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〈プロジェクト撤収〉顛末記

はじめに


定年退職や人事異動に伴う職場からの “撤収” は誰の身にも降りかかる人生イベントだ.ワタクシの経歴を振り返ると,2018年3月末をもって定年退職となり,その後は5年間の再雇用期間を経て,2023年3月末をもって農研機構を去った.

農研機構では他にそういう事例の存在をまったく知らないが,ワタクシの場合は1989年10月に旧農業環境技術研究所に着任して以来,いっさいの人事異動がなく,30年あまりにわたって同じ部屋の同じ机で仕事をし続けた.

ワタクシの仕事机(2020年4月23日)

これだけ長期間に及ぶと,必然的に書籍・資料・書類が大量に蓄積されることになる.退職にあたってはそれらを一掃処分した上で,「立つ鳥跡を濁さず」というモットーのもと,すべてを “撤収” した上で,軽やかにはばたいて去っていく……はずだった.

しかし,現実には想定以上の時間と労力が撤収作業にかかることになってしまった.以下では,その経緯と顛末を記し,今後の参考にしたいと思う.

〈プロジェクト撤収〉の開始と頓挫


定年退職する一年前の2017年4月にワタクシはひそかに〈プロジェクト撤収〉なるものを立ち上げた.当時の日録には以下のように宣言した:

〈プロジェクト撤退〉開始.積年の “堆積物” を一掃処分するときの心がまえは「もったいないと思わないこと」に尽きる.「えいっ,えいっ」と声をかけながらふんじばるべし.「あとで必要になるかも」とか迷いだしてはいけない.その「あと」はずーーーっとこないことがほとんどだろう.身も蓋もないが.こんなに苦労するんだったら貯めこまずにそのつど “リアルタイム” でほかしまくればよかったと,何年間もの所議報告の山を見つめつつ思うことしきり.紙の束は無慈悲かつ徹底的に捨てるのみ. /〈プロジェクト撤収〉本日の成果:紙=9山・箱=3個.この〈プロジェクト撤退〉はこれから延々と続くことになる. (2017年4月7日)

http://leeswijzer.org/diary2017-04.html#28

この宣言とともにさっそく作業が始まった:

  • 〈プロジェクト撤収〉本日の成果:紙=6山.新年度に入って「捨て癖」が身に付いてきたのか,かなり “暴力的” に廃棄し始めている.昨年度までの所議資料とか義理立て?しないで一掃処分だん.組合の資料とか出講先の大学から毎年律儀に送られてくる便覧類もすべてゴミ箱へ直行. (2017年4月11日)

  • 〈プロジェクト撤収〉の進捗状況:紙=10山,箱=1個.※毎朝の撤収作業が習慣化.後生大事に保存してきた Turbo PASCAL, MASM, MS-DOS, Windows 3.1, Quark XPress, PageMaker などのマニュアル類を一括廃棄.その他,昔の講演要旨集だの研修テキストだの私物の不要本などを “暴力的” に捨てまくっている.捨てまくる功徳のひとつは「失われたモノ」が手元に帰ってくること.ここ数日の〈プロジェクト撤収〉のおかげで,何年も行方知れずだった論文コピーやら資料などが “出土” してとてもうれしい./〈プロジェクト撤収〉の進捗状況:紙=追加1山./ばさっと捨てたのに,また新年度の大学便覧がどさどさ積み上がる. (2017年4月12日)

  • 〈プロジェクト撤収〉の進捗状況:紙=2山.かのなつかしき Eudora のマニュアルが最下層から “出土” した.しばし眺めて即廃棄.(2017年4月13日)

  • 〈プロジェクト撤収〉の進捗状況:紙=2山.今日は驚きの “出土物” はまだない./〈プロジェクト撤収〉の進捗状況:紙=1山.農水省に選考採用で入省したときの辞令とか出てきたりして.(2017年4月14日)

  • 〈プロジェクト撤収〉の進捗状況:紙=1山,箱=4個.旧・進化学研究会の機関誌『Shinka』全巻揃が出土した.(2017年4月16日)

  • 〈プロジェクト撤収〉の進捗状況:紙=3山. (2017年4月21日)

  • 〈プロジェクト撤収〉の進捗状況:紙=1山. (2017年4月24日)

  • 〈プロジェクト撤収〉の進捗状況:紙=2山. (2017年4月25日)

  • 〈プロジェクト撤収〉進捗状況:紙=2山. (2017年4月27日)

  • 〈プロジェクト撤収〉進捗状況:紙=2山.自分の過去の別刷り類を証拠2部を残してすべて廃棄処分.つくづく昔の別刷りなんてのは,一つ残しておけばあとはまったくの不用品.しかも学術誌の紙質はとても上等なので重いのなんのって.(2017年4月28日)

  • 〈プロジェクト撤収〉進捗状況:箱=1山.昔々の書類フォルダーやら書類ボックス類は “古代の空気” を封入したまま居室棚を専有していた.(2017年5月9日)

  • 〈プロジェクト撤収〉進捗状況:紙=1山.雑誌バックナンバーにはさまって昔々の写真たちが “出土” した.今は大御所としてぶいぶいいわせているアノ人もソノ人もかつては髪がもっと黒かった(or多かった)んだなあとしばし時間を忘れる./〈プロジェクト撤収〉進捗状況:紙=もう1山.(2017年5月10日)

  • 〈プロジェクト撤収〉進捗状況:箱=1山.昔々,桜吹雪のように「紙」文書が舞っていた時代にはファイルだのボックスだの文書格納箱が山のようにあったが,さすがに最近は “空気” しか格納されていない無用の長物と化したので,まとめて廃棄した.箱があるから文書を保存したくなるのだ.(2017年5月18日)

  • 〈プロジェクト撤収〉進捗状況:本=3山.書類の廃棄は一段落したので,次は難物の本へ.紙の本は基本的に捨てないことを旨としているのだが,MS-DOS本とかアセンブラ本とかTurboPASCAL本とかBASIC本とか,どう考えても今後のワタクシの人生に不要な本は処分しよう.DOSshell とか Windows 3.0(3.1ではなく!)の解説書のはてまで “出土” して,もういったいどうしようかと.(2017年5月22日)

  • 〈プロジェクト撤収〉進捗報告:紙=2山,箱=大1個.段ボール箱は実にクセモノで図体だけは大きいのに中身は “空気” が大部分とか,賞味期限切れの別刷り類とか,たいていはそのまま廃棄処分してもぜんぜんオッケー.(2017年5月23日)

  • 〈プロジェクト撤収〉進捗状況:紙=4山.※よくもまあこんなに大量の別刷り(紙)をかつては刷ったものだと呆れかえる.しかも上質紙なので重いのなんのって.すべて廃棄して観音台を|彡サッ (2017年5月25日)

  • 〈プロジェクト撤収〉進捗状況:書類・書簡=ダンボール2箱.かつて届いた別刷り請求の手紙や封書を律儀にもすべて保管しておいたが,さすがにもう必要ないだろう.その他,事務書類の遺物なども含めてすべて廃棄.(2017年5月26日)

  • 〈プロジェクト撤収〉進捗状況:別刷類=1山(超重い),箱類=1山.雑誌連載をしたときに毎月数十部ずつ無料で別刷をもらっていたのだが,いや重いのなんのって.「紙」の時代だったら機会を見つけて配布することもあったのだろうが,今の時代,紙の束をもらって喜ばれるとは思えないし. (2017年5月29日)

  • 〈プロジェクト撤収〉進捗状況:5-inchフロッピーディスク=段ボール2箱.すべて1990年代前半の遺物.PHYLIP ver 2.7〜3.4,MEGA ver 1.0 など系統推定ソフトウェアの兵馬俑がずらり.かつての一太郎 ver 3.0 は1.2MBフロッピー1枚で起動したんだぞ. (2017年5月31日)

  • 〈プロジェクト撤収〉進捗状況:書類・ゲラ刷り・OHP類=2山(重い),学会講演要旨集など=1山.今から20年前の『生物系統学』は初校ゲラ・再校ゲラなどすべてをハードコピーで保管していたことにガクゼンとする.溜め込みすぎ.本プロジェクトを開始してほぼ2ヶ月が経過した.廃棄した書類等の合計は「約70山」.整数倍すればあと10ヶ月でさらに「350山」が居室から消えることになる. (2017年6月1日)

  • 〈プロジェクト撤収〉進捗状況:書類=5山,箱=大3個.かつてのJICST抄録記録や過去の学会大会資料がわんさか出土して朝から大仕事に.マジな話,紙の書類は後先考えずにとにかく捨ててしまうのがベスト.あとで使うかもとか後ろ髪を引かれることなく無慈悲かつ徹底的に捨てまくる.ワタクシの昇格書類一式も発掘された.経緯をまとめるとこんな感じ:1989年10月選考採用(2級)→1990年1月(3級昇格)→1995年4級昇格申請着手→1998年9月(4級昇格)→2000年5級昇格申請着手→2005年4月(5級昇格)→現在にいたる.原本廃棄完了. (2017年6月2日)

  • 〈プロジェクト撤収〉進捗状況:紙=3山.古い論文コピーを発掘しようとしたら,予期せず撤収作業に突入してしまった. (2017年6月13日)

  • 〈プロジェクト撤収〉進捗状況:書類=1山.塵も積もれば山となるというか,なんでこんなものまで後生大事に保管しておいたのかと我ながらあきれる紙の堆積物は機会があればどんどん切り崩す. (2017年6月20日)

  • 〈プロジェクト撤収〉進捗状況:紙=1山.ひさしぶりの廃棄作業. (2017年7月11日)

  • 〈プロジェクト撤収〉進捗状況:紙=1山.紙も積もれば山となる.(2017年8月2日)

以上,2017年4〜8月にかけて〈プロジェクト撤収〉は断続的ながらも進捗し,大量の紙の書類は視界から消え去った.しかし,ここでワタクシはうっかり安心してしまい,このプロジェクトはその後1年以上にわたって中断されることになってしまった.

この油断はあとで大きなツケを払わされることになる.というのも,2018年末からワタクシは読売新聞読書委員を2年間務めた.書評候補本が絶えず大量に居室に届き,書類が消えても本は増え続けたからである.すでに大量の本に埋まっていた本棚からあふれだした新刊本たちは,広いテーブルの上で “山脈” を形成し始めた.

新刊本の山脈(2020年6月3日)

事務方が年に一回実施する居室監査で毎回「本を何とかせよ」との忠告を受けるようになったのも無理はない.しかし,その後も本の山はその標高を上げ続け,地震のたびに “崩落” を起こす状態になった.

地震で崩落した本の山(2020年3月17日)

これはもう out of control というしかない.

〈プロジェクト撤収〉の再起動と結末


時の流れは冷酷である.ワタクシがいくらじたばたしたところで,再雇用期間には終りがある.最後の年である2023年に入って,ワタクシはずっと目を背けていた事態がきわめて重篤であることに直面する.

  • 〈プロジェクト撤収〉—— この年度末でなろから完全撤収するので,大量の本の行く末を含め,本格的にいろいろ動き出さないといけない. (2023年2月20日)

  • 午前中は契約している貸し倉庫の点検.しばらく見に行かないうちに,地震で箱が落下していたり,たたんだマリンバが倒れていたりとけっこうなカオス.処分すべき粗大ごみをクリーンセンターに運び込んで,本を格納するスペースをつくらないと.マリンバを自宅に持ち帰れば倉庫のスペースはかなり広がるのだが,こんな巨大な楽器を組み立てたら,生活スペースが激減してしまう.半世紀前のデフォルトは4オクターブだったのでまだマシ.現在の主流の5オクターブだったりしたら,暮らす場所がなくなってしまう.マリンバは巨大すぎる. (2023年2月28日)

  • 貸し倉庫の大掃除で湧き出した粗大ごみどもをつくば市クリーンセンターに搬入.まだまだ先は長い.(2023年3月2日)

  • ホームセンター〈山新グランステージつくば〉に出撃し,本収納用段ボール箱や布テープ類そして軍手など作業用品を買い漁った.何回ここと往復することになるのやら. /貸し倉庫の断捨離は続く.とにかくスペースをつくらないことには本の搬入ができない. (2023年3月3日)

  • お昼前から夕方まで本の詰め込みと運搬作業.この調子だと月末まで続きそう./今日は文庫本と新書300冊あまりを梱包して倉庫に移動.膝が笑う週末. (2023年3月4日)

  • 土日祝日まったく関係なく本の梱包は続く.こんなのはまだ序の口の準備運動で,本丸の天守閣にはこの何十倍くらいの本の山が積み上がっている.心が折れないように “整数倍の呪い” を唱え続けている. (2023年3月5日)

  • 「ベルリンの壁」ならぬ “本の壁” を築かねばならぬそうなので,朝から “石積み” に励んでいる.先は長いが,早くも膝が笑い始めている. (2023年3月6日)

  • ひたすら本を詰めて箱を廊下に積み上げる.ただそれだけの単純作業が毎日続いている.(2023年3月8日)

  • ただひたすら本を梱包するのみ. (2023年3月9日)

  • 本の詰め込み労働は今日も続く./よく晴れた午後.最高気温は23.0度に達している.しかし,窓を開けたりしたらタイヘンなことになるので,密室の中でひたすら本の山を切り崩す. /連日,足腰に負担がかかる “肉体労働” に勤しんでいる. (2023年3月10日)

  • 段ボール箱を抱えて農林団地へ向かう禁欲的な週末.本の詰め込み作業に休日はない. /夕暮れ,廊下に段ボールが積み上がったので,今日はこのへんでオシマイにしましょ.(2023年3月11日)

廊下に築かれた “城壁” (2023年3月11日)
  • 居室外の壁際は安土城の石垣のようになってきた.一方,かつて “本の山” がそびえ立っていた室内はいまやあとかたもなく. (2023年3月12日)

居室内の本の山の撤去(2023年3月12日)
  • 午後は洋書のサイズ計測をする.和書とはちがって判型の “ダイバーシティ” がいろいろすぎてもうタイヘン.連日,何百冊もの本を箱詰めしているが,いよいよ “巨岩” どもが目前に迫ってきた.寸法は測ったので,明日さっそく段ボール箱を買いに行こう. (2023年3月14日)

  • 本の “城壁” はなおも延伸し続けている.初版OED全17巻を積み上げるのは難行苦行.江戸時代の「石抱き責め」の拷問を髣髴とさせるものがある. /OEDに続く大物は “日国” 全14巻.函入りのものものしさよ.向こうの端には Van Dale の蘭語大辞典(全3巻).オランダ語の辞書はワタクシの図書室にはいくらでもある.いずれにしても辞書は紙のカタマリなので,大挙して攻めてくるとタイヘン. (2023年3月15日)

日本国語大辞典の梱包前(2023年3月15日)
  • 本詰めあるのみ. (2023年3月16日)

  • “本の山” の登攀とともにしだいに巨岩が行く手に立ちはだかる.今日の格闘メインイベントは『チャールズ・ダーウィン書簡全集(CCD)』(vols. 1〜29).あと数年で完結すれば30巻を超える.さて何箱に分けて詰め込むことになるだろうか. (2023年3月17日)

ダーウィン書簡全集の梱包(2023年3月17日)
  • しめっぽくうすら寒い土曜の昼下がりに黙々と本を詰め込んでいる.ダーウィン書簡集(CCD)の詰め込みが終わったら,次はダーウィン全集だ. /手前のマーブル模様の天金ハーフモロッコはアップルトン版ダーウィン全集(1897年,全15巻).奥の大判はピカリング版ダーウィン全集(1986年,全29巻)/さらに,奥の2巻はダーウィン『人間の由来』(1871年,ジョン・マレー,初版),その隣の5冊は旧ダーウィン書簡集(ジョン・マレー3巻+アップルトン2補巻).この辺の資料は “持ってるもん勝ち” やな. /今日は最高気温9.0度の冷え冷えした一日だったが,明日も本の運搬苦役は続く.どこまで続くぬかるみぞ. (2023年3月18日)

ダーウィン全集2セットの梱包(2023年3月18日)
  • 日曜の┣┣" 撃ち —— しかし,お外がどんなに春めいていようが,ワタクシが撃つべき┣┣" は居室の中で吠えまくっている.今日もせっせと箱詰めして,そろそろ運搬・搬入のことを考えないと “〆切” まで間に合わない.今回の〆切様は無慈悲なので袖の下はいっさい通用しない. (2023年3月19日)

  • 連日の “伐採作業” により,居室の中央平原地域とその周縁部の灌木帯はすべて刈りつくされた.しかし,ワクガイには人跡未踏(?)のアリストテレス原生林が生い茂り,中世思想原典沼やユングの “赤い本” が生贄を待ち構えている./居室の中はすっかり明るくなったが,廊下に築かれた “城壁” はさらに果てしなく延伸している.複数の関係者のタレコミによれば,かのK谷E一センセの箱崎から伊都への引っ越しの際にも同様の “本の壁” が出現したとのことだ. (2023年3月20日)

  • 合間に本を詰め続ける.(2023年3月27日)

  • 本の詰め込み作業は果てしない.搬出はまちがいなく年度をまたぐだろう. (2023年3月29日)

  • 今日はなろでの “最後の日” なので(公式には),本詰め以外の┣┣" がわらわらと湧いている.なろ退職辞令を先ほどもらってしまいましたので,本日中にいろいろ整理していきます.辞令交付式はまっとうな他の6人はスーツ姿だったが,ワタクシは肉体労働があるので半袖のアロハという場違いこの上ないいでたち.ま,いいでしょ./そんなこんなはともかく,居室本の詰め込みと搬出がぜんぜん進んでいないので,それは必然的に “次年度送り” となる.えらいこっちゃ./ということで,最後のじたばた作業にもかかわらず,当然の帰結として〈プロジェクト撤収〉は年度をまたぐことになった.(2023年3月31日)

  • ここにいないはずのワタクシは居室にてひたすら “残務処理” に勤しんでいる./ 一ヶ月に及ぶ肉体労働により,さしもの「本の山」も着実に掘り崩されつつあるが,その一方で跡地に「箱の山」がそびえ立っている.アヤシげな箱もちらほらありますなあ.これを搬出することを考えただけでギックリ腰になりそう. (2023年4月1日)

  • 夕暮れの観音台.室外の “万里の長城” だけでなく,室内にも「立山黒部アルペンルート」みたいな “壁” がそびえ立っている.やっとゴールが見えてきたので,今日はこのへんでおしまいにしよう. (2023年4月2日)

居室内の本の壁(2023年4月2日)
  • 本詰め作業は今日も(明日も)続く. /本がすっかりなくなってしまった本棚で,こけしたちがさみしそうに立っている.木地山系・小椋久太郎作の伝統こけし. (2023年4月4日)

  • 居室外の “万里の長城” の崩落リスクが高いとの所長直々の指摘を受け,速攻で “善処” いたしました.その結果,となりのセミナー室が “書籍流” で埋まったことはまだ公にはされていない.段ボール箱の移動にご協力いただいたみなさん,どうもありがとうございました. (2023年4月6日)

  • 目の前の本箱は空っぽになり,半世紀近く使い続けた Auratone スピーカーとバッハ伝(全4巻)そしてこけしがぽつんと立つばかり. /居室の “砦” の解体後.その向こうにそびえ立つのは何人たりとも寄せ付けない “アイガー北壁” だ.壁際のクレバスに落下してしまった哀れな本たちは,何十年もの間,奈落の底に横たわる “屍” として静かに時を刻んできた.それももうすぐ終わる. (2023年4月7日)

机まわりの片付け(2023年4月7日)
机周囲の書棚の撤去(2023年4月7日)
  • 立つ鳥跡を濁しまくる新年度.今日も残務処理を引きずりつつ観音台へ./最後に残された “アイガー北壁” に挑んでいる.まずは手前の “ガレ場” を一掃してクレバスへの道を確保した.東日本大震災で奈落の底に落ちたままずっと横たわっていた東大出版会『講座・進化』(1991〜92年)の第4巻と第6巻を救出し,十余年ぶりにやっと全7巻がそろうことになった.善哉. (2023年4月12日)

アイガー北壁の全容(2023年4月12日)
  • 今日は朝から “アイガー北壁” 登攀中.手前に空っぽの本棚を移動し,奥の壁に取りつく.手を突っ込むたびにトンデモナイ昔の “化石” が次々に出土して時の流れを感じる.Ernst Mayr, George G. Simpson, Stephen J. Gould の本はそれぞれ別の箱に格納した. (2023年4月13日)

  • 日々の力仕事の成果の積み重ねは “アイガー北壁” の制圧へと一歩ずつ近づいている.とりあえず “壁” の数カ所に穴を空け,淀んだ邪気が消え去り,爽やかな空気が通るようになった.ウラ側からは観音台の遠景が見渡せるまでになった. (2023年4月14日)

アイガー北壁に穴を貫通する(2023年4月14日)
  • 日曜の半日がかりの作業の末, “アイガー北壁” の登攀成就.すべての棚はからっぽになり,数百冊の雑本をとりあえず廃棄することになった(たとえば賞味期限の切れたコンピューター関連本などがホコリをかぶってうず高くつみあがっていて,それらはすべて廃棄対象本となる).このあとは “下山” という運搬任務が待っている.それは週明けの任務. (2023年4月16日)

  • 今日は貸し倉庫への本の搬入の下準備.箱の詰替えをしないといけなくなった.前途多難. (2023年4月17日)

  • 午前中は貸し倉庫の整理と “最密パッキング” の事前準備.かぎられた三次元空間にどこまで本を詰め込めるかという実践的問題を解く. (2023年4月20日)

  • 今日も夏日.午後の気温は27.3度まで上がっている.週末は本の一挙搬入をするので,貸し倉庫の搬入事前準備.できるだけ空白スペースを広げるべしという天命が下されている.捨てるもの,搬出するものいろいろ.季節外れの暑さの中,肉体労働は続く. (2023年4月21日)

  • マリンバのパーツを自宅に運び込むだけで半日かかってしまった.もちろん組み立てることは考えていない(マリンバの “下” で生活するつもりはないから).予定よりも大幅に遅れて観音台へ. /さてこれから夜遅くまで本の搬出作業に没頭する. /午後6時前,夕日がやけにまぶしい農林団地.まずは30箱を旧研究室から搬出した.冊数にして400〜500冊か.まだまだ先は長い. /夜の┣┣" 撃ち —— 午後10時過ぎまで農林団地と貸し倉庫のピストン往復して70箱ほどを搬出した.本日の成果は計100箱となった.冊数にして2,000冊くらいか.このペースで明日も手際よく進捗してくれればいいのだが…… (2023年4月22日)

  • さわやかな初夏の風が心地よい昼下がり,午後1時の気温は18.3度とこれまた快適な気温.本の搬出が捗るのももっともな日和だ.午前中に30箱あまりを運び出したので,旧居室はやっと空っぽになった.かくしてかつての “本の山”は皆伐されてしまった.更地に漂う寂寥感.つわものどもが夢の跡. /午後も夏のような空が広がっていた.午前に続き,さらに30箱あまりを搬出し,本日の肉体労働はこれにておしまい.この作業を一日6時間以上続けるのはムリっぽいことがよくわかった.それにしても貸し倉庫の上限が見えてきてしまったな(困った……). (2023年4月23日)

ほぼ更地となった居室(2023年4月23日)
  • 午前中は部屋の中の細々したモノを片付けたり,呪いの御札たちをはがしたりして,邪気を払う清らかな空気が吹き抜けていく昼下がり. /曇り空の午後も涼風が吹く.最高気温は15.8度止まり.こういう快適な日和だと本の搬出もススムというものだ.しかし,今日の成果は24箱(≒500冊).しかし,明日中に貸し倉庫は “K値” ラインに到達するだろう. (2023年4月24日)

  • このところ旧居室のいたるところに貼ってまわっている “廃棄シール” .何でもかんでもみ〜んなほかしといてぇ./午前の搬出は計25箱.あと30箱は貸し倉庫に詰め込めるか. (2023年4月25日)

  • 今日は本の運び出しができない空模様なので,分別作業に勤しむことにする. “ほかして下さい” シールがまた増える./ 明日晴れれば搬出作業の再開だ. (2023年4月26日)

  • 紫外線たっぷりの陽光と薫風にそよぐ新緑を眺めつつ,午前の搬出作業は26箱.これにて貸し倉庫は計260箱で満杯になった.あとの数十箱はコッソリ自宅に持ち帰って隠匿するしかないな. (2023年4月27日)

  • 明日は本の搬出作業.貸し倉庫が満杯になったので,残りは自宅へ運び込むことになる. (2023年4月28日)

  • それにしても,本の運搬作業が果てしない./ 今日の午前と午後で計40箱を搬出.ゴールデンウィークといえども休みなし. (2023年4月29日)

  • 午後になって雨は小止みに,空も明るくなってきたので,本の運搬に観音台へ向かった.ところが,また不穏な雲行きになり,雨がぽつりぽつり.ある巨大な鈍器本を積もうとしたら “子泣き爺”のように重くなり,蒸し暑い南風とともに雨足が一段と強まった.ユング『赤の書』の祟りおそるべし.しかし,雨ニモマケズ風ニモマケズ,20箱を搬出した.これでなろの廊下には何一つ箱は散乱していないぞ,嘘だと思ったら観音台へ行って検分せよ.ただし,誰もセミナー室の中を見てはならぬ. (2023年4月30日)

  • 本日は計52箱を搬出完了して足腰がへろへろに.連休最終日の明日にはすべて空っぽになる予定だが雨だと困るなあ. (2023年5月6日)

  • 午後は新しい本棚の設置.雨降る中をスチールラックを引きずって帰宅.組立て作業と本の配架.足腰が立たなくなる. (2023年5月7日)

  • からりと心地よい青空のもと今日も本の運搬.午前中に16箱.午後は都立大のオンライン高座.なろ退職前よりもはるかに忙しい気がするのは錯覚か. (2023年5月9日)

  • 三ヶ月に及ぶ撤収プロジェクトの最後の最後に,ワタクシの机まわりの後片付け.三十年あまりにわたる過去の遺物や式鬼たちをちぎっては投げ丸めては捨てる.かくして観音台に “神々の黄昏” が訪れ,なろに暗黒をもたらした “悪の巣窟” は跡形もなく破壊されたのだった.その跡地の証拠写真. (2023年5月11日)

何もなくなった更地から廊下が丸見え(2023年5月11日)
  • 居室に刻まれたありとあらゆる証跡を消し去るべく朝から最後の大掃除.机周りはもちろん冷蔵庫の隅までチェック完了.アンプやスピーカーなど音響機器もすべて撤去.漂う空気が清らかになっていく.同じ部屋に長年住み続けると,出るときの “初期化” がほんとうにタイヘン.今日は8箱を搬出.ゴールはもう目前だ. さあ,これで終わったと思ったら,背後の壁に貼られていた「魔除けの御札」を剥がし忘れていた.なろ的には “役に立たない” 研究をしようと思い立った1991年にたまたま手にした西洋音楽の系統樹ダイアグラム.日々これを見ながらワタクシは好き放題し続けたのだった. (2023年5月12日)

西洋音楽の系統樹はワタクシの免罪符(2023年5月12日)
  • 本日午後,旧居室のすべての物品を搬出完了.音響機器やら本棚やらけっこうなかさばり方だ.いくつかは週明け早々にもつくば市のクリーンセンターに直行することになる.本格的に〈プロジェクト撤収〉が動き始めたのが2月末だったので,かれこれ3ヶ月ほどかかってしまったことになる.独力で “図書館” まるごとひとつを撤去したようなものなので,進捗記録と経過写真は心して保全するよう気をつけた. (2023年5月14日)

  • 雨の中をつくば市サステナスクエア[クリーンセンター]までひとっ走り.旧居室にヒソカに隠匿されていた粗大ごみどもを全部放り込んできた.これで証拠隠滅は完了だ.ワタクシの証跡はもうどこにもないぞ. (2023年5月15日)

  • もうここに来ることはない(≒来てはならぬ)はずだが,公費購入本の図書室への返却という残務がある. 公費購入本を並べてみた.冊数それ自体は百冊にも満たないが,『オックスフォードラテン語辞典(2巻)』『広説佛教語大辞典(4巻)』『西洋古典学事典』『世界シャクガカタログ(2巻)』『ダーウィニズム進化学事典(3巻)』など投げれば兇器となる “鈍器本” が揃い踏み.どこかの誰かがいつの日か有効利活用してくれることをむなしく願うのみ. (2023年5月16日)

公費購入本の返却準備(2023年5月16日)
  • 公費購入本の図書室搬入作業は完了.残りの私蔵本たちは,研究室に寄付する本と「ご自由にお持ちください」本に分けたので,ご入用の方は農環研まで引き取りに来てください./これにてワタクシの “年度またぎ延長残務処理” はすべて完了.居室のカギと入館カードを返却し,はれて “なろの外の人” になる.残念ながら,新町遊廓のような「足洗いの井戸」はないが,長年にわたって根を生やした部屋はきれいに “初期化” されたはず.次に入る人に祟ることはきっとないだろう. (2023年5月17日)

三中ライブラリーからの除籍本たち(2023年5月17日)
  • 新緑の農林団地に忍び込み,昨日自宅で出土した公費購入本を返却に.あと,ダーウィン全集と同書簡集の “端本” を「ご自由にお持ちください」棚に並べましたので,どうぞ.早いもん勝ちです.(2023年5月18日)

以上をもって,今回の〈プロジェクト撤収〉は完了した.

〈プロジェクト撤収〉の総括と反省点


以上の通り,当初の予定を大きくはみ出して,年度を2ヶ月近くもまたいでしまうという前代未聞(「空前絶後」とのカゲの声あり)の延滞になってしまった.今にして反省するとその理由はいくつか挙げられるだろう:

  1. 搬出すべき本の冊数が5,000〜6,000冊に達していたこと.この冊数は使用した段ボール箱の個数が約400個だったことから推定される.また,梱包と運搬はすべてワタクシひとりで自家用車に積み込んで行ったのでよけいに時間がかかった.総重量は1〜1.5トン程度だったと推測される.

  2. 貸し倉庫と自宅への搬入準備に手間取ったこと.とくに,貸し倉庫と自宅には無限の収納スペースがあるわけではないので,事前に捨てるべきものは処理しておくべきだった.結果として貸倉庫にはおよそ270箱,自宅には130箱ほどを運び込む上での律速段階となった.

  3. 最初の〈プロジェクト撤収〉をそのまま地道に続けていれば,もっとスムーズに撤収作業を進められたのかもしれない.堆積書類を廃棄した時点で中断してしまったのは大きな敗因の一つだったにちがいない.

おわりに


大量の本や資料を抱えている研究者は世に少なからずおられるだろう.ワタクシひとりの体験がどれくらい役に立つかはわからないが,実際に体験してみて気がついた点をこれから〈プロジェクト撤収〉をする人への提言としていくつか挙げておこう:

  1. 保管場所を事前に確保すること.ワタクシが所蔵するくらいの冊数でもすべて自宅に持ち込めば生活空間がなくなり,場合によっては家庭不和にも発展しかねない.事前に売却や廃棄などで冊数を減らす手もあるが,そうでないならば別宅や貸し倉庫など然るべき保管場所を確保しておくことをおすすめする.

  2. “整数倍の原理” に逆らうべからず.こういう撤収作業はつい後回しにしてしまいがちだが,少しずつでもコンスタントに作業を進めれば一歩ずつ進捗がある.ワタクシの場合,一日たった一箱の本を毎日運び続ければわずか一年で撤収作業は完了したはずだ.

  3. 段ボール箱のサイズは “極小” にすること.通常の引っ越し作業に用いられる段ボール箱は大きすぎるので,本を詰めると重すぎて抱えきれなくなる.とくに独力で梱包・運搬をする際には,使う段ボール箱の容積は「上限15L程度」を心がけよう(本の判型によって箱の形状を選択する).この極小サイズだと,箱いっぱいに最密パッキングしても膝や腰にさほど負担をかけることなくひとりで運べるし,積み重ねても箱が重みでつぶれることはない.

今回使用した段ボール箱の仕様

追記


この〈プロジェクト撤収〉顛末記は,ワタクシが30年以上かけてつくった “本の城” がどのように消えていったのかを書き残すための文章だ.心地よい “サードプレイス” としての「キャレル」は時間をかけて自分でつくりあげるしかない.たとえ外見的には乱雑に見えても “住民” にとってはとても心地よい空間だった.

かつてここにあったキャレル

これから〈プロジェクト撤収〉に従事されるみなさんにシアワセが訪れますように.

[2023年5月20日記]

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