
けれど、私の話を聞くにつれて、医師の顔色は変わっていった。
「ごみ袋の色が違っていても分からなかった?」
「そうですね。まあ、言われてからはさすがに気が付きましたけど」
医師からの問いかけに、夫は何でもないことのように返す。
「こっちに住んで何年?」
「ええと、6年、ですかね」
「んーー、じゃあ、分からないはずはないよね」
医師も不思議そうに首をかしげた。
「分かりました。じゃあ、検査をしてみましょうか」
ひとしきり2人の話を聞いた後、医師はそう言って、【WAIS検査】を受けるために夫だけを別室に案内した。
【WAIS検査】とは、
・言語理解指標
・知覚推理指標
・ワーキングメモリ指標
・処理速度指標
の4要素から構成される、成人の知能(IQ)を測るためのものだ。
検査結果は、その日のうちに出た。
【WAISの検査結果:夫は極度のADHD傾向あり】
医師によると、夫はADHDの特性が強く出ており、ADHDの中でもレア中のレアと言っていいほど各数値の差が激しいとのことだった。
健常であればそれぞれの数値の幅は、大きくても15ほどで収まるといわれている。
夫はそれ以上の開きがあり、グラフを見るとピラミッドのような山型を形成していた。
「これね、ふつうはほぼフラットなんですよ。こんなに山になることはありません。まあ旦那さん、これでよく仕事やってると思います」
医師は続ける。
「ただね、IQ自体は非常に高い。だからこそ、そういうところでカバーできているんでしょうね」
それから医師は、
「奥さんが大変なんだから、あなたはちょっと変わらないといけないよ」
という趣旨のことを夫に話してくれた。
けれど、
「旦那さん、幼少期はどうでした? たとえば、忘れ物が多かったとか」
という医師の問いかけに、夫は即座にこう答えた。
「なかったと思います。これまでの人生でとくに困ったことはありません」
(この受け答えもどうかと思う)
このときばかりでなく、以降ずっと、彼はこの検査結果を見ても自分に障害があることを信じようとしなかった。
医師としても幼少期の困りごとがないのであれば特定はできないらしく、結局「特性が出ている人」として扱うしかないのだといわれた。
私にとって苦しいことに、その後夫と揉めるたびに、夫はこの点だけをフォーカスして「障害とは診断されていない」と言い続けるようになる。
「お前にしかそんなこと言われない」と。
つまり夫は、私の方がおかしいと言うのだった。
まさか検査をすることで、夫の態度が余計にこじれるとは思ってもみなかった。
結婚式の準備を進めながら、私は1人途方に暮れた。