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あの頃・その4

1987・ビート革命

ディスコやダンスホールで流れる音楽は、16ビートであることが多いです。それも横揺れや跳ねをともなうような。

 ちょっと古いですが、ここいらへんが分かりやすいと思います。この曲でヘッドバンギングやフィストバンギングはできませんよね。頭より腰にくる音楽というか。1969年生まれの僕たちよりもちょっと上の世代の方々は、こんな音楽で踊っていたはずです。これが80年代後期から90年代に入ってくると、ユーロビートが台頭してきます。

 リズムが性急になりシンセサイザーを多用、パーカッションの主役はリズムマシーンとなります。デイブ・ロジャースの方はヴォーカルトラックも無くサンプリングを多用していますね。デッド・オア・アライブはヴォーカルがある分、過去のダンスミュージックの残り香があります。
 僕なりの解釈ですが、ディスコやダンスホール、クラブに通う人たちは「踊る」「ビートにノる」という行為を極め続けた結果、70年代に主流であった人間が演奏するがゆえの、ビートの振れ幅に身を任せる事よりもBPM(テンポ)を上げて、マシンによる感情を廃したビートに突き動かされることに快感を得るようになったのではないでしょうか。そうしてこの勢いはそのまま加速してゆく事になります。

1989・殴り込みビート

 この頃のメガデスのライヴ前に流れる音楽が話題になります。

 ・「なんか打ち込みのビートに歪んだギターとヴォーカルが乗っかってる激しい音楽が流れてる」
 ・「無闇やたらに暴れ出したくなる。同時に踊りたくなる」
 ・「メタルじゃないと思うんだけど、異常にかっこいい」

 その情報は瞬く間に拡散されていきます。インターネットの普及率がまだ低い頃とはいえ、そのスピードは結構速かった記憶があります。
 バンド名はミニストリー、と言うらしい。
 僕は当時のバンドのベーシストMと一緒に福岡のインディーズ系や輸入盤を探し回りました。
 Mは僕とミスタービッグやTNT、バッドランズのコピーバンドをやっていましたが、本来はクリフ・バートンを信奉する生粋のスラッシュメタラーです。ベーシストでありながら、ギターでスラッシーなリフを弾かせたら、その切れ味はなかなかなものです。
 とはいえ、負けたくない。
 メタラー同士の妙な競争心がありました。
 そして僕は、当時福岡市中央区大名にあったボーダーラインレコードでついに見つけました。アルバムタイトルは『ランド・レイプ・オブ・ハニー』
 
 

  これを初めて聴いたのは20代半ばです。
 衝撃。
 それまで全く聴いたことの無い音でした。歪んだヴォーカルに歪んだギター。ドラムも図太く歪んでいます。それもディストーションというより、ファズっぽいザラザラしたやつ。そして無機質で性急な打ち込みのビート。それまで僕が聴いた所謂打ち込み音楽とは、全く違いました。これはかっこいい。メンバーはアル・ジュールゲンセンとポール・バーカー。基本は二人だけですが、ライヴではこれを人力で演るといいます。しかもドラムは2人。 
  
 Mももちろん夢中になりました。「これヤバいね」CDをコンポで鳴らしながら2人でコピーしたのは良い思い出です。もちろんギターもベースもアンプに繋がずに。
 このころ、こんなアルバムも入手しました。

 3曲入りEPのラストナンバー。なんと1曲30分越えの曲。

これは、まだミニストリーっぽい。

 デッド・ケネディーズのヴォーカル、ジェロ・ビアフラとミニストリーのコラボ作品です。ジェロの声がちょっとコミカルな感じですが、音はミニストリーですね。これも当時日本盤がリリースされており、配給は泣く子も黙るトイズファクトリーでした。
 しかし、マニアの間で本当に衝撃だったのはミニストリーの1stアルバムだったらしいのです。

 らしい、というのも当時の僕にはあまりピンと来なかったからです。それは歪んだギターの不在でした。しかし、今聴いてみると当時これだけ図太いビートを鳴らしていた事実は認めざる得ない功績でしょう。彼らはEDM(エレクトリック・ボディ・ミュージック)という新たなジャンルを確立したのです。
 先ほど紹介した『ランド・レイプ・オブ・ハニー』は2ndアルバム。1stの『トゥイッチ』の間に、何らかのケミストリーがあったと推察されます。それはおそらく、ラードで共演したジェロ・ビアフラあたりのハードコアパンク人脈との交流ではなかったか、と僕は推察します。

1989・世紀末ええじゃないか

 世紀末最後の10年に入りミニストリーは自身の決定打になる作品を投下します。それが『ザ・マインド・イズ・ア・テリブル・シング・トゥ・テイスト』です。

 中でも2曲目の『バーニング・インサイド』は別格です。今でも聴くと血の昂りを抑えきれません。冒頭。フェードインから始まるのですが、サンプリングされたノイズに被せて、歪んだドラムにリバーヴをかけたパーカッションが切り込んできます。このビートがどうにも扇情感を煽る。踊ってもよし、暴れてもよし。ダンサブルでありながらバイオレンス。これでノらなければどこでノる、といった具合です。
 僕はメガデスの『カウントダウン・トゥ・エクスティンクション』に伴うツアーの福岡公演に参加しましたが、その出囃子にもこの曲が使われてましたが、本番までの繋ぎには最高でした。「これか!この状況を海外のキッズは体感していたのか!」
 僕とMも本番前から翌日のことも考えずにガンガンに頭を振ったのです。おかげで、翌日は首がイってましたが…。
 ミニストリーが起こしたこのビッグウェーブは全世界に波及してゆきます。マシンビートにサンプリングやシンセサイザーを絡めて歪んだギターとうねるベース、扇情的な音楽を「インダストリアル・ロック(メタル)」と呼称するようになります。バブルが崩壊し、世間には世紀末最後のバカ騒ぎ、もーどうにでもなれや、踊れ!頭振れ!という泡沫状態にちょうどいい音楽でした。
 しかし、インダストリアルという音楽ジャンルはもともとありました。

 アインシュテュルツェンデ・ノイバウンテン。質実剛健たるドイツが産んだバンド、というより実験集団と言った方が良いかもしれません。ひたすら暗く重く、実際にハンマーやチェーンソウで金属をいたぶる音をコラージュした作品です。もはやアートパフォーマンスと言った方がしっくりくるかもしれません。これがアメリカに輸入されてより具体的な実態を獲得したものが「インダストリアル・ロック(メタル)」という形になったようです。ニューヨークのスワンズにも通じるものがありますね。
 インダストリアル・ミュージックは非常に定義が難しい。
 玄人さんに言わせると、アメリカナイズされた作品は当てはまらない、と言われる向きもありそうですが、ここでは一応上記のような解釈とさせていただきます。

 

1992・恐怖、シンクロビート

 ミニストリーによって全世界にばら撒かれたインダストリアル・ミュージックの因子は、さまざまに変化していきます。
 当時BURRNのディスクレビューにこんな作品が掲載されました。
 

 所謂デスメタルとして紹介されたのですが、確かにヴォーカルはダミ声咆哮型で、デスメタルではある。しかし、バックのサウンドはドラム、ギター、ベースは正確無比に疾走してゆく。ブレイクパート冷ややかなシンセの音は、ノイバウンテンやスワンズを想起させます。
 人力インダストリアルメタルバンド、フィア・ファクトリーのメジャーデビューアルバム『ソウル・オブ・ア・ニューマシン』がそれでした。
 彼らは「人間対機械」をコンセプトして作品をリリースしてゆくのですが、自作でその方向性を盤石なものとします。

 2nd、『デマニュファクチャー』は、各パートのシンクロ度が増し、無慈悲に蹂躙進行してゆきます。
 僕とMもすぐに飛びつきました。が、ギターソロはいっさい無し、リフリフリフリフで押し通すディーノ・カザレスのギターは、とてもコピーできる代物ではありませんでした。これ以降も彼らは「人間対機械」のコンセプトを押し進め、それまで味付け程度だったニューウェーブの要素もどんどん取り込んでゆきます。

 バートン・C・ベルはほとんどクリーンな声で歌い、ディーノのギターもクリーン・サウンドを中心に弾いているし、キーはメジャーキーです。中間部分はマイナーになりますが。特にバートンは、ジョイ・ディビジョンやその後のニューオーダー、クラフトワークなどのポストパンク勢にも興味を持っていたため、そちらの趣向が反映されたのでしょう。そのあと彼らは活動休止を経て解散。その後ディーノ抜きで再結成、ベースだったクリスチャン・オールド・ウォルバースがギターに転向して活動再開、その後もごちゃごちゃあって、現在のオリジナルメンバーはディーノ1人だけです。
 無慈悲なビート全パートがほぼユニゾンして突貫する様は、いつ聴いても圧巻です。最近は少しマンネリだなあと思うこともありますが。

2007・彼の地では

 ダンスミュージックから始まった打ち込み音楽の流れをざっと書いてみました。インダストリアル・ミュージックはさらに深化と進化を繰り返し、ダンスミュージックとの垣根すらとっぱらい、キッズを夢中にさせています。
 それは日本でも同じことで、なかなか面白いバンドが出てきました。
 最後に紹介するのは日本のバンドです。

 Fear,and Loathing in Las Vegas。通称フィアなんちゃらと呼ばれているバンドです。インダストリアル・ミュージックから派生したピコリーモにも影響を受けているバンドだと思います。アニメ『封神演義』のオープニングですが、まさに踊ってよし暴れてよしのバンドですね。この頃からでしょうか、このようなロックをミクスチャー呼ぶようになっています。
 彼らはこの後も進化を続け近年も活動を続けているようです。

 駆け足でダンスビートとエクスリームミュージックの親和性を僕なりにまとめてみました。語るべきバンドはまだまだいるのですが、ここいらへんで。
 ダンスもロックも内包した衝動性を局所拡大してゆけば、同じようなフィールドに辿りつくんだな、と改めて思った次第です。

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